フィリーを見送ってから、レフィが笑顔で言う。
「フィリーはしばらくご両親とお話させてあげましょう」
「そうだな、それがいい」
「今日は王宮に泊めて、明日エリックに送らせるわ」
「エリックは忙しいんじゃないのか?」
「忙しいでしょうね。でもどうせ、ロックの屋敷に行くでしょう?」
「……かもしれないな」
エリックはことあるごとに俺の屋敷に来ている。
そのついでにフィリーを送ってくれるならいい。
「エリックを借りているみたいで悪いな」
「それはいいのだけど……」
「問題が?」
「エリック。最近食べすぎだと思うのよねー」
「あぁ……」
うちと王宮で二回食事していることについてだろう。
「ロックからも、エリックに言ってちょうだい」
「わかった。言っておこう」
「お願いね」
そして、俺は王女たちに挨拶をして屋敷に帰る。
ガルヴとゲルベルガさまと一緒だ。
「ここぅ」
地下通路を歩いている間、ゲルベルガさまは俺の肩に乗って、機嫌よく鳴く。
「ゲルベルガさま、楽しかったか?」
「こう!」
ゲルベルガさまは羽をバタバタさせた。
「そうか、よかった」
王女たちと遊んで、楽しかったようだ。
「がうがう」
ガルヴは楽しそうに秘密通路を走っている。
「ガルヴは楽しかったか?」
「がう!」
一声鳴いて、俺にぴょんぴょん飛びつく。
顔を舐めてきた。
「楽しそうでなによりだ」
俺はそんなガルヴを撫でまくった。
ガルヴとわいわいしながら、屋敷に戻るとミルカが出迎えてくれた。
ゲルベルガさまと会いたかったのか、ルッチラもいる。
「ロックさん、おかえり! 夜ご飯はたべるかい?」
「ああ、頼む。いつもすまない」
「これがおれの仕事ってやつさ!」
ゲルベルガさまが、俺の肩からルッチラの方に飛ぶ。
「こここぅ」
「ゲルベルガさま、どうでしたか?」
「ここここ!」
「それはよかったです!」
ミルカが俺の後ろを見て言う。
「あれ? フィリー先生はどうしたんだい?」
「ご両親とお話し中だ。今日は王宮に泊まっていくらしい」
「そっかー。じゃあ、タマも先生と一緒ってことかい?」
「そういうことだ」
そして、ミルカとルッチラは食事の準備をしに台所に向かう。
一方、俺はガルヴと一緒に居間に向かった。
居間にはケーテとドルゴがいた。
「お、ロック帰ったのであるな!」
「ただいま。敵の本拠地の情報は何かあったか?」
「まだ、何ともいえないのである」
「ほう?」
情報が全くないというわけではなく、何とも言えない。
つまり、不確かな情報はあるらしい。
そんな推測をしていると、ドルゴが言う。
「敵の痕跡は巧妙に隠されておりましたが……、魔獣の生息数の変化などから、いま狙いを絞っているところです」
「生息数の変化から、何かわかるのですか?」
「昏き者どもは大半の魔獣たちにとっても天敵ですから。ハイロード、もしくはその上の『至高の王』の率いる勢力が存在すれば変化が現れます」
「魔獣たちは昏き者どもの餌にもなるのである」
逃げたり、狩られたりするので、魔獣の生息数が減るだろうと推測しているようだ。
「本当は人族の生息数の変化も知りたいのであるが……」
「我らには、調べにくいですからね」
ドルゴはともかく、ケーテはゴブリンと人族の区別もいまいちついていないレベルだ。
そうでなくとも、ケーテたちが人族の集落の上空を飛べば、驚かしてしまう。
「人族の数はエリックたちに任せればいいでしょう」
そんなことを話している間、ガルヴはケーテにじゃれついていた。
ケーテの肩に手を置いて、顔をぺろぺろ舐めている。
そんなガルヴをケーテも機嫌よく撫でまくっていた。
そこにセルリスとシアがやってくる。
二人とも汗だくだった。恐らく特訓でもしていたのだろう。
「シア、セルリスおかえり」
「ただいまであります!」
「ただいまかえりました」
「ニアはどうした?」
「ニアも一緒に特訓してたでありますが、直接ミルカさんの手伝いに行ったでありますよ」
「それは大変だな」
いくら徒弟とはいえ、特訓の後ぐらい少し休んでもいいと思う。
ニアはとてもまじめだと思う。
俺はニアのかわりに手伝うために台所に向かうことにする。
立ち上がりかけたとき、セルリスはもじもじしながら言う。
「あの、ロックさん。どうだったかしら?」
「魔道具のことか?」
「うん」
「一応、研究は進んだ。もう少し研究を深めないといけないだろうが……。なるべく急ぐので待っていてくれ」
「ロックさん、ありがとう」
ケーテが首を傾げた。
「そういえば、今日は図書室に行っていたとミルカに聞いたのである。魔道具について調べていたのであるか?」
「そうなんだ。フィリーと一緒に王宮の図書室に行ってきた」
ドルゴが魔道具という言葉に反応した。
「魔道具ですか。一体どのような?」
「精神抵抗を上げるアクセサリー的なものを作りたくて……」
俺はセルリスにアクセサリーを装備させたい事情を説明した。
「なるほど……」
「確かに、魅了は怖いのである」
少し考えて、ドルゴが言う。
「精神抵抗を高める魔道具。ふむ。それならば、力になれるかもしれません」
「本当ですか?」
「我ら風竜族は錬金術が得意な竜族ですからね。それなりの資料があると思います。ロックさんのお役に立てるかはわかりませんが」
「それは助かります!」
次の日、フィリーが帰ってきたら、風竜王の宮殿に連れて行ってもらうことにした。