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173 図書室

 王宮の図書室はかなり広かった。

 さすがは歴史あるメンディリバル王家の図書室である。

 正確な数はわからないが、所蔵されている本も万単位でありそうだ。


「とりあえず、魔法系の本は俺が探そう」

「では、フィリーは錬金術系の本を見て回るのだ」


 二人で手分けして探す。

 魔法系の本だけでも、数千冊ありそうだ。

 錬金術系の本も数千冊はあるだろう。

 当然だが、なかなか目当ての本が見つからない。


「フィリー、よさげな本は見つかったか?」

「ないのだ。ロックさんのほうはどうであるか?」

「こっちも、成果がない」


 フィリーがつぶやいた。

「少し舐めていたと言わざるを得ない」

「そうだな……」


 そんなことを話していると、司書が話しかけてくれた。


「何をお探しですか?」


 眼鏡をかけた栗色の髪の女性だ。

 年若いのに、王宮図書室の司書を任されるとは、余程優秀なのだろう。


「陛下からお手伝いするよう命じられておりますので、お役に立てることがあれば、なんでもおっしゃってください」

 司書は笑顔でそう言ってくれた。

 お言葉に甘えることにする。


「魔道具の作り方に関して載っている本を探していまして……」

「魔道具ですか? どういったものでしょう?」

「精神抵抗を向上させる装備品を作りたくてですね」

「……なるほど。それでしたら……」

 司書が図書室の中を案内してくれる。


「こちらの方に魔道具関係の書物は集まっています」

「ありがとうございます。助かりました」

「いえいえ、仕事ですから」


 司書は優しく笑った。

 フィリーが言う。


「司書殿。錬金術の本を探しているのであるが……」

「錬金術の、どんなジャンルでしょうか?」

「ふむ。そうであるな……魔道具の素材や理論に関する本があると助かるのであるが……」

「それでしたら……」


 司書はフィリーを案内していった。


「おお、助かるのである」

「いえ、仕事ですから」


 そんな会話が聞こえてきた。

 俺は俺で本を探す。

 司書が案内してくれたエリアは的確だった。

 魔道具に関する書物が沢山ある。

 俺はパラパラめくって、関係のありそうなところを探していった。


 しばらくして、フィリーがやってきた。


「進捗はどうか?」

「うーん。作れると思う」


 色々書物を調べて、頭の中で再構成した。

 それによって、精神異常への耐性を向上させる魔道具を作れそうな気がする。


「それはなによりだな!」

「フィリーの方はどうだ?」

「うむ。大丈夫だ。新たな知見が得られたのだ」

「とりあえず、閲覧はこのぐらいでよいかな?」

「うむ」


 俺とフィリーは司書にお礼を言って、図書室を後にした。

 外に出ると夕暮れ時だった。


 空を見て、フィリ—が言う。

「いつの間に日が沈んでおったのだ?」

「集中していたからな……。気づかなかったな」

 お昼ぐらいだと思っていた。


「時間が過ぎたとわかったら、急にお腹が減ってきたのだ」

 そういうと同時にフィリーのお腹がぐぅっとなった。


「確かに。お腹が減ったな」

 俺とフィリーは、侍従に案内されてレフィたちのいる部屋に向かう。

 ガルヴ、タマ、ゲルベルガさまを迎えるためだ。


 部屋に入ると、タマが寛いでいる姿が目に入った。

 柔らかそうな長椅子の上に伏せている。

 タマの横にはエリックの長女シャルロットがいて優しく撫でている。


 そして、ガルヴは床の上にあおむけになっている。

 エリックの妻、レフィに甘えているようだ。


 エリックの次女、マリーはゲルベルガさまを抱いている。

 ゲルベルガさまも大人しく抱かれていた。


「ガルヴたちがお世話になったな」

「あらー、もう連れて帰っちゃうのね」

 レフィが残念そうにする。


「ガルヴとタマはいい子にしてたか?」

「とってもいい子だったわよ」

「そうか。それならよかった」

「ゲルベルガさまがいい子だったか聞かないのかしら?」

神鶏しんけいさまに、いい子も悪い子もないだろう」

「それもそうかもしれないわね」


 そういって、レフィは笑った。


「で、いい資料は見つかったのかしら?」

「おかげさまで」

「それはよかったわ」


 マリーがゲルベルガさまを抱いたまま歩いてくる。


「たいこうかっか。こんにちは」

「これは王女殿下。ご機嫌麗しゅう」

「げるべるがさまが、遊んでくれました」

「それは、それは。良かったです」

「ここっ」


 ゲルベルガさまも機嫌がよい。

 シャルロットもこちらに歩いてきた。タマが付き添っている。


「フィリーさま。タマはとてもいい子なのですね」

「過分なるお言葉、ありがとうございます」


 フィリーが礼儀正しく頭を下げた。

 そんなフィリーにレフィが言う。


「フィリー。隣の部屋においきなさい」

「はい。なにか御用でしょうか?」

「ご両親を呼んであるの。折角だしお話していきなさいな」

「王妃陛下。ご配慮ありがとうございます」


 フィリーの両親、マスタフォン侯爵夫妻は王宮に住んでいる。

 枢密院に入って、ヴァンパイア調査に携わっているのだ。


 フィリーはタマを連れて、隣室に向かった。

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