みんなベッドに入ったが、なかなか寝付けないらしい。
激しい戦いの後だからだろう。
そんな中ガルヴは、
「がーぅ」
お腹を出して眠っていた。
ガルヴは相変わらず眠るのが早い。
可愛いので、お腹の横辺りを撫でてやった。
自分で掻いているつもりになるのか、後ろ足がひくひく動く。
そんなことをしている間に、俺も眠りについた。
次の日の朝、眠っていると、モーリスに起こされた。
朝食の準備ができたのだという。
「がうがう」
ガルヴはお腹がすいたのか、もう起きていた。
俺の顔をぺろぺろ舐めてくる。
顔を洗ってから食堂に向かう。
食堂にはすでに、エリックやゴラン、ケーテにドルゴ、リーアがいた。
俺はみんなに向かって言った。
「それにしても、死者が出なくて何よりでしたね」
「本当にな。かなり後手に回ってしまっていたからな。死者が出なかったのは不幸中の幸いだ」
エリックが真剣な表情でつぶやいた。
「今までの襲撃が散発的で、計画的でもなかったので……油断もありました」
食事を並べながら、モーリスが言う。
その通りだ。俺も油断していなかったとは言えない。
「魔装機械を動員してくるとは……。ケーテのごみ箱を回収したから、新規には作れないと思ったのだが」
「確かにそうなのである」
「ごみばこ?」
リーアがケーテの隣で首をかしげている。
俺はごみ箱の説明をした。
ごみ箱は風竜王の宮殿にあった、錬金装置の通称だ。
愚者の石や賢者の石を突っ込めば、魔装機械を作ることが出来る。
今は回収して、俺の屋敷、フィリーの研究室に設置してある。
「愚者の石だけでなく、ごみ箱も手に入れているのかもしれねーな」
ゴランがそういうと、
「錬金装置というのがあれば、魔装機械を沢山作れるのですか?」
そう尋ねたモーリスの表情は深刻そのものだ。
モーリスが危機を覚えるのもわかる。
魔装機械があれば、水竜の結界の内側に強力な敵を運び込めるのだ。
ごみ箱に一番詳しいドルゴが答える。
「材料を集めるのが大変ですが……。大量の魔石や生贄などの材料が必要なのです」
「ということは……。昏き者どもは生贄を?」
「残念ながら、可能性は高いと言わざるを得ません」
それを聞いていたゴランが言う。
「愚者の石でも代用できるんじゃねーか?」
「愚者の石を作るのにも、生贄を集めるのが一番手っ取り早いので」
フィリーのような凄腕の錬金術士なら高価な材料は必要ない。
だが、非常に高度な技術が必要になる。
装置を使って安易に作るならば、大量の貴重な材料が必要だ。
「それは、ゆゆしき事態ですね」
モーリスが唸るように言った。
水竜が生贄になれば、さらに愚者の石や魔装機械の製造が進むだろう。
邪神召喚に至らなくとも、敵の戦力が増強してしまう。
「モーリスさん。水竜には風竜のゴミ箱のようなものはないのですか?」
「ございません。我らは結界魔法の方が得意なのでございます」
「我ら風竜は錬金術よりなのであるぞ」
ケーテが教えてくれた。
その割には、ケーテは錬金術が得意ではなさそうだ。
それは指摘しないほうがいいだろう。
「魔装機械に使われている技術は錬金術なのか?」
「そうであるぞ」
「違います」
「あ、違うのであるか……」
どや顔で言ったケーテを、即座にドルゴが否定した。
「あれは魔導機術ですね。竜族で言えば火竜が得意としています」
「種族によって得意なものが違うのですね」
「能力的なものというより、文化的なものが大きいのですが」
「なるほど」
親から子に魔法を教える。そして魔法の奥義は門外不出だ。
それが連綿と続けば、偏りが出るのは当然だ。
「ちょっとまて。ということは、魔装機械を新規に用意できたということは……」
エリックが俺の方を見る。
火竜が昏き者どもの手におちたのでは? と心配しているのだろう。
「いや、それはない」
「なぜそう思う?」
「火竜が昏き者どもの手におちたのなら、今頃邪神が復活している」
「……そうか。それもそうだな」
火竜を落としたのなら、火竜を生贄にすれば邪神を召喚できる。
あえて防備の堅い水竜を生贄にする必要もない。
「じゃあ、どうして魔装機械を用意できたんだ?」
「火竜の遺跡から何か見つけたんだろう」
俺がそういうと、ドルゴがゆるゆると首を振る。
「ロックさん。残念ながら、火竜は我ら風竜のように遺跡に装置を残したりはしません」
「そうなのですか?」
風竜は地上に集落を持たない。空をテリトリーとする竜だ。
とはいえ、地上にも拠点が欲しいときがある。
そうして、作った後、代替わりなどで放棄されたのが竜の遺跡だ。
あとで使うつもりで、結局使わなかったというのもあるらしい。
だが、風竜以外の竜族は集落を持っているので、そのようなことはしないようだ。
「当然長い歳月を過ごすうちに、集落を移動することはあります。ですが魔道具の類を残したりはしません」
人族でもそんなことはしない。
貴重なものなのだから新しい住居にもっていく。
「ということは、他にもごみ箱のようなものがあったということか」
俺がそういうと、
「面目ないのである。恐らくそうなのだ」
風竜王のケーテが頭を下げた。