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第3話 王子と盟友

 ――灼けつく陽光の下、馬車の操縦席でクライスは汗をぬぐった。


 「……あちぃ……」


 アルタイル王国を出発して、すでに三時間が経過している。誰が馬車を操るかのじゃんけんに負けた彼は、不満げに手綱を握っていた。


 背後から怒鳴り声が飛ぶ。


 「おい、王子! 遅ぇぞ!」

 コロウの声だ。


 クライスは苛立ちを込めて振り返った。「うるせぇ! じゃあ代わってくれよ!」


 「まぁまぁ、落ち着いて」と、ルーシェが優しく宥める。


 「……余計暑苦しいわね」と、ロイスはうんざりした顔で首を振った。


 そんなやり取りのなか、馬車はやがて目的地――熱帯の国、ボルケーノ王国の城門前へと辿り着いた。


 「止まれ!」


 二人の警備兵が馬車の前に立ちはだかり、警戒した様子で近づいてくる。


 クライスは堂々と名乗りを上げた。「アルタイル王国王子、ロード・クライス。魔王討伐の件でガロ国王との会議を予定している」


 その名を聞いた警備兵は、一瞬たじろいだあと、深く頭を下げた。


 「し、失礼いたしました。お通りください!」


 重々しい門が、ゆっくりと音を立てて開いていく。熱気の渦巻く街が彼らを迎え入れた。


 ボルケーノ王国――年中夏のような気候に包まれた国で、街の人々は皆、薄着の姿で忙しなく行き交っていた。


 「おおお! クライス!」


 城の前に待っていたのは、かつての親友、ダイカン王子。日に焼けた腕を大きく振って出迎える。


 「ダイカン! 久しいな……十年ぶりか?」


 「いやぁ、暑かっただろう。中へ案内する。こっちだ!」


 彼に導かれ、クライス一行は王宮の奥へと進み、玉座の間に足を踏み入れる。


 「来られましたか、クライス王子」


 玉座に腰掛けるガロ国王は、にこやかに微笑みながら彼らを迎えた。その姿は、冷徹なアルタイル王とは対照的で、どこか人間味に溢れていた。


 クライスは一礼し、用件を告げる。


 「ありがとうございます。さっそく本題に入らせていただきます。魔王討伐に向け、各国の兵力を募っております。貴国の協力を仰ぎたく……」


 「もちろんだ。兵は好きなだけ連れて行け」

 ガロはため息をつきながら続けた。


 「……君の父上のことだ、我が息子まで討伐隊に加えるとは……。親としての自覚を疑いたくなるよ」


 クライスは短く息を呑み、口をつぐんだ。


 「……構いません。俺は強い。魔王がいなくなるなら、どんな役でも引き受ける」


 ガロはニヤリと笑う。


 「……手段を選ばない。君はやはり、父上そっくりだ」


 ***


 ボルケーノ王国 王都・商店街。


 コロウは八百屋で買ったリンゴをかじりながら、街を見渡していた。


 「クライスのやつ、大丈夫かね」


 「今は……一人にさせてあげて。きっと、お父さんのことで……」

 ルーシェが静かに言葉を添える。


 ***


 同じ頃、王都の路地裏――


 石造りの壁にもたれかかり、クライスはうつむいていた。


 「大丈夫だ……父上は……まだ俺を……」


 胸中で押し殺した想いを呟くと、彼は小さく息を整え、歩き出した。


 コツ……コツ……と、靴音が狭い路地に響く。その先、視線の先に数人のローブ姿の人物が歩いているのが見えた。


 ――この国で、ローブに顔まで隠した連中なんて。


 怪しい、とクライスは直感した。すぐに小声で呪文を唱え、魔法で音声を拾う。


 「……儀式の準備は済んだ。これで……魔王様に合図を送れる……」


 声の主は、明らかに敵意を帯びていた。


 「……まさか。奴ら、この国に魔王を呼び出すつもりか――」


 鞘から剣を抜く音が、乾いた空気を裂いた。


 クライスの身体が疾風のように駆け出す。剣閃とともに、影のようなローブの一団へと切り込んだ。


 熱帯の空の下、静けさが、裂ける。


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