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069 精霊力の命脈、そしてリフレイアの事情


「そういえば、魔物の弱点が首の付け根なのは何でなんだ?」


 俺は気になっていたことを思い出して、リフレイアに訊ねてみた。


「首に精霊石があるからかなって思ってたんだけど」

「違いますよ? 命脈が集う場所だからです。そもそも精霊石は『生きていた証』だから、死んだ時に命脈の中枢に生まれるもので、生きている間には存在しません」

「そうだったのか……。っていうか命脈って……?」

「精霊力が流れてる霊脈があるんですよ。身体の中に」


 リフレイアが言うには、人間も魔物も精霊力の流れというものが身体にあり、その中心点が首の付け根にあるのだそうだ。

 そこを破壊されるとどうにもならなくて死ぬのだとか。

 なので、その部分だけでも防具を着けろと注意される始末。確かに、聞いたら怖くなってきたから、お金貯まったら防具を作ろう。


 良く見てみるとリフレイアもグレープフルーも、首の付け根は完全防護だ。

 俺みたいに剥き出しなのは珍しかったか。


「なんか理由があって、防具付けてないのかなって思ってましたけど……まさか、知らなかったなんて……。もっとヒカルは勉強をしたほうがいいですね」

「ギルドに探索者心得みたいな本ないのかな」

「本なんかより、私が教えてあげますから。大丈夫ですよ。なんでも訊いて下さい」


 リフレイアがドンと胸を叩く。

 教えて貰えるのは正直助かる。

 地球とは違う世界。教えて貰わなければ常識が違い過ぎて、違うということにすら気付かないことが多すぎる。

 まさに、なにをわかってないのかすらわかっていない。そんな状態なのだから。


「ところでさ……一緒に迷宮潜ってて思ったんだけど、リフレイアって探索者なのか? それとも、騎士見習い? 正規の騎士目指してるってことは、試験の時までここで修行してるってことでいいのか?」


 運ばれてきた|おかわり分(・・・・・)を食べながら、そんなことを訊いた。探索者同士の詮索が御法度だとしたら、かなり微妙な質問だが、俺は彼女のことが知りたかった。

 ハッキリ言って、リフレイアの存在は探索者の中でも異質だ。

 ときどき見かけるベテラン探索者ならば、リフレイアのように良い武具を身に付けて、涼しい顔をして潜っていく者もいる。

 だが、彼女はあくまで三層がメインの中級の探索者でしかない。

 聖堂騎士見習いだから良い装備なのはわかるが、それが探索者の真似事をしている意味がいまいちわからないというか……、繋がってこないのだ。


「リフレイアも目的があってここにいるんだろうに、手伝って貰ってるから、なんか俺に手伝えることとかあるのかなって。……訊いちゃまずいことだったなら、答えなくてもいいけどさ」

「目的ですか。……いちおう二つあって迷宮に潜ってました。その内一つはお金ですね。迷宮探索は危険な分、儲かりますし」

「もう一つは?」

「私が聖堂騎士見習いだって話はしましたよね? それですよ」

「うん? それが関係あるの?」

「そっか……ヒカルは聖堂騎士のことも知らなかったんですね」


 聖堂騎士のことは、この世界では常識なのだろうか。

 騎士といったって職業の一つでしかない。常識というほど周知されてるとは思えないが。


「聖堂騎士……大精霊様を祀る神殿を守る騎士には、二つの力が必要とされているんです。まずは、単純な戦闘力……これは武技と位階のことですね。そして、もう一つが『精霊術』。私は光の大神殿の聖堂騎士を目指しているので、光の精霊術が使えなければなりません」

「じゃあ、条件満たしてるんじゃないのか? 位階だって、リフレイアはかなり高いだろ」

「ええ。位階も戦闘力も申し分ないはずです。……でも、ヒカルならわかるでしょう? 私は精霊術がうまく扱えていない」


 少し辛そうにそう吐露するリフレイア。

 俺ならわかると言われたが、よくわからなかった。使い所がなかったのと、俺の術だけでどうにかなってたので、リフレイアの術は最初のころに試しに何度か使ってみた程度で、その後の探索では使っていなかった。

 俺が彼女の精霊術を戦力外と考えたと思っているのだろうか。

 ……いや、現実としてそういうことなのか。

 闇と光は相性が良いとは言い難いのは確かだし。


「つまり、精霊術が聖堂騎士になる水準に達していない……そういうことか?」

「そうです。聖堂騎士になるには第4の術フォトン・レイが使えなければダメなんです。私の家は代々聖堂騎士団長を輩出してきていて、長女の私は、当然そうなることを期待されていたんですが……それが、まだこの歳になっても、正騎士にもなれていない落ちこぼれ」

「リフレイア……」


 俺はそんなことも知らずにパーティで彼女を「戦士」として使っていた。

 パーティーメンバー失格だな。


「私の妹はもの凄く精霊術が上手くて、その輝くような術から『|光輝(こうき)のフローラ』なんて呼ばれてたんです。それに引き換え、私は輝くことのできない『鈍色(にびいろ)のリフレイア』……」


 俺は自分の努力ではなく、チートで能力を得た異邦人だ。

 その俺が、この世界に生まれ暮らしている彼女の切実な悩みを、簡単に慰めたりすることなどできるはずがない。


 だから、できることは一つだけ。

 彼女の精霊術を鍛えること。それだけだろう。


「リフレイア。その第4の術が使えるようになればいいのか?」

「えっ? はい……でも、もうずっと精霊術使ってきたのに、ダメでしたから。私、迷宮に入って1年経つんですよ? 普通なら、術の位階だって上がってていいはずなのに」

「いや、まだ諦めるのは早いだろう。ただで手伝ってもらうのは心苦しく感じてたんだ。あと9日しかないけど、その間、第4の術が使えるようになるようサポートするよ」

「サポートって言ったって……、私、日に5回も術を使えば限界になっちゃうから……」


 彼女たちが知っているかどうかはわからないが、術は「熟練度制」だ。

 つまり、使った数だけ強くなる。

 さらに、実戦で使ったほうが熟練度は上がりやすい。例えば、俺のダークネスフォグの熟練度は、ただ闇に潜む為に使っていてももう全く上がらないが、戦闘で相手を闇に包む使い方をすれば上がることがある。

 リフレイアの術もその路線で鍛えることができるはずだ。

 たぶん、彼女はライトの術など、単純に光源としてしか使ったことがないのではないだろうか。

 あくまで、戦闘で使わなければ熟練度を上げるのは難しいのだ。


「ま、とにかく試してみよう。ところで、気になってたんだけど、その術も本人のもそうだけど『位階』が上がったとか、どうやって知るの?」


 実はステータスボードは誰にでも出るものだったりして……。


「大精霊様に教えていただくんですよ? って、ヒカルは訊けないじゃないですか! あー、そうか……不便ですね、愛され者って」

「あー、いや。それならいいんだ。問題ない」


 大精霊ってそういう便利な存在だったんだな。

 レベルを教えてくれる神様か……。まったくもってファンタジーだ。


「あれ……? でもヒカル、顕の位階4だって……どうやって知ったんですか?」

「まあ、その辺りはそのうち話すよ」


 これを話すと、異世界転移から説明する必要がでてくる。

 すべてが終わったら話すことにしよう。


 俺達が話している間、話に加わらなかったグレープフルーは満腹になってスヤスヤ眠っていた。

 やはり猫かもしれない。




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