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107 鍛える意味

 まず、ハティに向こうの様子を尋ねるところから始める。

「ハティ、そちらはどうだ?」

『あ、主さま! ハティは元気に飛んでいるのじゃ!』

「無理はするなよ。何か問題は無いか?」

『順調なのじゃ! たまに飛ぶのは気持ちが良いものじゃな』

「りゃ?」


 俺とハティの声を聞いて、俺に抱かれていたユルングが起き出した。


『ユルングの声が聞こえるのじゃ! 良い子にしているかや?』

「りゃっりゃ!」


 ユルングは嬉しそうに羽をバサバサさせる。


「ところでハティ、連絡したのには理由があってだな」


 ハティにロッテも古竜の王宮に行きたいと言っていると伝えた。


『わかったのじゃ! 父ちゃんに聞いてみるのじゃ!』

 ハティの答えはあっさりとしたものだった。


 その後、少し話して、通話を終える。

 ハティは道程を楽しんでいるようだった。


「返事待ちですね。楽しみです」

「古竜の王宮に興味があるのか?」

「はい!」

「気持ちはわかる。実は俺も興味がある」


 人を超えた叡智を持つ古竜の王宮が果たしてどこにあり、どのような構造をしているのか。

 それに、王宮にどのような魔道具があるのかも気になる。

 重要な機密に属する魔道具や、宝物とされる魔道具は当然見せてもらえないだろう。

 だが、ではない日常的に使われている魔道具などは見せてもらえるかもしれない。

 ありふれた魔道具であっても、異なる理論体系で作られた魔道具であれば、見るだけで勉強になる。


「コラリーはどうだ?」

「…………私?」

「古竜の王宮に興味は無いか?」

「……わからない」

「そっか」


 コラリーは観光などもしたことないだろう。

 行ったことの無い場所に、興味を持つとかそういう発想自体がないかもしれない。


 そんなことを思っていると、ロッテが少し戸惑った様子で言う。

「あの、お師さま、この子は?」

「ふぁるる〜」

 起きたファルコン号が、撫でろというかのようにロッテに身体を押しつけていた。


「あ、そうか。ロッテはファルコン号と会うのは初めてだったな」

「はい。大きな鷹? 鷲なのでしょうか?」

「ファルコン号はケイ先生のお遣いで、たまに手紙を届けにきてくれるんだよ」

「ケイ博士の? そうだったのですね。ロッテです。よろしくおねがいしますね」

「ふぁるる〜」

 ファルコン号はロッテに撫でられて気持ちよさそうにしていた。


「そうだ、ロッテとコラリーもこの研究所に入れるようにしておこう」

「ありがとうございます!」

「……ん」


 研究所の結界を解除できるようにしておくのは、その方が便利だからだ。


「自由に出入りしていいぞ」

「わかりました! ありがとうございます!」

「……ん」

 寝ているところを起きて、扉を開けに行くのは面倒だ。

 勝手に入って、勝手に作業してくれた方が俺としても楽なのだ。


「りゃりゃっ」

 ユルングがお腹が空いたと鳴き始めた。

 寝てご飯を食べて、遊んでまた寝る。

 ユルングは赤ちゃんなのでそれが大切な仕事のようなものだ。


「ユルング、少し待ってな。すぐ用意する」

「りゃあ〜」

「ファルコン号も食べるだろ?」

「ふぁるる〜」


 ファルコン号はどこから飛んできたのかわからない。

 だが、きっと長旅だったのだろう。

 寝て、食べて体力を回復させなければならないのだ。


 肉を焼き、卵を茹でて、パンを温める。

 それを適当に器に盛ってファルコン号の前に置く。


「ファルコン号、ハティの料理ほど手が込んでなくて済まないな」

「ふぁるふぁる!」

「ユルングも食べなさい」

「りゃっりゃ」


 ひな鳥のようにユルングは口をあける、

 俺はユルングの口の中までパンや肉、茹で卵を運んだ。

 そうしながら、ロッテに言う。


「さて、ロッテ。ケイ先生が手紙でロッテを鍛えろって」

「ケイ博士から、ですか?」


 ロッテは驚いている様子だ。


「そう驚くことでもないだろう。ケイ先生にとって、ロッテは孫弟子だし」


 弟子が初めて取った弟子なのだ。

 育成方針に対して助言ぐらいするだろう。

 なにせ、弟子を取れと言ったのはケイ先生なのだから。

 助言を全くしないようでは、無責任とまで言える。


「ということで、戦闘訓練をしようと思う」

「ですが……」

「気になることがあれば言いなさい。なんでもいっていいぞ」

「けして、不満というわけではないのですが……」

「戦闘訓練ではなく、魔道具技術の習得に努めたいのか?」

「はい。身を守る重要性も理解していますが……」


 常に近衛魔導騎士に護衛されているロッテは身の危険を感じていないのだろう。

 それは正しい。

 ケイ先生がロッテを鍛えろというのは、ロッテが勇者だからである。

 とはいえ、ロッテに勇者だと伝えても信じられないだろう。


 俺は少し考えて、勇者だということを教えずに、戦闘訓練の重要性を伝えることにした。


「そうだな。確かに今のところは、敵の暗殺対象としての優先度は低いかもな」

「はい。それに護衛の方々もいらっしゃいますし」

「だが、ロッテの最終目標は、魔道具技術を祖国に持ち帰って、国家間のパワーバランスを動かすことだろう?」

「はい。その通りです」

「目的を果たせるぐらい力を付けた頃には、敵の最優先暗殺目標になるぞ」

「確かに……」

「魔道具技術を身につけるほどに、ロッテの暗殺優先度は上がっていく」

「だから、魔道具技術と並行して戦闘力を上げるようにと……」

「そういうことだ」

「さすがはケイ博士です。私の見識の甘さを恥じ入るばかりです」


 ロッテは神妙な顔でそう言った。

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