試合で魔力を使ったので、甘いものが身に染みる。とてもうまい。
古代竜のお菓子を選ぶセンスは中々なものらしい。
「もぉぅ」
モーフィはテーブルにあごを乗せている。
そんなモーフィにコレットやヴィヴィがお菓子を食べさせていた。
「モーフィ、おいし?」
「もぅ!」
「どんどん食べるといいのじゃ」
コレットもヴィヴィも楽しそうだ。
自分で前足をテーブルの上に乗せて、お皿からお菓子を食べればいいと思う。
確かに行儀が悪いかもしれないが、牛にマナーを求める人はあまりいないだろう。
実際フェムはそうしている。
「これは気付かず、申し訳ございません」
古代竜の一人が、お菓子をフェムとモーフィの食べやすい位置に移動させた。
テーブルのふちにお菓子があれば、フェムもモーフィも椅子に座ったまま食べられる。
『ありがとう』
フェムはお礼を言ってお菓子を食べた。
だが、相変わらずモーフィはおやつを食べさせてもらっている。
食べさせてもらうのが、好きなのだろう。
そして、俺はシギショアラにお菓子を食べさせる。
それをティミショアラは楽しそうに見ていた。
「りゃあ」
「シギショアラ。うまいであろう?」
「りゃっりゃ!」
「そうかそうか。シギショアラが好きそうなおやつを用意させたのだ」
シギが喜んでいるので、ティミショアラも機嫌がよい。
一方、ステフはどこか真剣な表情で考え込んでいる。
「ステフどうした? 試合で気になることでもあったのか?」
「い、いえ……」
少しためらった後、ステフは俺とティミを見た。
「あの……。私自身の試合よりも、師匠とティミさんの試合が気になったのです」
「うむ。確かにあれは気になるのじゃ!」
モーフィに菓子を食べさせながら、自分もむしゃむしゃ食べていたヴィヴィが言う。
モーフィもこの話題に興味があるのかもしれない。
「もっ」
テーブルに顎をのせたまま、こちらに来た。
俺はモーフィの頭を撫でてやる。
モーフィが近づいてくると、つい頭を撫でてしまう。
これは、おそらくモーフィの不思議な能力に違いない。
俺がモーフィを撫でていると、ステフが真剣な表情で言う。
「正直、何がどうなっているのかすら、私にはわからなかったのです」
「やっていることは単純なんだけどな」
互いに魔法で攻撃して、防いでいるだけだ。
ティミがこちらを見ながら言う。
「確かに普通の魔導士と比べれば、使う魔法の種類が多かったかもしれぬな?」
「古代竜のティミショアラを相手にするんだ。出し惜しみは出来ないからな」
「そうか!」
俺がそういうと、ティミは嬉しそうに微笑み、シギの頭をなでる。
「りゃありゃあ」
シギも嬉しそうにティミの指をぺろぺろ舐めた。
「私も師匠みたいになれるでしょうか……?」
「そうだなー」
なんと答えていいのか難しい。
正直、難しいのではないかと俺は思う。だが、絶対に不可能とは言い切れない。
人の限界がどこにあるのかは、誰にもわからない。
当然俺にもわからない。
俺が答えに困っていると、ヴィヴィが胸を張って言う。
「あれは普通の人間には到達できぬ水準じゃぞ」
「そうなのです?」
「もちろんそうじゃ」
「魔族のヴィヴィさんでもそうなのです?」
その問いで、俺はやっと理解した。
ステフは自分が獣人だということを気にしているのだろう。
自分と俺との違いが、種族的なものなのか、知りたいのだ。
「魔族のわらわでも当然そうじゃ。魔王軍四天王という、魔族の中のエリート中のエリートであるわらわでも無理じゃ」
「ミレット姉さんや、コレット姉さんでも無理なのです?」
「ミレットとコレットは、エルフの中でも才能は群を抜いておる。それでも、まず無理じゃ」
ヴィヴィは断言した。
俺はステフに向けて言う。
「ステフ。魔法において、種族の差がないとは言わない。だが、個人差の方が大きい」
「はい」
近くで話を聞いていたコレットが俺のひざの上に乗る。
「コレットは、そのうちおっしゃんを抜こうとおもってるんだー」
「おう、頑張れ!」
「えへへー」
実際に抜けるかどうかはわからない。それでも努力することは無駄ではないだろう。
それに、魔導士ならば、そのぐらい野心があった方がいい。
コレットに比べて、ステフは少し自信が足りない。
「客観的に評価して、ステフの魔法の実力は相当高い」
「そうなのでしょうか」
「魔導士ギルドの魔導士ぐらい倒せるだろう」
「そんな、私ごときが……」
「ステフは俺の弟子だからな。自信を持て。そこらの魔導士には負けないぞ」
俺のひざの上に座ったコレットが見上げてきた。
「コレットはつおい?」
「コレットも、かなり強いぞ」
「えへへー」
「私はどうですか? アルさん」
ミレットが横から聞いてきた。
「ミレットもかなり強いぞ」
「そうですか。嬉しいです」
そこにヴィヴィが言う。
「よいか、ひよっこ魔導士ども!よく聞くのじゃ! 戦闘だけが魔導の道ではないのじゃ!」
「そうなのー?」
「うむ。コレット。お主も見てきたはずじゃ。アルが開墾や大工仕事に魔法を活用していたのを!」
「そうだった!」
そして、コレットは俺を見る。
「コレットも、かいこんとかがんばる!」
「おお、がんばるといいぞ」
「えへへー」
俺はコレットの頭を撫でた。