「遅れてごめんね、希美ちゃん」
朋子が半泣きになった
咄嗟のことではあったが
数ある武具の中でも
(わたしはずっと、こうしたかったんだ)
今になってその事実に気づく。
生き存えたとき、未来は自分が何をやりたいのかさえ考えることなく、死者復活の計画に乗ってしまったが、それはやはりハルメニウスに誘導された結果だったのかもしれない。
「先生、とりあえず希美ちゃんを連れて帰っていいですか? 彼女、
朋子が訊くと、篤也もこの時ばかりはふざけなかった。
「ああ、この場は私に任せろ」
円卓のスタッフがやられたため、事後処理のための部隊は別の支部から派遣されることになっている。それなりに距離があるため、到着には、まだしばらくは時間が必要だ。
「未来さんも先に戻ってお休み下さい。今日は転校初日ということもあってお疲れでしょうから」
エイダに告げられて、未来は素直にその厚意に甘えることにした。確かにいろいろありすぎて、とりわけ精神的に疲労を感じている。
「帰るわよ、バニーちゃん」
希美に声をかけるが反応がない。
そこまで落ち込んでいるのかと思って視線を向けるが、どうやらそういうわけではなく、ただ考えごとに没頭していただけのようだ。
何を考えているのかも気になったが、それ以前にその後ろ姿に目を惹きつけられる。際どいスーツから飛び出た網タイツに覆われたヒップが、強烈なエロティシズムを発していた。
同性のお尻に執着する趣味はないが、藤咲あたりが見たら、どれほど喜んだことだろうか。
(それにしても綺麗なラインをしてるわよね)
などと考えつつ、そっと手を伸ばしてなぞってみる。
「ひぃやぁぁぁぁーーっ!」
希美は悲鳴をあげて跳び上がった。
「な、なんだ!? なんなんだ!? 変態なのか、君は!?」
「まさか」
澄まし顔で未来は答える。
「ただ、そのお尻がさわってくれって言ってる気がしたから」
「言うかーーっ!」
「だが、尻は口ほどにものを言うというしな」
真顔でつぶやくセクハラ教師。そのままそっと手を伸ばそうとする。
「どれ、私もひとつ――」
「ひぃぃぃぃっ!」
逃げ出す希美。いつの間にかそこに立っていた女性の背後に身を隠した。
その女性の顔を見て篤也がギョッとする。彼女は満面の笑顔を篤也に向けていたが、眉のあたりが引きつっていた。
「ひ、耀……」
「男の人は歳を取るとスケベになるって本当みたいね、篤也くん」
「いや、これはその……ジョブチェンジの弊害で」
まるでゲームのようなことを口にする篤也。
「そういえば前にもそんなことを言っていたわね。確かロリコンになったとか」
「うむ、今度はさらに、セクハラ教師にジョブチェンジしたのだ」
「おかしなジョブばかり選ぶな!」
耀のビンタが炸裂して篤也はきりもみを起こしながら地面に倒れ伏した。
「エ、エイダ、あとは任せた……」
呻くように言って瞼を閉じる。
そんなふたりのやり取りを、未来は目を丸くして見つめていた。
篤也はもちろんだが、こんな耀を見るのも初めてのことだ。まるで普通の少女のように嫉妬して拗ねている。
やはり自分も耀もハルメニウスの影響で変わってしまっていたのだろう。
未来はそれを実感しつつ、緊張感のない仲間たちを前に苦笑交じりの溜息を吐いた。