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268 古代竜のお茶会

 試合で魔力を使ったので、甘いものが身に染みる。とてもうまい。

 古代竜のお菓子を選ぶセンスは中々なものらしい。


「もぉぅ」

 モーフィはテーブルにあごを乗せている。

 そんなモーフィにコレットやヴィヴィがお菓子を食べさせていた。


「モーフィ、おいし?」

「もぅ!」

「どんどん食べるといいのじゃ」


 コレットもヴィヴィも楽しそうだ。

 自分で前足をテーブルの上に乗せて、お皿からお菓子を食べればいいと思う。

 確かに行儀が悪いかもしれないが、牛にマナーを求める人はあまりいないだろう。


 実際フェムはそうしている。


「これは気付かず、申し訳ございません」


 古代竜の一人が、お菓子をフェムとモーフィの食べやすい位置に移動させた。

 テーブルのふちにお菓子があれば、フェムもモーフィも椅子に座ったまま食べられる。


『ありがとう』

 フェムはお礼を言ってお菓子を食べた。

 だが、相変わらずモーフィはおやつを食べさせてもらっている。

 食べさせてもらうのが、好きなのだろう。


 そして、俺はシギショアラにお菓子を食べさせる。

 それをティミショアラは楽しそうに見ていた。


「りゃあ」

「シギショアラ。うまいであろう?」

「りゃっりゃ!」

「そうかそうか。シギショアラが好きそうなおやつを用意させたのだ」


 シギが喜んでいるので、ティミショアラも機嫌がよい。

 一方、ステフはどこか真剣な表情で考え込んでいる。


「ステフどうした? 試合で気になることでもあったのか?」

「い、いえ……」

 少しためらった後、ステフは俺とティミを見た。


「あの……。私自身の試合よりも、師匠とティミさんの試合が気になったのです」

「うむ。確かにあれは気になるのじゃ!」


 モーフィに菓子を食べさせながら、自分もむしゃむしゃ食べていたヴィヴィが言う。

 モーフィもこの話題に興味があるのかもしれない。


「もっ」

 テーブルに顎をのせたまま、こちらに来た。

 俺はモーフィの頭を撫でてやる。

 モーフィが近づいてくると、つい頭を撫でてしまう。

 これは、おそらくモーフィの不思議な能力に違いない。


 俺がモーフィを撫でていると、ステフが真剣な表情で言う。


「正直、何がどうなっているのかすら、私にはわからなかったのです」

「やっていることは単純なんだけどな」


 互いに魔法で攻撃して、防いでいるだけだ。

 ティミがこちらを見ながら言う。


「確かに普通の魔導士と比べれば、使う魔法の種類が多かったかもしれぬな?」

「古代竜のティミショアラを相手にするんだ。出し惜しみは出来ないからな」

「そうか!」

 俺がそういうと、ティミは嬉しそうに微笑み、シギの頭をなでる。


「りゃありゃあ」

 シギも嬉しそうにティミの指をぺろぺろ舐めた。


「私も師匠みたいになれるでしょうか……?」

「そうだなー」


 なんと答えていいのか難しい。

 正直、難しいのではないかと俺は思う。だが、絶対に不可能とは言い切れない。

 人の限界がどこにあるのかは、誰にもわからない。

 当然俺にもわからない。


 俺が答えに困っていると、ヴィヴィが胸を張って言う。


「あれは普通の人間には到達できぬ水準じゃぞ」

「そうなのです?」

「もちろんそうじゃ」

「魔族のヴィヴィさんでもそうなのです?」


 その問いで、俺はやっと理解した。

 ステフは自分が獣人だということを気にしているのだろう。

 自分と俺との違いが、種族的なものなのか、知りたいのだ。


「魔族のわらわでも当然そうじゃ。魔王軍四天王という、魔族の中のエリート中のエリートであるわらわでも無理じゃ」

「ミレット姉さんや、コレット姉さんでも無理なのです?」

「ミレットとコレットは、エルフの中でも才能は群を抜いておる。それでも、まず無理じゃ」


 ヴィヴィは断言した。

 俺はステフに向けて言う。


「ステフ。魔法において、種族の差がないとは言わない。だが、個人差の方が大きい」

「はい」


 近くで話を聞いていたコレットが俺のひざの上に乗る。


「コレットは、そのうちおっしゃんを抜こうとおもってるんだー」

「おう、頑張れ!」

「えへへー」


 実際に抜けるかどうかはわからない。それでも努力することは無駄ではないだろう。

 それに、魔導士ならば、そのぐらい野心があった方がいい。


 コレットに比べて、ステフは少し自信が足りない。


「客観的に評価して、ステフの魔法の実力は相当高い」

「そうなのでしょうか」

「魔導士ギルドの魔導士ぐらい倒せるだろう」

「そんな、私ごときが……」

「ステフは俺の弟子だからな。自信を持て。そこらの魔導士には負けないぞ」


 俺のひざの上に座ったコレットが見上げてきた。


「コレットはつおい?」

「コレットも、かなり強いぞ」

「えへへー」

「私はどうですか? アルさん」


 ミレットが横から聞いてきた。


「ミレットもかなり強いぞ」

「そうですか。嬉しいです」


 そこにヴィヴィが言う。


「よいか、ひよっこ魔導士ども!よく聞くのじゃ! 戦闘だけが魔導の道ではないのじゃ!」

「そうなのー?」

「うむ。コレット。お主も見てきたはずじゃ。アルが開墾や大工仕事に魔法を活用していたのを!」

「そうだった!」


 そして、コレットは俺を見る。


「コレットも、かいこんとかがんばる!」

「おお、がんばるといいぞ」

「えへへー」


 俺はコレットの頭を撫でた。

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