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第225話 自由ミトフェーラ王国の成立

 ミトフェーラ魔王国の連盟脱退後、正式に国家として承認された自由ミトフェーラ王国の女王に即位したベアトリーチェ。

彼女は連盟への参加後、直ちにイレーネ帝国の輸送機でイレーネ帝国の占領地へと移動した。

既に降伏したミトフェーラの住民は彼女を熱烈な支持の上で迎え入れた。


「ベアトリーチェ陛下万歳!」


「おかえりなさいませ女王様!」


 捕虜となった兵士と、占領した地に住んでいた住民の歓声に包まれながらベアトリーチェは自由ミトフェーラ王国の暫定首都フランハイムへと入城した。

この町は無血開城を受け入れた数少ない町の一つであり、全くの被害を受けていなかった。

町の道路の両脇にはフランス国旗の赤と青を逆にした自由ミトフェーラ王国の旗が掲げられている。


 ベアトリーチェはその後町の中心部にある、元領主の館を居城に定めて入る。

ここの領主は他の貴族たちと変わらず、ロキの影響で徹底抗戦を主張したため住民たちの反感を買って殺害された。

今でもこの町の中心では領主の死体が吊るされており、飛来した鳥に肉を啄まれている。


「ベアトリーチェ陛下、女王へのご即位おめでとうございます」


 イレーネ陸軍総司令官であるロンメル大将は、ベアトリーチェの即位に合わせて彼女のもとを訪問していた。

実はベアトリーチェの復権を一番唱えていたのは彼であり、ベアトリーチェもまたロンメル大将の尽力によって復権できた事実は知っていた。

そんな彼を彼女は丁重に迎える。


「ご即位にあたりましてイレーネ帝国の皇帝ルフレイより、陛下への贈り物がございます」


 ロンメル将軍はそう言い、護衛でついてきたフライコーアの兵士から金の彩飾の施された黒壇製の箱を受け取った。

彼はその箱を開け、まずは中にはいっている小さめの箱を開けた。

中には戦時中にイレーネ帝国の最上位勲章として制定された勲章『テンプル勲章』の星章が入っていた。


 ロンメル将軍はベアトリーチェの同意を受け前に跪き、彼女の胸元に星章を取り付ける。

次に彼はテンプル勲章保有者のみで構成されるテンプル騎士団の正装のマントを彼女の腕に通した。

最後に彼はテンプル勲章の正章を襟元に付け、さらに頸飾を首にかけた。


「テンプル勲章の授与にあたって、イレーネ帝国皇帝ルフレイより伝言を預かっております。『自由ミトフェーラ王国の繁栄と両国の永遠の友好を祈願するものとしてこの勲章を送ります』とのことです」


「ご苦労であった。下がって良いぞ」


「はっ。失礼いたします」


 ロンメル大将は一礼し、ベアトリーチェの方を向き直る。

しばらく2人は膠着した後、ベアトリーチェはニカッと笑った。

ロンメル大将もまた少し肩の力を抜き、彼女に案内されるままに椅子に座った。


「これで堅苦しい式は終わりじゃ。せっかくここまで来たんじゃ、少しゆっくりしていけばよかろう」


「有難うございます」


「紅茶を入れさせよう。砂糖や牛乳はいるか?」


「いえ、結構であります」


 ロンメル大将の返答を聞き、ベアトリーチェはお付きのメイドに紅茶を入れてくるよう言った。

彼女はその時、ロンメル大将に聞こえないよう小声で砂糖たっぷりと伝える。

もちろんロンメル大将の耳には入っていたが、あえて聞こえないふりをした。


「ロンメル殿よ、今ルフレイはどこにいるのじゃ?」


「司令は確か今はノルン島の爆撃機基地にいるはずです」


「この前行ったところか。また会いに行こうかのう?」


「今は危険ですのでおやめになられたほうが良いかと。戦争が終わればいつでも会えるようになりますよ」


 ロンメル大将は危ないからとベアトリーチェを宥める。

彼女自身もそれは分かっており、それ以上ノルン島に行きたいとは言わなかった。

そして代わりに彼女はロンメル大将に気になったことを聞く。


「ところで……妾を女王として仕立て上げようと思った理由は?」


「……見ていただきたいものがございます」


 ロンメル大将はそう言い、控えている兵士に預けたカバンの中から1枚のプリントを取り出した。

それは彼の計画の一環として制作された、四大都市に撒くためのビラであった。

彼はそれをベアトリーチェに手渡し、渡された彼女はそれに目を通した。


「我々はミトフェーラという国家がなくなることは望んでいません。あくまでもこの地は魔族が収める土地であるべきです。そのためには国民の生存が必須。これは人口の集中する四大都市になるべく手を加えないための最善策であると考えています」


「『婦人は君たちに刃を向ける』……つまり占領地の女性を戦争に投入したいということか?」


「いえ、これは謳い文句であり実際に婦人方に出兵を求めるものではありません。ただ前線にいる魔王国の兵士たちに『お前たちの妻は自由ミトフェーラ王国側に立ってお前たちを殺そうとしているぞ! お前たちは本当にそれで良いのか? 嫌であれば離反して自由ミトフェーラにつけ!』と暗に示しているだけです」


「そうか……それならば別に構わんぞ? 妾の名を使うなり何なり好きにするが良い」


 ベアトリーチェに直接許可を得たロンメル大将は本格的に計画を動かすことにした。

出された紅茶を飲んでしばらく談笑した後、彼はベアトリーチェのもとを辞した。

彼はそのまま司令部のある要塞まで戻り、その後ブルネイ泊地の爆撃隊に連絡を取る。


『例の作戦についてベアトリーチェ陛下の許可が降りた。すぐにでもB-36の発進準備を開始してくれ』


『了解しました。既にビラは擦り終わっているので後は搭載するだけです』


『絶対に外さないように伝えておいてくれ。街の外に落ちては意味がないからな』


『分かりました。爆撃手にはそう伝えておきます』


 爆弾倉いっぱいにビラの詰まったカプセルを詰めたB-36は、ロンメル大将の命令より1時間後に最初の目標であるホーヘンシュタットに向かって飛び立った。

圧倒的な高高度を飛行し、敵の対空攻撃に注意しながらB-36はホーヘンシュタットの上空への侵入を試みる。


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