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第7話


「レクシー、これは提案なのだけれど」


 夕食をパクつく私に、母が言いづらそうに切り出した。


「ジェイデンくんと一緒に特訓をするのはどうかしら」


 思いもよらない発言で喉に詰まらせそうになったパンを水で流し込む。


「なんでジェイデンが出てくるの!?」


「だってジェイデンくんは優等生だって風のウワサで聞いたから……彼に教えてもらえばレクシーももっと上達すると思うの。あなたたちは幼馴染で知らない仲でもないから、彼ならきっと協力してくれるわ」


 母はこう言うが、ジェイデンに頼んだところで彼が優しく指導してくれるとは思えない。

 どうせ私の魔法を見ながらゲラゲラ笑うに決まっている。

 学校でも散々笑われているのに、帰ってきてまでジェイデンに笑われるのはごめんだ。


「特訓は一人で出来るから、ジェイデンに協力なんてしてもらわなくていいよ。それにジェイデンだって放課後に私との特訓で時間を浪費するのは嫌だろうし」


「そう? ジェイデンくんは喜ぶと思うけれど」


 確かにジェイデンなら、楽しそうに私を嘲笑いそうだ。

 それが分かっていてジェイデンに頼もうと言い出す母も母だ。


「そりゃあジェイデンは私の滑稽な姿が見られて楽しいだろうけど、私は嘲笑されながら特訓をしたくはないの」


「嘲笑じゃなくて普通に喜ぶと思うわよ。だって傍から見ていて分かるくらいジェイデンくんはレクシーのことが……」


「ごちそうさま。ジェイデンのゲラゲラ笑いを思い出したら腹が立って来たから、シャワーを浴びて怒りを洗い流してくる!」


 私は食器をキッチンへ持って行くと、すぐに熱いシャワーを浴びにバスルームへと向かった。



   *   *   *



 楽しみにしていた『魔物討伐実践』の二回目の授業の時間がやってきた。


「今日は前回よりも強力な魔物と戦ってもらう」


 マチルダ先生が合図をすると、前回と同じく怯えた上級生が魔物の入った箱を持って校庭にやって来た。

 箱の中にいるのは、前回よりもだいぶ小さな魔物だ。


「今回の魔物は毒を持っている。死ぬ類の毒ではないが、刺されると炎症を起こし、しばらくは痛みでのたうち回ることになる。痛みにより気絶する者もいるほどだ。そのため前回のような力業は安易に使うなよ」


 マチルダ先生が私のことを見ながら言った。

 今回も私が魔物にタックルをかますと思われているのだろう。


「今回の授業では魔物はこの個体しか使わないが、実際の現場では他にも魔物が隠れている可能性がある。毒で動けない状態になるのは致命的だ」


 確かに授業と実際の現場では話が変わってくる。


 マチルダ先生の言うように、虎視眈々と獲物が弱るのを待っている魔物が近くに隠れているかもしれないし、魔物の群れに出くわすこともある。

 そしてどんなことが起ころうと、魔物を倒した後は家まで自力で帰らなければならない。

 毒を食らうことは、百害あって一利なしだ。


「今回も私が結界を張る間に、魔物を退治するシミュレーションをしておくように。さらに今回は攻撃を避ける方法も考えておいた方が良い。こいつは好戦的だからな」


 言われた通りに箱の中を凝視する。

 箱の中の魔物は、身体中に棘が生えているようだ。きっとこの棘に毒があるのだろう。

 すぐに生徒全員が用意されていた盾を手にした。今回は上級生の生徒たちも盾を持っている。

 私も例に漏れず盾を構えて、スタートの合図を待つ。


「では、箱を開ける。全員箱から距離をとるように」


 マチルダ先生の指示に従い、全員箱を注視しつつ一歩後ろに下がった。

 緊張で手汗が吹き出す。一度盾から手を離し、ジャージで汗を拭ってから再度盾を持つ。


「今ここには仲間と呼べる生徒が自分以外に六人いる。そのことを忘れるな。実際の魔物討伐も複数人で行なうからな。では、討伐開始!」





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