「術の練習って独学でやるものなのか? 先生みたいのがヒントくれるんじゃないの?」
俺は「顕」を実戦で使うのが一番術全体が伸びると実感しているけど、もしかすると、もっと良い練習方法があるのかもしれない。
この世界に来たばかりの俺なんかより、研究も進んでいるはずなのだし。
「いえ……精霊との感応は個人の資質だからと、そういうのはあんまり。妹は天才で、契約から1ヶ月でフォトンレイを取得していましたから、やりかた次第で伸びるとは考えたことがありませんでした……」
「う~ん、これだけ精霊術に頼った世界なのに、そんな事あるのか……?」
「もしかしたら、光の大神殿は少し特殊だったかもしれません。なんていうか……閉鎖的ですから」
リフレイアによると、光の大精霊の神殿は数が少なく、彼女の故郷であるシルティオンも「もともと光の大精霊がいた場所」に神殿と街を作った場所なのだそうだ。
この街のように大精霊を4体も集めて、探索者と契約しまくっている場所とは違う……そういうことのようだ。
しかし「顕」がないがしろにされているってのは、考えてみればわかる気もする。
俺だってまっとうな戦士だったら、シャドウバインドばかり使っていたかもしれない。
「ま、なんにせよやれるだけやってみよう。どうせ、1日で使える回数には限りあるんだし」
「あっちにオークがいるにゃん。どうしますか?」
「倒して、またオーガを見つけよう」
「了解にゃ」
オークやゴブリン相手では、術の練習だとしても物足りない。リフレイアが強すぎて、ただの虐殺になるだけだからな。
そうして、オーガ相手にリフレイアの光の精霊術の練習をした。
リフレイアはオーガならば、普通のタイマンだったとしても倒せる。素の状態でも、オーガより強いのだ。そこにダークネスフォグやライトを絡めることで、一撃で確実に倒すことができた。
ダークネスフォグを使わないで、ただライトを浴びせるだけでも、かなりオーガを怯ませることができる。普通に考えて、ダークミストと同レベルの術とは思えない強さだ。
光にはフォトンレイとかいう強力な攻撃術もあるらしいし、回復術もあるわけだから、闇と比べてかなり直接的に有効で強いと言わざるを得ない。
……まあ、俺にはこの闇の術が合っているから、別にいいけど。
「はぁ、はぁ……。やっぱり5回使うとかなり消耗しますね……」
顔を赤くして息を乱すリフレイア。
精霊の寵愛を得ていない者にとって、精霊術5回というのはなかなかキツいもののようだ。俺は、なんだったら三層まで降りるだけで5回以上使っているから、感覚の違いが断絶レベルであると言っていい。
俺は二人に見えないように、ステータスボードを操作し、3クリスタルを使い精霊力回復ポーションと交換した。
「リフレイア、これを飲んで」
「えっ、えっ、なんですか? これ。ジュース?」
「精霊力回復効果があるジュース」
俺があまりに気楽な調子で渡したからか、おそらく冗談かなんかだと受け取ったようで、リフレイアは笑いながら受け取って一気に飲んだ。
ま、味はオレンジジュースそのものだしな。
「ありがとうございます、美味しいですね――って、え? あれ……? なんで??」
「身体から熱が引くだろ?」
「こっ、これ本物の精霊力ポーションだったんですか?」
「そう言っただろ」
「だって精霊力ポーションなんて、銀貨5枚はするでしょう?」
「偶然持ってただけだから、気にしないで」
中級の傷用ポーションより高いのか、精霊力ポーション。
一本で銀貨5枚はかなり高価だ。
「じゃあ、三層に降りて精霊術の練習を継続するぞ、リフレイア」
「え、えええ!? まだ続けるんですか? ヒカルってけっこう厳しいですよね?」
「もう何日もないからな。それまでにフォトンレイを覚えなきゃだし」
「ほ、本気だったんですか、それ……」
視聴者たちが見ているのだ。イベント事は多ければ多いほど良い。
それに、せっかく付き合ってもらっているのだから、彼女にもメリットがなければならない。
俺は一位になってナナミを生き返らせる。
リフレイアはフォトンレイを覚えて聖堂騎士試験に合格する。
グレープフルーは、いつもより稼げるし、位階も少しずつ上げられる。
そんなことくらいでは、彼女達を利用していることの贖罪にもなりはしないだろうが、少しでも恩恵があったと思って貰えたなら俺自身も少しは救われる。
それが、ただ自分が楽になりたいという気持ちからくる、偽善なのだとしても。
三層では、ダークネスフォグの闇から、ライトの光を浴びせることで、ほとんどの魔物を前後不覚に陥らせることができた。
元々使える分と、精霊力ポーション二本分で、合計15回。残り日数はそれほどないから、第四の術が使えるようになるかどうかはわからないが、リフレイア自身も、かなり手応えを感じているようだ。
もしかすると、なんとかなるかもしれない。
そうして、三層での狩りを三日間続けた。
ガーデンパンサーは結局出現しなかったが、コンスタントな狩りで二層よりも儲けられるようになってきた。
俺自身もトロール以外の魔物は積極的に倒すようにしていたからか、位階が上がってきているのだろう。身体が軽く、戦闘にも慣れてきたように思う。今なら二層のゴブリンやオークくらいならば精霊術なしでも倒せるかもしれない。
「じゃあ、ヒカル。明日は休みなんですよね? 私、大精霊様に位階と……新しい術が使えるようになってるか訊きに行ってきますね」
「そっか、大精霊が教えてくれるんだっけ。フォトンレイ使えるようになってるといいな」
「あはは。さすがに、たった3日で使えるようにはなりませんって」
「そういうもんか」
この世界の精霊術師たちは、新しい術が芽生えたかどうか、自分ではわからないので、近くの大精霊に訊くのだそうだ。ついでに位階も聞いてくるとかで、結果が楽しみである。
俺はステータスボードがあるから、当然訊きに行く必要などない。
それにしても、ステータスボードそのものがけっこうなチートだ。時計もあるし、アラームも設定できるし、3ポイントで世界地図も拡張できるのだから。
視聴率レースは残り7日。
今日でちょうど一週間――半分経過したということだ。
順位はまだ1位にはほど遠い。
明日は、1人で第四層に降りる――