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104 コラリーの居心地

 俺は魔道具製作の手を止めると、コラリーを見る。


「で、頼みなんだが、ロッテを鍛えるのを手伝ってくれ」

「……ん。わかった。でもどうしたらいい?」

「嫌ではないのか? 攻撃魔法を使ってもらうことにもなるが」

「……大丈夫。嫌ではない。でも死なない?」

「俺が、ロッテに気付かれないように防御する。だから、絶対にコラリーの攻撃はロッテには届かない」

「……わかった」

「ロッテには俺が防御していることは内緒だ。そのための訓練だからな」

「……わかった」


 俺とロッテが手合わせするのも、いい訓練になると思う。

 だが、ロッテは俺を信用してくれている。

 俺が相手だと、ロッテは死ぬかもしれないという危機感は覚えないだろう。


「コラリーとはまだ知り合って日が浅い。仲良くなるのはこれからだ」

「……ん」

「それに、コラリーのことを強いと聞いてはいるだろうが、実際に魔法を見たわけではない」

「……わかる。弱い奴の方が訓練相手として怖い」


 コラリーの言い方だと誤解を生みそうだ。

 訓練ならば、自分より圧倒的に強い奴と、自分より少し強い奴ならば、力量差がない方が怖い。

 力量が近い方が、手加減することが難しくなるからだ。


 それに、口には出さないが、コラリーは姉の暗殺未遂事件の実行犯でもある。

 いくら魔道具で操られていたと聞かされても、心の中で恐怖は覚えているだろう。


「……ロッテに奇襲しかける?」

「それはやりすぎ。護衛の騎士に対する根回しも大変だし」


 ロッテは常に騎士に護衛されている。

 コラリーが急に襲い掛かれば、騎士たちは本気でコラリーを殺しにかかるだだろう。

 それになにより、ロッテが心の底からコラリーに恐怖を覚えれば、今後仲良くなるのが難しくなりそうだ。


「ちゃんと、試合の形式を作るから、その時に頼む」

「……わかった」

「普段は、殺気とかも飛ばさなくていいよ」

「…………わかった」

「嫌だなとか感じた点はないか?」

「……ない」

「そうか、これからそういう風に感じる点があったら、いつでも言いなさい」

「……ん」

「訓練法は他にもあるからな。責任は感じなくていい」

「…………わかった」


 コラリーがロッテの訓練相手を了承してくれた。

 俺は安心して、遠距離通話用魔道具の作成を続ける。


「ピピ」

「……ぴぴ」

「ピピピ」

「……ピピピ」


 掃除をするタロの後ろをコラリーが付いて回っていた。

 なんか交流しているようにも見える。


「コラリー、暇か?」

「……暇。何か手伝うことある?」

「うーん。特にないんだが……」


 コラリーの相手はハティに任せていた。

 だから、ハティが出かけている今、俺が相手をしなければなるまい。


「コラリー、文字は読めるか?」

「……読める」

「本ならあるから、読んでいいぞ」

「……わかった」


 コラリーは本棚に向かい、俺は作業を続ける。

 だが、コラリーはすぐに読書を止めて、タロの後ろを歩き始めた。


「ピピピ」「……ぴぴ」

「本はあまり面白くなかったか?」

「……そんなことない」

「まあ、ここには絵本の類はないからな……」


 あるのは魔道具と魔法関連の本だ。

 主に論文だが、解説書や初心者向けの本もある。

 どうやら、コラリーは魔法の本もあまり好みではないらしい。


「……折角だから、掃除を手伝う」

「そうか、気を遣わなくていいのに」

「……暇だから」

「母屋の方で遊んできてもいいんだぞ? 手伝いたかったら手伝えばいいし」

「……ここにいる」

「そうか」

「……じゃま?」

「邪魔ではないぞ。コラリーが退屈かと思って」

「……退屈じゃない」

「そうか、それならいいんだが」

「……掃除する」

「タロが掃除してくれているが」

「ピピ」

「……タロがやってないところをやる。迷惑?」

「迷惑ではないし、むしろありがたい」


 俺がそう言うと、コラリーはにこりと笑った。


「……掃除する」

「じゃあ、頼む」


 仕事をすることで、役に立ち、自分の居場所を作りたいのかもしれない。

 そういうことは気にしなくていいのにとは思う。

 だが、それは俺が貴族だからかもしれない。

 貴族は仕事自体より、その存在に価値がある。

 姉と同じぐらい有能な者がいたとしても、姉の仕事はできない。

 なぜなら、姉の仕事には、辺境伯家の嫡子ローム子爵であるということが必要とされるのだ。

 それは皇族も変わらない。


「休めるときには休めばいいと思うが……」


 存在に価値があり、必要となればその役目を果たさざるを得ないのが貴族というものだ。

 だから、仕事がないなら、休めばいい。

 つい、そう考えてしまう。


「……働かざる者食うべからず」


 貴族でない者たちは、働かなければ食べていけない者が大半だ。

 経済的理由を抜きにしても、庶民には労働が存在価値だと考える者が多い。


「あまり無理はしないでいいよ」

「……わかってる」


 コラリーはキッチンなどの掃除をしてくれるようだ。

 タロは床を掃除するように指示をしているので、キッチンの上の方はタロの清掃範囲外なのだ。

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