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第113話 つかの間の休息

 オォォォォ……


 頭上に迫りくるプロペラの音。

アルブレヒトたちが見上げた先には、急降下してくるP-38Lの姿があった。

一同一瞬だけ動きが止まった後、すぐに防御の姿勢を取った。


「スキル【武神】発動!」

「スキル【鉄城】発動!」

「スキル【極射】発動!」


 アイゼンバッハはスキルを発動しながらとっさにアルブレヒトの前に立ち両手を広げる。

アルブレヒトもまたスキルを発動させ、自身とアイゼンバッハの防御力を底上げした。

ドルンベルクは華麗なステップで後ろに下がり、彼の自慢の弓をつがえた。


 バシュッ!


 弓から矢が放たれ、放たれた矢はものすごいスピードでP-38Lへと飛翔する。

そして矢は降下してくるP-38Lの主翼に命中した。

そのまま矢は弾かれるかと思われたが、驚くべきことに矢は主翼を貫通した。


 だが大した損傷でもないので機体はそのまま降下し、機銃を発射した。

その機銃弾はアイゼンバッハの体に次々と命中する。

相当数が命中したが、彼自身のスキルとアルブレヒトのスキルによって強化された鋼の肉体を貫くことはなかった。


「うぉ、いてて…… 陛下は大丈夫ですか?」


「あぁ、この通りピンピンしておるわい」


 アルブレヒトは肩をぐるぐると回した。

2人とも機銃掃射を食らったというのにピンピンとしている。


「それにしても不思議な攻撃でありましたな」


「そうだな。ますます敵とやり合うのが楽しみになってくるわい」


「陛下、とりあえず室内に戻りましょう。何かあったら困りますから」


 ドルンベルクの進言で一旦3人は王城内へと戻った。

P-38Lの編隊は敵を見失ったと判断して、次の目標に向けて飛び出した。


 その頃AU-1は……


『各機に告ぐ、目標は敵の滑走路及び食料庫、格納庫だ。1つ残らず粉々にしろ』


『『『了解、全機突入する』』』


 特に敵からの攻撃も受けなかったAU-1の部隊は、そのまま滑走路の上空へと侵攻する。

今まで何度も敵を葬ってきたロケット弾が、主翼下のポッドから顔をのぞかせる。

そしてAU-1はロケット弾を一気に発射した。


 ロケット弾は地表に衝突し大爆発を起こす。

飛行場は手前から奥に次々と火柱がたった。

飛行場に攻撃をかけなかった部隊は格納庫、食料庫に攻撃を加える。


 その時ちょうど滑走路に降り立っていたドラゴンが迫りくる火の柱を見て驚き、格納庫の方へと突っ込んだ。

暴れ狂うドラゴンに整備員たちは騒然とし、皆散り散りに逃げ出した。

だが建物を出るよりも早くロケット弾が建物に命中し、彼らは建物の中で丸焼きにされた。


 攻撃を終えたAU=1が帰還する頃には飛行場一帯は火の海となっていた。

立ち上る黒い煙と炎がその攻撃の威力の高さを示していた。

攻撃を成功させた部隊は堂々陣形を組んで基地へと帰還する。





「そうか、攻撃は成功か。よくやったと基地航空隊の連中に伝えてくれ」


 今俺がいる場所は、ヴェルデンブラント王都へと続く街道にある宿場町の宿。

流石に野宿しっぱなしというのもあれなので先に進んだが、そこにちょうどいい街があったので占領して拠点として使用している。

勿論住人に危害は加えていないし、あちらがなにか抵抗することもなかった。


 その宿の一室を借り切って今は作戦会議中だ。

敵軍の本隊をあまり削ることが出来なかっため、かなりの戦闘になることが予想される。

それに……


「機関銃で傷のつかない人間……にわかには信じられんが。だって12.7mmだぞ?」


 ベルントはそう言って部屋の中をうろちょろ歩き回る。

まぁまぁと言って俺は彼をなだめて席につかせた。

だが生身の人間が機銃弾に耐えれるとは到底思えない、となると……


「俺と同じく戦闘に特化した固有スキル持ち……か」


 結論としてはそれしか考えられなかった。

今までの戦闘で敵が固有スキルを使ったりしているなぁと感じたことはないが、固有スキルを戦闘に活用できる人がいても何ら不思議ではない。

逆に今まで見てこなかったほうが不思議だ。


「司令のものとは違い自身の能力を底上げするスキルってことですかい。銃弾が効かないとなるともはや戦車砲でしか……」


