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第224話 く尽途方の力協に遂!ばらさよ盟連

 ミトフェーラ魔王国第四の都市、ホーヘンシュタット。

ホーヘンシュタットは周りを平地に囲まれた台地に位置しており、防御に適した街であった。

台地上の家々の屋根は取り払われ、そこには無数の対空砲が設置されていた。


 また生産の間にあったロケット弾とその発射筒も、戦闘機の登場によって行き場を失ったガーゴイルによって空輸されてきて平地へと撃ち下ろせる位置に配置された。

男も女も全員が武器を持ち、来るイレーネ軍の侵攻に備えている。


「諸君、我々は偉大なる王国、そしてその偉大なる指導者であるユグナー陛下の期待に応えるべくこのホーヘンシュタットにて敵軍を食い止めなければならない! 敵軍は強大であるが我々魔族はそれらを構成する敵軍よりも比較にならないほどの時間を生きてきた。そんな栄えある魔族の底力を今示せ!」


 ホーヘンシュタット防衛にあたっているミトフェーラ軍の指揮官が、町の広場で兵に対して演説する。

戦争方針の転換によりミトフェーラの残存兵力約90万人は、18コの部隊に分割されていた。

そのうち3部隊15万人ずつが王都を除く四大都市に配備され、残りの6部隊30万人が王都の防衛に当たる。


 だが実際には転換されてきた兵士や女性兵士を合わせて約25万人が諸都市の防衛にあたっていた。

各都市には対空砲200門、ロケット発射筒30基、ロケット弾8400発、装甲オーク100体、歩兵用マスケット銃10万丁が割り当てられ、王都にはこの数の倍に加えて200機のIS-1Aが配備されている。


 なんとか工場をフル稼働させて生産した兵器で諸都市の防衛力は強化されている。

また防衛戦力を割けない村々の人はそれら諸都市の中へと避難してきていた。

それだけの戦力を揃えたミトフェーラ軍であったが、その中核をなす兵士たちはこの戦争に疑問を持っていた。


「おいおい……もう東部戦線は瓦解していて、もうすぐでこっちにも敵がなだれ込んでくるらしいぞ」


「国境沿いのあの有名なライヒシュタット線もほとんど意味をなしていなかったらしいな。そんな敵に本当に勝てるのか?」


「さぁ? それよりも俺は敵の占領下にある故郷に残してきた妻が心配だ……虐殺されたり凌辱されたりしていないだろうか……」


「俺も親と妻子を故郷に残している。子どもと言ってももう200歳だが……。それに女子供、老人も全て戦争に動員するなんて狂っている。王も貴族も狂っている!」


 彼らは不満を漏らすのであった。





『こちらベルント、ホーヘンシュタット郊外に部隊を展開し終えました。号令次第でいつでも攻撃を開始できます』


『ベルント、攻撃は待ち給え』


『はっ。でもよろしいのですかロンメル大将?』


 ホーヘンシュタット郊外に展開されたイレーネ=ドイツ軍陣地でベルントはロンメル大将と無線でやり取りする。

ロンメル大将は前線に出ることはせず後方のライヒシュタット線に付属している要塞を拠点としてイレーネ軍の全軍を指揮していた。

フライコーアたちもロンメル大将の護衛部隊としてライヒシュタット線に留まっていた。


『ホーヘンシュタット含むミトフェーラの四大都市には、ベアトリーチェ様からの情報によりミトフェーラの総人口の六割以上が住んでいるとのことだ。そこを壊滅させてしまうと、ミトフェーラ降伏後に国を維持できなくなってしまう』


『それはそうですが……あそこにいるのは全て敵兵ですよ? どちらにせよ攻撃しないといけないかと』


『いいや、今イレーネ本国では戦わずしてその四都市を陥落させるための計画が進行中だ。我らイレーネ軍は敵がこれ以上前進をしないためのストッパーとしての役割だけしておけば良い』


『分かりました。でも都市から出てきた敵兵は容赦なく殺しますよ?』


 一体どんな作戦が進行中なのか聞くことを忘れたな、と思いながらベルントは無線を置く。

彼は部下たちには敵兵には注意するようにとの命令を出し、攻撃は行わない姿勢を取った。

この決定はホーヘンシュタットの南にある、四大都市の一つのヴァイスシュタットを包囲するイレーネ=ソビエト、アメリカ両軍にも伝令された。





 イレーネ島中央大通り、国際連盟本部にて。

本部の議場には参加国家の代表が集まり、会議が行われていた。

内容は今回の戦争に関することから始まり、終始ミトフェーラの外交官であるヴィロンが徹底的に叩かれていた。


 そんな荒れた議場の入口が開き、激しく言い争っていた彼らはピタリと話すことを止めてそちらを見た。

開いた扉からは、イレーネ帝国に保護されている元ミトフェーラ魔王、ベアトリーチェの姿があった。

彼女がこの国にいることを知らない他国の代表は、突然の彼女の乱入に動揺した。


「べ、ベアトリーチェ陛下!? なぜこんなところに」


「何を言っておるヴィロン? 貴様は妾を裏切ってユグナー側についた人間であろう? そんな人間が妾を陛下と呼ぶ権利がどこにある?」


 そう言うとベアトリーチェはヴィロンの椅子へと近づき、彼を椅子から蹴飛ばした。

急に蹴飛ばされた彼は情けなく尻餅をつき、蹴り飛ばしたベアトリーチェを見る。

彼女はヴィロンのことなど気にすることもなく、彼が座っていた代表席にどかっと座り込んだ。


「何をしているのですか! やめてください!」


 ヴィロンは椅子に座ったベアトリーチェの取った行動を止めようとした。

だが彼女はそんな静止など聞かず、机に差されているミトフェーラの旗を抜き取った。

彼女はその旗を無造作に床に投げ捨て、代わりにポケットに入れてきた別の旗を差した。


「そ……その旗は?」


 ヴェロンは立ち上がり、ベアトリーチェに聞く。

彼女は「よくぞ聞いた」と言わんばかりの顔でニヤッと笑い、手に持っていた紙を広げる。

それを他の国の代表たちも覗き込んだ。


「こ……これは!」


「妾はミトフェーラのイレーネ帝国占領地に新たな国家を立ち上げる。これはイレーネ帝国皇帝ルフレイによる新国家建設の確約書じゃ!」


 ベアトリーチェはそう言って、手に持った紙を高々と掲げた。

そこには占領地に新政権の樹立を認めるという旨の文章と、皇帝印が押されていた。

それを見たヴィロンは戸惑ったが、国連の採択を持って新政権の樹立を認めるかどうかの決議を取ることになった。


「えー。賛成6、反対1で自由ミトフェーラ王国を承認することとします」


 議長国でもあるイレーネ帝国の外務大臣オリビアが、賛成多数での可決を告げた。

それを聞いたヴィロンは肩をわなわなと震わせた。

そして彼はかけていたメガネをすっと外して言う。


「もう国際連盟と馴れ合うのも懲り懲りです! 我がミトフェーラ魔王国は国際連盟脱退を宣言します!」


 ヴィロンはそういった後、ベアトリーチェの入ってきた扉から出ていった。

これによりミトフェーラ魔王国の空き枠に自由ミトフェーラ王国が入り、ミトフェーラ魔王国の戦後処理に関する議論がかわされることになった。


――――――――

外伝第2話『食欲の秋です』を公開しました。

近況ノートより是非お読みください。


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