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第96話 驀進するは我等が戦車

 イレーネ帝国の占領下のZ泊地。

この前捕虜の乗組員からこの湾の名はザンフトブフト湾だと聞いたが、言いにくいのでZ泊地のままでいく。

陸軍の戦力の揚陸は終わったが、部隊はまだ動くことができずにいた。


 なぜならまだ作戦が正式に決定されていないからである。

泊地の占領した後そこからどうするかはあらかじめなんとなくは考えてはいたが、戦況が変わることも見越してまだ決定まではしていなかった。

だから今急いで作戦を修正、吟味している。


 イレーネ島から三人の軍の大臣を呼び寄せた俺は、大和の艦内の一室で作戦を練っている。

RQー4の情報によればルクスタント軍はヴェルデンブラント軍に対して未だ優勢であるとのことだが、ヴェルデンブラントの増援部隊も確認したため優勢であるのもあと2週間が限界であるとみている。


 また別のRQ-4からはゼーブリック軍が活発に動き始めているとの情報も入っており、そちらの対処も考えなくてはならなかった。

その状態でどう動くべきであるかをまだ決めかねている。

俺の他の3人も脳をフル回転して考えを巡らせていた。


「司令、私としてはゼーブリック王国への侵攻を最優先に行うべきだと考えます」


 エルヴィン大将は地図を眺めながらそう言った。

俺は彼になぜルクスタント王国の支援ではなくゼーブリック王国への侵攻なのかと質問した。

すると彼は地図の一点を指して言った。


「ご覧ください、ここに1つの峠道がございます。ルクスタント王国とヴェルデンブラント第二王国の間には険しい山脈があり通行が非常に困難で、そのためヴェルデンブラント軍はこの峠を通って補給を行っております。よってこの峠道こそがヴェルデンブラント軍の生命線といえるでしょう」


 俺はエルヴィン大将がそう言った瞬間に「あぁそうか」と納得した。

彼は補給線を断つことによってルクスタント領内に侵攻しているヴェルデンブラント軍を孤立させようとしているのだ。

それにこの道を使えばヴェルデンブラント軍を挟み撃ちにもできる。

確かにルクスタント王国の救援にはなると思うが、1つだけ気になることがあった。


「エルヴィン大将の考えは理解した。だがゼーブリック王国を占領し終えるまでルクスタント軍はもつだろうか?」


「現状判断は難しいです。ですが万一のことも考えて援軍を出しておくのが吉でしょうな」


 エルヴィン大将はそう答えた。

援軍を出すことには俺も賛成なのでいいのだが、問題はどれだけの戦力を送るかだな。

それに向こうにも優秀な指揮を行うことのできる人材を送らなければならない。


「援軍を送ることには賛成だ。だがどのぐらいの規模のものを送るべきなんだ?」


「そうですね、ただ耐えるだけならばそこまでの規模のものはいらないと思います。それよりも本隊が早くゼーブリック王国を落とすことが重要ですので……戦車が数両と歩兵戦闘車と装甲車が数両、それに歩兵が少しといったところですかな」


 俺の質問にエルヴィン大将はそう答えた。

俺は彼の言葉を信じて彼の言う通りの構成で別動隊を組織することにした。


 エイブラムスが3両、ブラッドレーとストライカーが5両ずつ、それに歩兵が一小隊分と加えてゲパルトも対空のお守りとして連れて行かせよう。

そして援軍は少数である代わりに精鋭でなくてはならない。

俺は選りすぐりの人員を動員することを決定した。





 派遣する部隊を決定した俺は大和からおり、地上部隊の隊員たちの前に立っていた。

彼らは真剣にまなざしでこちらを見つめている。

そんな彼らを鼓舞するために俺は演説を行った。


「今から我々はルクスタント王国救出のための大きな一歩を踏み出そうとしている。これは俺は授かった任務でもあるこの世界に平和をもたらすということにもつながることだ。諸君らには帝国陸軍としてその力を遺憾なく発揮してもらいたい」


 俺が言い終わると彼らは「はっ!」といって敬礼をした。

その敬礼に返した後、俺は別動隊として出撃する者たちの元へと歩いていく。

別動隊の指揮は戦車隊隊長のベルントだ。


 そしてゲパルトにはエーベルトたち、ブラッドレーとストライカーにはロバートら第一小隊改め近衛部隊が乗り込む。

彼らは最初俺の周りを護衛すると言ってきかなかったが、俺が説得を続けると何とか納得してくれた。

彼らは古参勢であるし練度も十分、信頼してもいであろう。


「ベルント、エーベルト、ロバート、他のみんな、頼んだよ。どうか本隊が到着するまで耐えてくれ」


 俺は彼らにそう語りかける。

だがその言葉に彼らは笑って返した。


「もちろんですよ司令。私たちは死んでも耐えてみせますよ、そうだろう?」


 ベルントはそう言うと後ろをちらりと見る。

後ろのエーベルトたちもそうだと頷いていた。

俺の目には彼らの姿がとても頼もしく写っていた。


「みんなの決意は分かった。だが命令だ、絶対に死ぬな。いいな?」


「もちろんですよ司令。きっと、いや必ず生きて帰ってきますよ」


 ロバートがそう言って笑って返した。

俺も思わず微笑み、そのことに気づいた俺はさらに笑った。

少し笑った後、俺は彼らに出撃を伝える。


「絶対に無茶はするなよ、では……行ってこい」


「はい、行ってきます」


 彼らは各自の車両に乗り込み、Z泊地を出発した。

俺は土煙をあげて進む彼らを見えなくなるまで見送った。

……さて、彼らの行った後は俺たちの出番だ。


 俺はZ泊地内の建物の一室に入って着替えを行う。

これから陸上戦を行うというのに海軍の服のままではおかしいと思ったからだ。

それにゼーブリック王国はイレーネ島よりも緯度が高いので寒いというのもある。


 俺は大日本帝国陸軍の将校用の制服を召喚して着用した。

帽子はチェッコ式で前側に大きく反りだしている。

そしてグレースからもらった勲章を付け直し、さらに防寒のために雨覆を着用した。


 着替え終わった俺は外に出て部隊に合流する。

既に部隊の多くは出発の準備を整えており、俺は座乗するエイブラムスに向かった。

戦車長のポジションに座った俺は、部隊に号令をかける。


「全車前進、俺に続け!」


 俺の号令とともに部隊は前進を始める。

俺の乗るエイブラムスは部隊の先頭に立って進む。

泊地防衛の戦力を残して部隊はゼーブリック王国の内部へと進軍を始めた。





 部隊は土煙をあげて道を疾走する。

特に敵に出くわすこともなく進軍は順調といった感じだ。

さっき前方偵察のために1両のブラッドレーを出したから、何かあったら伝えてくれるだろう。


『司令、緊急電です!』


 お、早速通信が入ったな。

俺はマイクを取り出し、その通信に出た。


「こちらルフレイ、何かあったのか?」


『はい司令官、大変です! この先の平野に敵が集まっています。その数およそ10万!』


「じゅ、じゅうまんー!?」


 俺は思わず大声を出してしまった。

まさか10万人もの敵がいるとは想像もしていなかった。

確かに集まってきているとは聞いていたが、まさかこれほどだったとは……


「仕方がない、こちらがたどり着くまで待機しているように」


『了解しました』


 まさかいきなり大当たりを引くことになるとはな。

エイブラムスの発動機は唸りをあげて回転する。

ブラッドレーが発見したという敵の大部隊を求めて。


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