目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第27話 小春と姉ちゃん、ヒミツの関係


 町田家に戻ってハンバーグの仕込みを終わらせ、白飯を二人が帰ってくる時間に合わせてタイマーをセットする。


「よし、メシの準備はこれでOKだ。あとは……」


 そういえば、有紗ありさ希良里きらりの好きなデザートを切らしてたな。

 食後のプリン一つだけという安上がりな好物だが、無いと有紗ありさあたりが拗ねそうである。


 買ってくるか……。


「あ、やべ……。財布向こうに置きっぱなしだった……」


 二人の好物であるコンビニのプリンを買いに行こうとして、財布を実家に置きっぱなしだったことに気が付いた。


 家にあれば安心ではあるが、二人のプリンなしと分かった時の顔が思い浮かんで買いに行くことにした。


 20秒歩いた先にある我が家の鍵を開け、扉を開いて中に入る。


 ――――ぁんっ


 扉を開けた瞬間、ふと違和感を感じた。


「なんだ……?」


 強いて言うなら、気配……。

 なにか心が落ち着かなくなるというか、不安とかとは違う興奮のような感情がわき上がってくる。


 ぞわぞわするというか、とにかく予感めいたものを感じたので自然と気配を殺していた。


 ――――ッ


 その気配は2階から感じていた。

 音を立てないように玄関の扉を閉め、そっと靴を脱ぐ。


 足音を立てないように階段を上り、そろりそろりと廊下を確認する。


「姉ちゃんの部屋?」


「ッ……ぁ、……」


 よく見ると姉ちゃんの部屋の扉が開いており、奇妙な声はそこから聞こえてくるようだ。


 というか、もうここまで来たらアホな俺でも分かる。

 喘ぎ声を発している誰かがいる。


 姉ちゃんが小春こはるにAVでも見せているのかとも思ったが、妙に生々しい事からそれも違う気がする。


 つい最近レズビアンのカップルを間近に見ているだけに、またもや「よもやよもや」の事態なのかと予感がした。


花恋かれんちゃん、ここ?」

「そう、もっと……。ねえ、今日の小春こはる、色気出てるね。何かいいことでもあった?」

「それは……うん♡」


 小春こはる花恋かれんという名前が出て、もうその予感は確信に変わった。



 好奇心は猫を殺す、という言葉もあるしそっと帰ろうとも思ったのだが、やはり確認せずにはいられなかった。


 気配を殺し、ほふく前進のように身体を倒して扉に近づく。


「マジかよ……」

花恋かれんちゃん、ほら大人しくして。暴れちゃダメだよ」

「だってぇっ……小春こはるが、いなくなっちゃう」


「大丈夫だよ、私は、いなくなったりしないから」

小春こはる。なんで今日は機嫌がいいの? オムライスだっていつもと違ったし。なんて言うか、私以外の誰かを思って作ったでしょっ」


「そ、それは……えっと、どうしてだと思う?」


 一体なんの会話をしているんだ?

 喘ぎ声に交じっていて内容がよく聞き取れない。


 オムライスがなんだって?


「絶対――のためだ」


「分かってるくせに……花恋かれんちゃんが、けしかけたんでしょ」


「――――と初チューはできたの?」


「今日の今日で、そんなことできないよ……」


「もうすぐ、なんだよね? 約束の日は……もうすぐ」


「そうだよ。もうすぐ卒業旅行だから……キスだって、残しておきたかったのに、花恋かれんちゃんが無理やり奪うから……花恋かれんちゃんは、好きだけど、悲しかったんだから」


「ごめんよ小春こはるぅ、謝るから許してぇ」

「ダメだよ、許さない。だから私は――ちゃんと結ばれる。花恋かれんちゃんは二番目になるからね、約束通り……」


 会話をしながら姉ちゃんと小春こはるが組んずほぐれつしているのが見える。


 主に聞こえてくるのは姉ちゃんの喘ぎ声だ。

 これは、あれか? タチとネコでいうところで表現すれば、姉ちゃんの方がネコ、つまり受けなのか。


 正直光景が衝撃的過ぎて何の会話か頭に入ってこない。


 二人はシーツをかぶったまま睦み合っているようで、その姿を視認することはできない。


 キスがどうのこうのと聞こえるが、布をかぶっているせいで声がくぐもってよく分からなかった。


 理解できたのは、姉ちゃんと小春こはるがレズの関係であったこと。


 姉ちゃんが小春こはるのファーストキスを無理やり奪ったこと。

 小春こはるは誰かにファーストキスを捧げたかったこと。


 小春こはるは、キスをしたい誰かがいたってことなのか。

 俺が知る限り彼女の交友関係でそう言った相手がいるというのは知らない。


 二人の関係がレズであるというのなら、その相手は女性ということになるのだろうか……。


 ひょっとしたら、有紗ありさか、希良里きらりのどちらかか?


