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067 カエル広場、そして人類未踏階層


「さっそく見つけたにゃん。ホブゴブリンが1体。どうしますかにゃ?」

「やるさ。スピーディに行こう」


 3人で第三層『霧惑い大庭園』に降り、探索を開始。

 リフレイアもグレープフルーも、3層をメインに探索をしていたとかで、お手製の地図にはメモがびっしりだし、慣れてくると構造物の微妙な特徴の違いで迷わずに探索できるようになってくるらしい。


 たった一体で出たホブゴブリンは、リフレイアによって簡単に両断された。

 相変わらず凄まじい攻撃力である。


「ヒカル、はぐれないで下さいよ? 迷子になったら終わりですからね、この階層」

「そんなにヤバいのか?」

「そりゃ戻れなくなったらどうにもなりませんよ。ずっと魔物と戦い続けることなんてできませんし、私達、たった2人……フルーちゃんも入れて3人こっきりのパーティーなんですから」


 リフレイア曰く、たった3人で三層を探索するのは、かなり無謀なのだとか。

 斥候は戦力にならないわけだから、実質的には2人。


 ただし、リフレイアは回復手段も持っている戦士だし、俺はポーターを兼任できる。そういう意味では5人パーティーに相当する戦力があると考えることもできるかもしれない。

 通常は前衛戦士が3人で、残りの3人はバックアップだからだ。


 しばらく歩いて直径100メートルほどもある広場に出た。

 中央部には踊るカエルを模したような、2メートル級のなんともいえない像がある。


「カエルの像にゃ。今日はこの辺りで狩りをするかにゃん?」

「そうですね。初日ですし、いいんじゃないでしょうか。ある程度歩き回って三層に慣れるのも必要でしょうけど……それは明日からにしましょう」

「じゃあ、ちょっと見てくるにゃん。魔物は全部大丈夫?」

「ガーデンパンサーだけは避けときましょう」

「了解にゃん」


 リフレイアとグレープフルーが、2人で今日の探索計画を立てていく。

 個人的にはガーデンパンサーってのとも戦ってみたいのだが、まだ初日だ。今日のところは従っておく。


「ヒカル、ここはカエル広場。三層で一番大きい広場です。この場所にさえ辿り着けば、あとはカエルの顔が向いている方向に歩いて行けば出口なんで、最低、ここだけは覚えて下さい。あと、ここで戦闘をしたり休憩したりする探索者も多いですから、拠点にもなりますし、なにかあった時は助けてもらうこともできます」


 なるほど、地面にはびっしりと石畳が敷かれ、戦闘――精霊石目的の狩りを行うには適した場所なのだろう。他の構造物がないというのも邪魔がなくて、デカい剣を振り回すリフレイアには好都合なのかもしれない。


 ちなみに、昨日も来たからこの場所のことは記憶にあった。

 視聴者的には地味すぎて面白くない場所かもしれないが、迷宮の中にこれほど広々とした空間があるというのは、実に不思議だ。

 理屈で言えば、この場所は地下奥深い場所にあるはず。それこそ、地下数百メートル。あの街の地下にこんな迷宮が存在しているということだ。

 その割には、空気もあるし、人間の生存活動に支障を来すガスなどがあるわけでもない。まさに、人間が攻略する為だけに存在しているかのような場所だ。

 しかも、迷宮にはまだまだ先があるのだ。


「トロールにゃん。1匹ですけど、どうするかにゃ?」

「やろう。いつも通りの戦い方で」


 俺が魔物を闇に沈め、合図と同時に闇から出し、同時にシャドウバインド。そこにリフレイアが全力攻撃。

 俺1人でも、トレント以外には通用したやり方だ。全く問題はないし、実際、問題なくトロールも倒すことができた。


 そうして探索は順調に進んだ。

 俺達は三層レベルのパーティーではなかった。

 俺は力は弱いが術がかなり使えるほうだし、リフレイアは戦士としての実力が飛び抜けている。グレープフルーも、斥候としてかなり腕が良いのだろう。複数の魔物とバッティングしないように、上手く誘導しながら魔物を探してきてくれる。彼女自身も、時々魔物と戦うことで少しずつだが位階が上がってきているらしい。ホブゴブリンなら弱点を突くことで一撃で倒すことが可能だった。


