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169 水竜の朝食

 みんなベッドに入ったが、なかなか寝付けないらしい。

 激しい戦いの後だからだろう。


 そんな中ガルヴは、

「がーぅ」

 お腹を出して眠っていた。

 ガルヴは相変わらず眠るのが早い。


 可愛いので、お腹の横辺りを撫でてやった。

 自分で掻いているつもりになるのか、後ろ足がひくひく動く。


 そんなことをしている間に、俺も眠りについた。


 次の日の朝、眠っていると、モーリスに起こされた。

 朝食の準備ができたのだという。


「がうがう」

 ガルヴはお腹がすいたのか、もう起きていた。

 俺の顔をぺろぺろ舐めてくる。


 顔を洗ってから食堂に向かう。

 食堂にはすでに、エリックやゴラン、ケーテにドルゴ、リーアがいた。

 俺はみんなに向かって言った。


「それにしても、死者が出なくて何よりでしたね」

「本当にな。かなり後手に回ってしまっていたからな。死者が出なかったのは不幸中の幸いだ」

 エリックが真剣な表情でつぶやいた。


「今までの襲撃が散発的で、計画的でもなかったので……油断もありました」

 食事を並べながら、モーリスが言う。

 その通りだ。俺も油断していなかったとは言えない。


「魔装機械を動員してくるとは……。ケーテのごみ箱を回収したから、新規には作れないと思ったのだが」

「確かにそうなのである」

「ごみばこ?」


 リーアがケーテの隣で首をかしげている。

 俺はごみ箱の説明をした。


 ごみ箱は風竜王の宮殿にあった、錬金装置の通称だ。

 愚者の石や賢者の石を突っ込めば、魔装機械を作ることが出来る。

 今は回収して、俺の屋敷、フィリーの研究室に設置してある。


「愚者の石だけでなく、ごみ箱も手に入れているのかもしれねーな」

 ゴランがそういうと、

「錬金装置というのがあれば、魔装機械を沢山作れるのですか?」


 そう尋ねたモーリスの表情は深刻そのものだ。

 モーリスが危機を覚えるのもわかる。

 魔装機械があれば、水竜の結界の内側に強力な敵を運び込めるのだ。


 ごみ箱に一番詳しいドルゴが答える。

「材料を集めるのが大変ですが……。大量の魔石や生贄などの材料が必要なのです」

「ということは……。昏き者どもは生贄を?」

「残念ながら、可能性は高いと言わざるを得ません」


 それを聞いていたゴランが言う。


「愚者の石でも代用できるんじゃねーか?」

「愚者の石を作るのにも、生贄を集めるのが一番手っ取り早いので」


 フィリーのような凄腕の錬金術士なら高価な材料は必要ない。

 だが、非常に高度な技術が必要になる。

 装置を使って安易に作るならば、大量の貴重な材料が必要だ。


「それは、ゆゆしき事態ですね」

 モーリスが唸るように言った。


 水竜が生贄になれば、さらに愚者の石や魔装機械の製造が進むだろう。

 邪神召喚に至らなくとも、敵の戦力が増強してしまう。


「モーリスさん。水竜には風竜のゴミ箱のようなものはないのですか?」

「ございません。我らは結界魔法の方が得意なのでございます」

「我ら風竜は錬金術よりなのであるぞ」


 ケーテが教えてくれた。

 その割には、ケーテは錬金術が得意ではなさそうだ。

 それは指摘しないほうがいいだろう。


「魔装機械に使われている技術は錬金術なのか?」

「そうであるぞ」

「違います」

「あ、違うのであるか……」


 どや顔で言ったケーテを、即座にドルゴが否定した。


「あれは魔導機術ですね。竜族で言えば火竜が得意としています」

「種族によって得意なものが違うのですね」

「能力的なものというより、文化的なものが大きいのですが」

「なるほど」


 親から子に魔法を教える。そして魔法の奥義は門外不出だ。

 それが連綿と続けば、偏りが出るのは当然だ。


「ちょっとまて。ということは、魔装機械を新規に用意できたということは……」


 エリックが俺の方を見る。

 火竜が昏き者どもの手におちたのでは? と心配しているのだろう。


「いや、それはない」

「なぜそう思う?」

「火竜が昏き者どもの手におちたのなら、今頃邪神が復活している」

「……そうか。それもそうだな」


 火竜を落としたのなら、火竜を生贄にすれば邪神を召喚できる。

 あえて防備の堅い水竜を生贄にする必要もない。


「じゃあ、どうして魔装機械を用意できたんだ?」

「火竜の遺跡から何か見つけたんだろう」


 俺がそういうと、ドルゴがゆるゆると首を振る。


「ロックさん。残念ながら、火竜は我ら風竜のように遺跡に装置を残したりはしません」

「そうなのですか?」


 風竜は地上に集落を持たない。空をテリトリーとする竜だ。

 とはいえ、地上にも拠点が欲しいときがある。

 そうして、作った後、代替わりなどで放棄されたのが竜の遺跡だ。

 あとで使うつもりで、結局使わなかったというのもあるらしい。


 だが、風竜以外の竜族は集落を持っているので、そのようなことはしないようだ。


「当然長い歳月を過ごすうちに、集落を移動することはあります。ですが魔道具の類を残したりはしません」


 人族でもそんなことはしない。

 貴重なものなのだから新しい住居にもっていく。


「ということは、他にもごみ箱のようなものがあったということか」

 俺がそういうと、

「面目ないのである。恐らくそうなのだ」

 風竜王のケーテが頭を下げた。

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