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108 ロッテ対コラリー

 俺はそんなロッテに向かって優しく微笑む。

「気にするな。疑問に思ったらなんでも聞きなさい」

「はい」

「俺も、少しでも疑問だったり、不満だったら、ケイ先生に言ったからな」

「不満もですか?」

「ああ。ため込むよりいい。なんでも言いなさい」

「わかりました」

「自分で考えるべきときはそう言う。とりあえず聞いていいぞ」


 その後、ユルングとファルコン号の食事が終わる。


「さて、早速ロッテの訓練しようか。コラリー手伝ってくれ」

「……わかった」

「よろしくお願いいたします」

「……うん」


 俺たちは研究所からでて、庭に移動する。

 そこに結界発生装置で、結界を展開させる。


「これで、外からは中で何やってるかわからなくなった」


 どこに目があるかわからない。

 ガラテア帝国の工作員と光の騎士団が壊滅したとしても、まだ敵の黒幕は存在している可能性が高いのだ。

 ロッテがなにをしているのか、敵に教えてやる必要は無い。


「ロッテは剣を使えるんだよな」

「はい。剣はずっと練習してきました」


 攻撃魔法は、俺が先日教えて訓練したことがある。

 とても筋が良かった。


「じゃあ、ロッテは剣と魔法、好きに使いなさい」

「わかりました」

「コラリーは……魔法中心で攻撃して」

「……わかった」

「コラリー、怪我させない程度に手加減してやってくれ」


 コラリーが首をかしげる。

「…………殺しあいしかしたことないけど、やってみる」

「え?」


 一瞬、ロッテの表情におびえが混じった。

 コラリーがプロの暗殺者だったことを思い出したのだろう。


 コラリーの演技がうまい。

 本当に手加減できなさそうな雰囲気を醸し出している。

 先ほど、俺がロッテに危機感を持たせたいと言ったことを覚えていてくれたようだ。


「あ、あの——」

「はじめ!」


 ロッテの発言の途中で、俺は開始宣言をした。

 心構えも、準備も、ロッテにはできていない。

 だが、心構えができているときには暗殺者は襲ってこないものだ。


 ロッテは、俺の「はじめ」の言葉で、慌てたように、腰の剣の柄に手を伸ばす。

 一方、コラリーは、合図と同時に魔法の矢マジック・アローを飛ばしている。


 コラリーの方が、開始の合図から実際に動き出すまでの反応が圧倒的に速い。

 育ってきた環境の差だ。


「くっ」

 コラリーの放った魔法の矢を、ロッテは剣でたたき落とす。


 魔法の矢の速度は俺と戦ったときより、速度も遅く数も少ない。

 コラリーなりに手加減してくれたのだろう。

 だが、一般的な水準からいえば、相当に速い。

 賢者の学院の攻撃魔法学の学生よりも速い。


「ふぁるふぁる!」

「りゃっりゃ!」


 俺の横にいるファルコン号が、興奮気味に羽をバサバサさせている。

 二人ともがんばれと言っているかのようだ。


 俺の肩の上に乗ったユルングも、嬉しそうに尻尾を振っている。

 ユルングは魔法自体が好きなのかもしれない。


(コラリーは、賢者の学院で攻撃魔法の講師になれるレベルだな)


 やはり、コラリーは一流だ。

 護衛に守られた辺境伯家の嫡子を殺しかけたことだけはある。


 コラリーの魔法の矢を、ロッテは必死の形相で剣でたたき落とし、地面を転がって避ける。

 なかなかの反応速度だ。

 だが、コラリーとロッテでは経験値が違う。


 すぐに避けきれなくなるだろう。

 そのとき、コラリーが攻撃を止めることは難しかろう。

 防御して、ロッテを守るのは、師である俺の役目である。

 俺は「はじめ」の合図をしたときから、いつでもロッテとコラリーを守れるように身構えているのだ。


 …………

 ……


 コラリーの激しい魔法攻撃がロッテを襲い、ロッテは泥だらけになって避ける。


(あれ、おかしいな)


 想定していたよりずっと長い時間、ロッテが避け続けている。 

 開始直後の攻撃と、その対応を見て、ロッテが一分もてば上出来だと思った。

 だが、既に五分経っている。


 いつ食らってもおかしくない状態でロッテは、避け続けていた。

 コラリーの魔法の矢も徐々に加速しているし、数も多くなっている。

 だが、ずっとギリギリなのだ。

 かすり傷以上の、ダメージを受けていない。


(嘘だろ)


 俺は心の底から驚愕していた。


 開始からずっと、ロッテの表情には余裕の欠片もない。

 攻撃に転じるどころか、コラリーとの距離を縮めることすらできていない。


 コラリーが徐々に攻撃を激しくするのと同じ速さで、ロッテの動きが速くなっている。


(この五分たらずで成長しているのか?)


 こんなのは剣士にも魔導師にも見せるべきではない。

 たやすく、心を折るだろう。

 才能ある者が長年の努力で到達する場所へと、一気に駆け上がってる。


 ずる、卑怯、いやチート。


(これが勇者か)


 ケイ先生にロッテが勇者と伝えられても、半信半疑だった。

 一般的に勇者とはおとぎ話の存在なのだ。

 だが、異常なロッテの成長を目の当たりにしたら、信じざるを得ない。


 ぎりぎりで避け続けるロッテを相手にして、コラリーの魔法攻撃の激しさが上がっていく。

 コラリーの攻撃が過激になる速さが、ロッテの成長をついに上回った。

 ロッテの剣が吹き飛び、コラリーの魔法の矢がロッテの顔面に突き刺さりかけた。

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