魔道具が間に合ったかどうか、俺は気になった。
今回が最初の侵入ならば、魔道具は間に合ったといえるだろう。
最初の侵入に気づけたのだから。
だが、以前から侵入されていたのならば、情報収集され放題だったということだ。
出入りの業者とかを調べるまでもない。
「ガルヴ、モルス、侵入者がどっちに行ったか分かるか?」
「がうぅ」
「申し訳ないです」
懸命に臭いを嗅いでいたガルヴが困ったように鳴く。臭いを追えなかったのだろう。
魔法で探査していたモルスもわからなかったようだ。
「そうか。それならば仕方がない」
「どうするのであるか?」
不安そうにケーテが聞いてくる。
「少し待ってくれ」
「わかったのである」
俺は
一気に広範囲を対象に魔法をかける。
魔力探知は魔力を持つもの全般の存在を探す魔法だ。広範囲を一気に調べられる。
だが、人間も魔獣も、昏き者も、魔力を持つものは全員引っかかってしまう。
しかも、それがどのような種類の魔力かは調べられない。
わかるのは魔力を持つ者がいるということだけだ。
魔力探査はどのような類の魔力か調べることはできる。
だが、範囲魔法ではない。対象一つ一つにかけていくしかないのだ。
だから俺は魔力探知に引っかかった対象すべてに魔力探査をかけていく。
俺が魔力探知をかけた範囲は屋敷とその周囲の半径徒歩五分圏内だ。
引っかかった対象は五百程。
狼の獣人族と、飼育されている家畜たち、野生動物などだ。
その対象の五百相手に個別かつ同時に魔力探査をかけた。
一つだけ昏き者の反応を見つける。すでに屋敷の外にいて離れつつあった。
もう猶予はない。
「ついてこい!」
「はい」「ガウ!」「わかったのである」
出口や近くの窓まで行く時間が惜しい。
俺は魔道具作成部屋の壁を魔法で破壊した。
「なっ!」「乱暴なのである!」
モルスとケーテが驚いて声を上げるが、俺は気にしない。
緊急事態なのだ。屋敷はあとで修復すればいいだけだ。
侵入者を逃がすことの方がよろしくない。
どうせ、屋敷は後で魔法で強化する。その際に修理も一緒にすればよい。
俺は屋敷を飛び出し、昏き者どもの反応を追う。
近くにいるはずなのに、目に見えない。
レイス……、それも昏き者どものレイスだからダークレイスだろう。
レイスに遭遇したことはあるが、ダークレイスに遭遇したことは、俺も初めてだ。
「屋敷の強化は先にしておくべきだったかな……」
完成した魔道具を組み込んで、屋敷を強化をするつもりだった。
魔法による強化が終わっていれば、ダークレイスも侵入できなかっただろう。
「Siiiiiiiii!!」
姿が見えないのに、声だけ聞こえた。
同時に
邪神の頭部が使ってきた
「かなり強力な魔法だな」
熱を持つ炎だが、炎属性に対する耐性をすり抜けることができる。
使い勝手はいいかもしれない。とりあえずラーニングしておいた。
「SIIIII!」
ダークレイスは、悲鳴に近い声を上げる。驚いているようだった。
レイスは高い知能を持つ魔物だ。ダークレイスも同様に知能が高いのだろう。
黒き炎の魔法に絶対の自信があったに違いない。
「見えたな」
魔法が放たれる直前、ぼんやりと姿が見えたのだ。
見えた姿は人型の黒い
だが、魔法を放ち終えると姿が薄くなる。すぐに見えなくなった。
目で見えなくとも、魔力探知の魔法があるので正確に位置を把握できてはいるのだが。
「さて、どうするか」
ヴァンパイアなら、拘束して尋問したいところだ。
だが、レイスは拘束するのが難しい。レイスの体は物質的なものでできていないのだ。
意思と魂を宿した魔素。それがレイスだ。
そして、ダークレイスは邪神がこの世に落とした残滓と言われている。
ダークレイスは魔素と呪いで作られている。
「どうするのであるか?」
「結界は間に合いません!」
後ろから走ってきているケーテとモルスが叫ぶように言う。
水竜が得意な結界術なら、レイスの類であっても拘束できる。
だが、今は結界の準備ができていない。用意している間に逃げられるだろう。
俺はケーテたちの方を振り返らずにいう。
「とりあえず、できることをやってみる」
「任せたのである!」
ダークレイスは一度魔法を放って、俺には通用しないと判断したのだろう。
全力で逃げようとしている。
移動速度はけして速くはない。とはいえ普通の馬の
もたもたしてはいられない。
俺はダークレイスの逃げる先に向けて魔法を放つ。
ダークレイスの目の前に大きな光の柱が立ち上がった。
魔法というよりも、ただの魔力の柱だ。魔力弾の柱版である。
「まぶしいな」
自分で思っていたよりまぶしかった。加減を間違えたかもしれない。
「KIIIIIIII」
ダークレイスは目の前に立ち上がった魔力の柱に驚いて足をとめたようだった。