「ばか、それはやりすぎだろう。それに的が小さすぎて当たらんわ」


 ベルントとロバートがそんなことを言い合っている。

議論はまだまだまとまりそうになかった。

そう思っていると、扉をノックする音が部屋に響いた。


「失礼いたします。夕食を持ってまいりました」


「おぉ、ありがとう」


 この宿屋の女主人がワゴンを持って夜食を持ってきた。

この宿を借り切る時に「夕食はいかがで?」と聞かれたので頼んでおいたのだ。

ワゴンから料理を取り出して俺の前に置き、そして銀のクローシュをパカッと開けた。


「これはこれは……見事な香草焼きだ!」


 蓋を開けて出てきたのは、若鶏の香草焼きであった。

取り合わせのパンとスープも置かれ、部屋にはいい匂いが立ち込めた。

ベルントやロバートたちの分の食事も運び込まれた。


「では、いただきます」


 俺は手を合わせてナイフとフォークを手に取った。

だがいざ肉にナイフを入れんとした時に、隣りに座っていたロバートが俺の手を掴んだ。

食べられないから放してくれと言うと彼はこういった。


「司令、あなたは仮にも皇帝だ。まずは俺が毒見をしよう」


 あぁなるほど、と思い俺はロバートに席を譲る。

彼は俺の代わりに席につき、ナイフで鳥を切り分けた。

そして彼はフォークで鳥を刺し、口へと運び込む。


「ふむふむ……美味しいですねぇ、何の問題もございません!」


 そう言いながらロバートは二切れ目を切り分けて口へと放り込んだ。

俺が「え?」と思っている間に枯れは今度はパンへと手を伸ばした。

パンを少しちぎってスープに浸した後、彼はそれもパクっと食べた。


「ちょ、それ俺の……」


「へ? はにはひっははひへひはん?(え? なにか言ったか司令官?)」


 ほっぺたいっぱいにパンを詰めながらロバートがそういった。

もはや毒見ということを忘れて彼は食事に夢中になっていた。

そして10分後、皿の上はすっからかんになった。


「ごちそーさまでした」


「『ごちそーさまでした』じゃねぇよバカ! 俺の夕飯なくなっちゃったじゃん」


 俺は思いっきりそう突っ込んだ。

俺のツッコミにロバートは「あっ!」といって口を覆う。

そして(可愛いと思っているのか知らないが)ぺろっと舌を出して謝った。


「舌を出すんじゃあない、あぁ……俺の香草焼き……」


 俺は床に手をついてがっくりとうなだれた。

そんな俺の前にロバートは1つ皿を持ってきた。

それは彼自身が夕食として頼んだステーキであった。


「司令、俺のステーキあげるから。ささ、元気だしてだして」


 一体誰のせいでこんな事になっているんだと思いながらも俺は机に座りナイフを持った。

またロバートが毒見をしようかと言ってきたが、これ以上なくなっては困るのでベルントにお願いした。

ベルントが毒見して問題ないと判断したため、俺も切り分けて口に運んだ。


「おっ、うまいなこれ!」


 俺はステーキを次々に切り取って口にいれる。

かなりの量があったステーキはあっという間になくなった。

食べ終わって口を拭いていると、再び扉がノックされて女主人がやってきた。


「いかがでしたでしょうか。ご満足いただけましたか?」


「あぁ、すごく美味しかったよ。まぁこちらの手違いでステーキを食べることになったが」


 そういって俺は親指を立てた。

女主人はありがとうございますと言って頭を下げ、皿を下げだした。

そして皿が片付け終わった後、女主人はポツリと呟いた。


「あの……私共はあなた様に感謝をしなかればいけません」


 感謝をする? この街を占領している軍隊の指揮官の俺にか?

そう思っていると、彼女は言葉を続けた。


「この街にあの恐ろしい兵器がはいってきた時、私達は皆殺しにされるのだと思いました。この国に過去に占領されてきた街の人々はさんざ目にあってきたと聞いていますので。なのにあなた様は私達に何をするでもなくいつも通りの生活を送らせてくれている……感謝してもしきれません」


 そう言うと彼女は頭を下げ、部屋を辞した。

彼女の言ったことに俺やロバートはしーんと黙る。

外ではフクロウが鳴いていた。


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