サイドカーを借りにいった時、朋子の従兄はこう言った。
「サイドマシンと呼んでくれ」
「特撮に影響されすぎだよ、ハル
「ロマンの分からん奴だなぁ」
彼は苦笑しつつも、すぐにサイドカーを貸してくれた。
外観自体は特撮にありがちな玩具っぽいものではないが、その作品への影響か側車が普通と違って右側に付いている。
日本では通行帯の関係で左側に付けることが多いのだが、べつに法律で定められているわけではない。
いちおう、ハル兄こと月見里天晴の弁によれば、この方が走りやすいとのことだ。
朋子にはピンと来ないが、運転には少々慣れがいる。
加速すると、それだけで側車側に曲がり、減速すれば反対に曲がろうとするのだ。
普通のバイクのように車体を倒しながらコーナリングするわけにはいかず、それどころか右に曲がる時と左に曲がる場合でも挙動が異なっている。
だが、そういうところも含めて、こいつの運転は楽しかった。
しかも今はとびっきりのバニーガール美女を隣に乗せているのだ。
「どうかな、希美ちゃん。このまま湾岸の方までツーリングと洒落込まない?」
少しでも長く希美を乗せていたくて提案したのだが、色よい返事は返ってこなかい。
「朋子先輩はわたしが嫌いなんですか……?」
「いや、好きだから、言ってるんだけど?」
「だったら、一秒でも早く家に送り届けて下さい。こんな恰好で、寄り道とかさせられたら、たぶん死にます……」
それは残念――などと思ったが、さすがに口には出さなかった。
「了解」
さすがに法定速度を無視するわけにはいかないが、可能な限りの最短ルートを選んで希美のマンションへと向かう。
心地よい夜風を浴びながら、ふとサイドミラーに視線を向ければ、愛くるしいバニーガールの姿が目に入る。できることなら、なんとかその姿を写真に収めておきたいが、さすがにそれは受け入れてもらえないだろう。
ただでさえ、最近少し警戒されている気がするので、これ以上信用を失うのは得策ではない。
ちなみに、朋子はべつに同性愛者ではない。
……ないはずなのだが、なぜか希美対しては、少しばかり邪な気持ちを抱いてしまうのだった。