ケイ先生の手紙が俺に指示してきたのは主に二つだ。
その一。ユルングの調査を進めろ。
その二。ロッテを鍛えろ。
ケイ先生は追伸以降、人に見せるなと指示をしてきた。
恐らく、追追追伸のロッテ関連を、他の人に読ませたくなかったのだろう。
追伸に機密性の低いファルコン号のことを書いたのは保険だ。
間違って、俺以外の者が読んでしまったとき、ファルコン号についてが最初に目につくだろうから。
「ふむ。……ロッテを鍛えるか」
俺は追伸以降の部分を魔法で燃やす。
「りゃっりゃ!」
その炎見て、ユルングは大喜びで尻尾を振って羽をバサバサさせた。
「主さま、そんなの見せたら、ユルングが火遊びするのじゃ」
「そうか?」
「まだ赤ちゃんゆえ、悪いことといいことの区別がつきにくいのじゃ」
「りゃ〜?」
「ユルング、火遊びしたらだめだぞ」
「りゃ!」
力強くそう言った、ユルングはとても賢そうだった。
ご飯を食べた後、ハティはさっそく実家である古竜の大王の宮殿にむけて出立することになった。
「ハティ。これを持っていってくれ」
「やったのじゃ。みんな喜ぶのじゃあ」
俺が手渡したのは、遠距離通話用の魔道具と結界発生装置である。
ハティが実家に帰るときのために作った物だ。
「喜ぶかな?」
「もちろん喜ぶのじゃ。主さまの画期的な魔道具をみて、古竜のみんなも興奮していたのじゃ」
「古竜の魔道具技術の方が凄いと思うが……」
「そんなことないのじゃ! 主さまの方がずっとすごいのじゃ」
ハティは興奮気味に尻尾を振る。
お世辞だろうが、人を超えた叡智を持つ古竜に褒められるとこそばゆい気持ちになる。
「主さま。遠距離通話用魔道具、三つあるのじゃが」
「正確には一対ともう一つだな」
結界発生装置は純粋なお土産。
遠距離通話用魔道具は、お土産でもあり、実家に帰ったハティと連絡できたほうが便利だから持たせるのだ。
「この一対の遠距離通話魔道具はお土産。取り扱いは御父上に任せる」
「いいのかや?」
「いいよ。古竜ならば、悪用しないだろうしな」
魔道具などなくとも、古竜が本気になれば人族の国を滅ぼすことは難しくないのだから。
それに、古竜の大王の宮殿から、魔道具を盗むなど、成長した勇者にも難しいことだ。
悪者に盗まれる心配もしなくていい。
敵が盗むとしたら、皇帝や皇太子、姉にわたした分を狙うだろう。
その方がずっと簡単だ。
「父ちゃんが喜ぶのじゃ。遠距離通話用魔道具の話をしたとき『理屈がわからん、本当に可能なのか、天才か?』ってびびりちらかしていたのじゃ!」
「そ、そうか」
古竜の大王を驚かせることができたのなら、それは少しうれしい。
「で、遠距離魔道具の片割れは、連絡用なのかや?」
「そう。お土産じゃない。ハティと俺の連絡用だ。今後ずっと持っていてくれ」
「え? いいのかや?」
「いいぞ。連絡できた方が便利だからな」
「えへへ。大事にするのじゃ」
そして、ハティは実家へと帰っていった。
俺はファルコン号に言う。
「今日は泊まっていくとして、ファルコン号はいつ頃までいれるんだ?」
「ふぁるふぁる〜」
「しっかり休んでくれたらいいのだが、ファルコン号が帰るまでに、もう一つ遠距離通話用魔道具を作りたいな」
「ふぁる?」
「ケイ先生へのお土産だよ」
手紙を使わなくても連絡できるならその方が便利だろう。
俺も魔道具作りで困ったら、聞きたくなるだろうし。
「……お土産なら対でつくらないとじゃないの?」
「コラリー鋭いな。だが、ケイ先生なら、必要なら自分で作るだろ」
「……そ」
遠距離通話用魔道具で最も難しいのは、魔石を綺麗に二つに割る工程だ。
魔石を綺麗に割る方法を編み出したのはケイ先生である。
だから、ケイ先生は俺が片割れを送ればすぐに作れるようになる。
送るのは片割れだけで充分なのだ。
俺は満腹になってうとうとするユルングをひざの上に乗せて、遠距離通話用魔道具を作っていく。
もう慣れたものだ。さほど時間をかけずに作ることはできるだろう。
俺が作っている間、ファルコン号はベッドの上で眠っていた。
やはり疲れていたのかもしれない。
「コラリー。頼みがあるんだが」
「……なに? 何でもいって。何でもする」
「うかつに何でもするとか言うな」
「…………ほんとうに何でもする。何でも」
「本当に、何でもするとか言わなくていい。気が進まなければ断っていい」
「……でも」
「気が進まないことはやらなくていい。無理にやらせるなら、俺は光の騎士団とかわらない」
「…………ヴェルナーはあいつらとは違う」
世の中にはやりたくないけど、やらないといけないことであふれている。
気が進まないことだって、やらないといけない。
俺だってそうだ。だが、選択肢はあった。
嫌なものと嫌なものの選択肢から、ましなものを択ぶといったものであっても、選ぶことはできたのだ。
一方、コラリーは魔道具で操られ、やりたくないことばかりさせられてきた。
やるかやらないか自分で選択することもできなかった。
だからこそ、やりたくないことをやりたくないと言えるようになって欲しい。
「コラリーは奴隷ではないからな。自分の意思でやることを決めればいい」
「……わからない」
十歳のころから選択肢すらなかったのだ。
戸惑うのもわかる。
「まあ、なんとなくでいいよ。何か嫌だなと思ったら、やめればいい」
「…………わからないけど、わかった」
まだ、コラリーは腑に落ちてはいなさそうだ。
だが、少しずつ慣れて行けばいいと思う。