「なんだ、あまり活気がないな……」
俺たちはゼーブリック王国の旧王都に到着、街の中を走行していた。
だが沿道の人、店にはあまり活気が見受けられない。
ここは敗戦したからとはいっても一国の都だった町だ、それがなぜここまで……
「……とりあえず王城に向かってみよう。今は臨時政府の奴らがそこで政治をしているはずだ。何か原因がわかるかもな」
俺は770を王城の方に進ませる。
それを理解した護衛の車も俺に合わせて王城に向かう。
しばらく走ってると王城に着いた。
「おい、止まれ! 何者か名乗り出ろ」
王城の門に近づくと、警備の兵隊が道をふさいだ。
こんな太陽が照り付ける日に全身鎧を着て大変だな。
俺は車から降りて彼らに自己紹介をした。
「お勤めご苦労様。俺はイレーネ帝国皇帝のルフレイ=フォン=チェスターという。少しこの国の長に用があるから入ってもいいかな?」
「い、イレーネ帝国の皇帝陛下!? それは失礼しました! どうぞ中にお入りください!」
そう言って門番は門を開けてくれた。
俺は再び770に乗り込み門の内側へと入っていく。
770を城の正面玄関前に止めた俺は降りて城の玄関を開けた。
「む、誰もいないな。まぁどこかしらに人はいるだろう」
ということで俺は早速階段を上がり元国王の執務室へと向かった。
どうせここには人がいるだろうと思ったからだ。
俺は扉をノックしたが返事がなかったので、勝手に入ることにした。
「おーい、入るぞー」
俺は扉を開けて部屋へと入った。
するとそこには書類の山があった。
そしてよくよく見るとその書類の山の中に人が埋もれている。
「誰だ、部屋に入ってきたのは……ってルフレイ様ではないですか!? すみませんすぐ準備します!」
書類の山から出てきたのは今この国を臨時で治めている王都防衛隊の元隊長だ。
彼は書類をどけてこっちにやって来て俺と握手を交わす。
俺はソファーに腰を下ろし、ついてきたイズンは俺の後ろに立った。
「お久しぶりです、先ほどはあんなお見苦しいところをお見せしてしまい……」
「それは別に構わないよ。今日は少し頼みがあってね」
「頼み、ですか?」
「そうだ。だがその前に少し町を見て気になったことがあるんだが」
町を見て気になったことがある。
その言葉を聞いた彼はびくっと震え、額からは少し汗が流れた。
さてはコイツ俺が何を言いたいのか気づいているな、と思いながら俺は話す。
「町の様子だがはっきり言って活気がない。住民の顔は暗いし町は寂れている。何か統治に問題でもあったのか?」
「……す、すみません!!」
彼はいきなり俺に謝ると頭を床につけた。
別に謝ってほしいと思っていない俺は驚き彼に頭を上げさせる。
まだ謝っている彼を落ち着かせ、椅子に座らせる。
「別に責めているわけではないんだ。ただ戦争からまだ全然復興できていないように見えて気になって。このまま住民たちの生活の質が下がりっぱなしな状況は問題だと思ってね」
「実は……大きな問題がありまして……」
ほう、大きな問題か。
まあ戦後のゴタゴタがあるから問題だって当然起きるわな。
問題の程度によってはこちら側が介入しないといけないだろう。
「実はあの後正式に全土に臨時政権の樹立を公布したのですが、各地の貴族がそれに反発してさながら独立政権のようにふるまい始めまして……それ以来地方からの作物や税金が入ってこなくて」
なんだと、事態は想定外に深刻なようだな。
よくよく考えればぽっと出の人間が国を治めるといったところで貴族ら古くからの勢力が認めるはずもないではないか。
これは完全に統治を放っておいた俺のミスだ。
「すまない、それは完全に俺のミスだ。そして君にも相当な負担をかけてしまったことだろう、許してくれ」
「そんな、ルフレイ様が頭を下げる必要はありませんよ!? 求心力がない私の責任ですから」
そりゃあ素人が政治をやればそうなるに決まっている。
俺が何とかやれているのは俺の力ではなく後ろにイズンがいるからだ。
とにかく今は改善策を考えないと。
「とりあえず各地の貴族をこの町に集めてくれ。俺が直接あって話をしよう」
「わ、分かりました。全員集まるとなると1週間程かかりますがよろしいですか」
「別に問題ない。よろしく頼んだ」
これでとりあえず貴族たちに話をつける目処は立ちそうだ。
つぎに大事なのは国を導く存在だ。
元防衛隊隊長には厳しそうだから誰か良い人物を変わりに探さないとな。
「なぁ、この国で一番人望があるのは結局のところ誰なんだ?」
「人望がある人、ですか。先代の国王は優しく民衆からも非常に人気がありましたね。ですが息子のフェルディナント王に王の地位がわたってから国民との関係は悪化し、結局我々に殺されましたが」
「先代の国王……あ、あのときの爺さんか!」
俺はすっかり忘れていたが確かこの国を占領した時に捕虜として差し出された中にいたな。
どうでもよすぎて今までずっと放置していたが。
今は一体どのような扱いを受けているのだろうか。
「その先代の国王というのは俺が前にあった捕虜の中にいた爺さんか?」
「そうです」
「今はどこで何をしているんだ?」
「今はこの城の地下牢に閉じ込めておりますよ。どうしました? 急に処刑でもしたくなりましたか?」
誰が思いつきで処刑をしたくなるか。
それよりも地下牢に閉じ込められているということはまだ生きているということだよな。
……これは使えるかもしれん。
「今すぐ俺をその地下牢へと案内してくれ」
「地下牢にですか!? あんな汚くて薄暗い所、行かないほうが良いと思いますが」
「構わない。さぁ早く」
俺はそう言って彼を急かす。
彼も俺に急かされて渋々地下牢へと俺を案内する。
階段を降りたり廊下を歩いていると薄暗い通路に出、その先には頑丈そうな扉があった。
「この先に収監しております。もう一度言っておきますが非常に汚いですがそれでも良いんですか?」
「あぁ、早く開けてくれ」
俺がそう言うと彼は扉の鍵をガチャりと開けた。
俺は扉をゆっくりと開き中に入る。
中は薄暗く、そして異臭が充満していた。
「何なんだこの空間は……こんなところに閉じ込めるとはこの世界の人間は正気なのか」
俺はそう思いながらも鼻を摘んで先へと歩いていく。