「三層もなんとかなりそうだな。まあ、稼ぎは二層とあんま変わらなそうだが」

「魔物の数は少ないですからね。かといって、四層や五層はこの人数じゃ怖いですし、この辺りが妥当なところなのでは?」

「リフレイアは四層まで降りたことあるんだっけ?」

「少しだけですけどね」


 第四層「雨龍大瀑布うりゅうだいばくふ」はデカい滝がある洞窟の階層らしい。


「四層は、あんまり探索に向かないんですよ。水の精霊術士と火の精霊術士は必須です。できれば光の精霊術士もいたほうがいいでしょうね」

「面倒くさそうだな」

「そうなんです。面倒くさいんですよ。魔物は強いですし、地面は滑るし、水で濡れるし、寒いし、暗いし、変なとこからいきなり魔物出てくるし……」


 なるほど。その点、三層は戦いやすい。霧はあるけど身体が濡れるほどではないし、寒くも暑くもない。地面も悪くないし、魔物もあんまり強くない。なにより暗くない。


「そういや、ギルドで見れる迷宮の情報って五層までだけど、六層以降ってどうなってるんだ?」

「この街で一番先まで進んだパーティーの到達階層が六層なんです」

「つまり、まだ六層は攻略途中ってことか」

「かつて、七層まで到達した探索者もいたらしいんですけどね。噂程度の話しか聞いたことないです。情報も回ってませんし」


 五層が「栄光への奈落」、六層は「暁の|黄金(こがね)平原」とかいう名前が付いているそうだ。

 この第五層「栄光への奈落」もかなり厄介で、そこで命を落とす探索者が多いらしいが、リフレイアは四層もキツいといっていたし、つまり四層も五層も六層も、こっから先は生半可なパーティーじゃやっていけない……ということなのかもしれない。


「六層の情報はあるのか?」

「どうでしょうね、ギルドは持っているかもしれませんけど、ギルドも深層への探索は推奨していませんから」

「推奨してないのか? 探索させるのが仕事なのに」

「精霊石自体は五層までで十分集まるからですよ。無理に深部を探索して、実力のある探索者が失われるほうが損じゃないですか」

「そういうもんか。確かに、精霊石以外にはたいした旨味はないのか……」

「ただ、深部を探索しないと|魔渦(まか)の中心濃度が上がりすぎるんで、表層での魔物狩りはかなりハイペースでやる必要があるみたいですけどね」


 迷宮で得られる物……当然精霊石が得られるが、逆にいえばそれだけなのだ。

 もちろん「神獣の贈り物」もあるが、あれは滅多に貰えるものではないし、二層でも貰えたくらいだ。深層だからどうのってこともないのかもしれない。

 とはいえ、贈り物は売ればかなりの金額になりそうだから、金儲けにはなる……だろうか。もちろん、迷宮内では譲渡できないが、迷宮から出てからなら売買可能だ。


 あとは、戦闘そのものと位階を上げるという行為自体に価値を見いだすこともできるだろう。

 だが、それは探索者としては少し特殊かもしれない。みんな、生活のために探索者をやっている。危険を冒して深部を探索する必要などないのだ。


「あっちにグレムリン2体とトロール1体の混成パーティーにゃ。うまく戦わないと、けっこう厄介にゃ奴らですけど、どうしますかにゃ?」


 斥候に出ていたグレープフルーが戻ってきて、戦闘へ。

 リフレイアがトロールを、俺がグレムリン二体を相手にすることで、混成パーティーでも簡単に処理することができた。


 そうして危なげなく、パーティーでの初日の三層探索を終えることができたのだった。


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