実験を終えて数日。
俺は鎮守府庁舎から正式に宮殿へと居を移した。
今はそこの皇帝執務室で書類に目を通している。
これらの書類のほとんどは終末兵器とそれに関する報告書だ。
だが内容が少し難しいので1つ読み通すのにも苦労する。
それでもひとつひとつ読み通し、承認のはんこを押していった。
「あーつかれた、ちょっと休憩」
俺は目が疲れてきたので少し休むことにした。
無駄にふかふかな革張りの椅子に体をうずめて目を閉じる。
だが天井にかけられているシャンデリアの光が瞼を貫通してきてあまり効果はなかった。
今度アイマスクでも作ってもらおうか……
コンコン
「ご主人様、ルクスタント王国の軍務卿様より通信が入りました」
オリビアは軍務卿からの通信が書き留められた紙を持ってやってくる。
俺は彼女から紙を受け取り、内容を確認する。
そこにはこう書かれていた。
「何々……『過半数の加盟国による要望があったので臨時で大陸国家合同会議を開くことになりました。開催国はルクスタント王国が受け持つと打診しましたが、どの国もイレーネ帝国での開催を希望しており、ルフレイ様には悪いのですがイレーネ島での開催を受けていただきませんか』か」
特に他国からそのような打診がうちの国に入ったとは聞いていないが。
まぁ十中八九肥大化したルクスタント王国と強大な戦力を持つ我が国をよく思わないから嫌がらせがてらにやってきているのだろう。
だが……
「ちょうどいい、彼らに我が国の発展具合を見せつけることができるであろう。オリビア、軍務卿に了解したと伝えてくれ」
「畏まりました。それと1つ相談が……」
ほう、オリビアから相談してくるなど珍しいな。
いつも世話になっているからこういう時にはちゃんと返してやらないとな。
オリビアは俺に話を切り出す。
「お願いなのですが、もう少しメイドの人数を増やしてもらえないでしょうか。イレーナさんとの2人体制では多くのお客様が来られた時に対応することができませんので」
あ、そういう相談ね。
確かに宮殿はばかみたいに広いし、2人では手が届かない所も多いだろう。
だが島に住んでいる人間はいるとは言え少数だし、どこかから勧誘してこないといけないな。
「あ、そうだ。ゼーブリック王国とヴェルデンブラント王国の領民から働きたい人間をスカウトしてこよう。ちょうど戦後処理が順調に進んでいるか視察にも行っておきたいと思っていたし」
ならば決定だな、明日には出発しようか。
オリビアを見ると、メイドが追加される見込みがでたと喜んでいた。
今まで負担をかけてしまって申し訳ないな、何か帰りにお土産でも買ってこよう。
◇
俺は予定通り翌日の朝にワスプに乗りイレーネ湾を出港、一路Z泊地を目指す。
というか何時までもZ泊地と呼ぶのもあれだし何か名前を考えたほうが良いかもな。
と思い俺はすっと横を見た。
「なぁイズン、Z泊地って名前変えたいんだがなにかいい案はないか?」
そう、この旅には何故かイズンがついてきている。
彼女によると俺を守るためだとか何とか。
もはや1人で宮殿のアレコレをしないといけないオリビアがかわいそうだよ。
「新しい名前? そうね、なにか既存のものから取ってくれば良いのではないかしら。例えば実際に地球にあった泊地の名前とかね」
地球に実際にあった泊地の名前の流用か。
たしかにそれならば変な名前になることもないし良いな。
ではどこにしようか。
「呉や佐世保、舞鶴の名はこの世界にあわないので必然的にブルネイ、パラオ、リンガにラバウルなどに絞られるな。外国の泊地となると真珠湾や二ユーポート、ノーフォークなどもあるがここはやはり帝国海軍の泊地の名を使いたい……」
どれも捨てがたいが、さてどれにするべきか。
ラバウルは大型艦が停泊できないし、トラックは珊瑚礁泊地だ。
となるとブルネイの名が一番しっくり来るな。
「よし決めた、名前をブルネイ泊地へと変更する!」
そうこうしているとワスプはZ泊地あらためブルネイ泊地へと入港する。
湾内には多くの軍艦が静かに停泊していた。
やはりここにブルネイの名をつけて正解だったな。
ワスプから俺とイズンは降りるが、俺達以外にも降りていく一団があった。
彼らはもともとイレーネ島で工兵をしていた者たちだ。
だがある程度建物も建って人手があまり始めていたので、彼らにはブルネイ泊地の設備改修をしてもらうことにした。
ブルネイを接収した時に燃料の貯蔵槽や最低限の施設は揃えておいたが、本島の泊地と比べると見劣りするものであった。
そこで今回は本島と同様の機能を持つよう工事をしようという話になったのだ。
大臣のウィリアム大将も快諾してくれた。
「というわけで君たち、よろしく頼むよ」
「お任せください! 最高の泊地に仕上げてご覧に入れます」
「頼もしいね、楽しみにしているよ」
そう言い、俺達は分かれた。
俺は本島から持ち込んだ770に乗り込む。
イズンは助手席に座り、泊地に残っていたハンヴィーやブラッドレーなどの護衛を受けながら自らゼーブリック旧王都を目指す。
だがその道中、泊地をでた時にで俺は気付いてしまった。
この泊地には防壁を含め一切の防衛機能が備わっていないのだ。
このままでは攻められた時にすぐに陥落してしまうだろう。
「気付いていなかったがかなり致命的な弱点だなこれは……帰ったらトマスやシュペーにでも相談するとするか」
トマスもかなりのブラック労働だが大丈夫だろうか。
まぁ彼は生身の人間ではなく召喚された人間だから大丈夫であろう。
彼を俺は何かと頼りにしているよ。
そう思いつつ俺は車を走らせる。
770はオープンカーなので風が入ってきて心地よかった。
俺達は寄り道することなくまっすぐに旧王都へと向かっていく。