クライスが魔王に連れ去られてから三時間後。王宮の広間には、女勇者ルーシェをはじめとした者たちが集まっていた。
「やっぱり、私たちだけでハッタン王国に向かうしかないわ」
ルーシェは口を噤み、視線を落とした。顔には不安が滲んでいる。
「奴なら大丈夫だ。意外としぶといからな」
コロウの言葉に、ロイスはそっとルーシェの肩を撫でる。まるで励ますかのように。
そうして、女勇者ルーシェ率いるボルケーノ王国軍は出国した。連なる馬車は林の中を颯爽と駆け抜けていく。
だが、先頭の馬車を止めたのはコロウだった。
「どうしたの?」後方からルーシェの声が響く。
「人間の子供が倒れている!」
兵士たちの間にざわめきが走る。
「人間…!?」
「なぜ食材がこんなところに…?」
「…助けて…」
少年がコロウを見上げ、震える声で助けを求めた。
コロウは猟銃を下ろし、ゆっくりと少年に近づく。
「おい、人間。なぜここにいるんだ?」
「お姉ちゃんを…探しに…」
コロウの視線は少年の服装、髪型、靴に留まった。奴隷の姿とは違う。間違いない、彼は“人間世界からやってきた人間”だ。
ロイスとルーシェが馬車から降りて近づく。
「どうする?この子」ロイスは杖を構えながら尋ねた。
そのとき、少年は勢いよくコロウの脚にしがみついた。
「僕は…お姉ちゃんを探さなきゃ…!!」言い終わると、少年は意識を失った。
コロウはその必死な姿に、昔失った弟の面影を重ねていた。
「…」
「で、もう調理してもいいんじゃない?」
ロイスは杖を少年に向けて笑った。
「この子は、連れていく」
コロウの声は揺るがなかった。
「正気か?でも、どうして?」
ロイスの瞳に驚愕が広がる。
「似てたんだよ、弟に。」