 もしかしたら、俺と有紗ありさ希良里きらりが付き合ってることを、姉ちゃんから聞いて知っていたのではないだろうか。


 だからあんなあっさりした反応だったのか……。


 単なる予想でしかないが、妙な予感があった。


 男に興味が無いならあの反応も納得できる。


 さっきも言ったが、うぬぼれでなければ小春こはるは少なくとも俺に他の男には見せない反応を示していると思っていた。


 だけどそれは俺が幼馴染みであり、好きな人の側にいるおまけであるというだけだったのかもしれない。


 まだしっくり来ていないところはあるけど、一連の行動が頭の中で繋がった部分があった。


 俺は気配を殺したままその場を後にし、財布を持ってそっと玄関から出た。


 ◇◇◇◇◇


 コンビニでプリンを購入して冷蔵庫にしまう。


 ソファに腰を下ろしてさっきの光景を思い出すと、衝撃的な光景がフラッシュバックしてしまった。


 姿は見えなかったが二人の睦み合いはアレが初めてではなさそうだった。


 どうやら以前から二人は付き合っていたと見える……。


「はぁ……なんだか俺だけ置いてけぼりくらった気分だなぁ……」


 有紗ありさ希良里きらり小春こはると姉ちゃん。


 俺の身近な人達がいつの間にかカップルになっていた。


 有紗ありさ希良里きらりに関しては俺の為という前提があったとはいえ、最初に知ったときは一抹の寂しさを感じたしな。


「あ~~~~っ! もやもやするぅ~~~っ」


 小春こはるは俺の彼女でもなんでもない。だからこんな感情は間違っていると分かってるけど、姉ちゃんに小春こはるをとられたような気分がして複雑だった。


 なんだか寝取られやBSSを喰らった気分だ。


 俺はどんだけうぬぼれが強いのだろうか。


 恋人ができたなら祝福しなきゃいけないのにな……。

 自分の裁量の狭さが嫌になった。


「ただいま~♪」


 俺がモヤモヤしながらソファで悶えていると、玄関から希良里きらりの声がした。


 思っていたより帰ってくるのが早かったな。


「お帰り~」


 俺はぼんやりしてしまっておざなりな返事を返してしまう。


 その瞬間に希良里きらりの足音が歩くスピードから小走りに変わり、リビングの扉がバンッと開く。


希良里きらり? あれ? 有紗ありさは?」


「友達とカラオケ行ってくるって。夕飯までには戻るから」


 今日の希良里きらりはツインテールか。あまあまな雰囲気が強くなって見ているだけで癒やされる。


「そうか」


「それより兄ちゃん」

「うん?」


 ぼんやりとしてしまった俺の返事を聞いた希良里きらりがこちらに駆け寄ってくる。


「エッチしよっ♡」


「え?」


 言うが早いか希良里きらりがソファに座っている俺に跨がってくる。


 俺の肩を掴んでジャンプし、制服のスカートが舞い上がってピンク色の下着が一瞬見える。


 次の瞬間には希良里きらりの柔らかい太ももが膝の上に乗っかり、その体温をズボン越しに感じる。


 そしてその次の瞬間には、希良里きらりの唇が覆い被さっていた。


「んっ……きら、り?」

「んちゅぅ……ちゅ、ちゅ、兄ちゃん、大好きだよ♡」

「どうしたんだいきなり」


「兄ちゃんの声、寂しそうだった。なんかイヤな事あったでしょ」


 有紗ありさといい希良里きらりといい、どうしてこうも勘が鋭いのだろうか。


 それとも俺が分かり安すぎるのか?


「理由は言わないでいいから、寂しい気持ち、私の身体で癒やして♡」


 再び覆い被さってくる希良里きらりの柔らかい唇の感触が、俺の心を急速に癒やしていった。



――――――――――


ここまでお読みくださり誠にありがとうございます!



 執筆の励みになりますので、続きが気になる!と思った方は是非とも+ボタンで☆☆☆を★★★に。

ご意見ご感想、レビューなどしていただけたら幸いです。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?