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第7話 過去の呪縛


コロウには、8歳年下の弟がいた。

両親は幼い頃に病に倒れ、静かにこの世を去った。以来、二人は雪山の小さな小屋でひっそりと暮らしていた。


「コン!コン!」

コロウは小屋の前で薪を割っていた。


「兄ちゃん!木、切ってきたぞ!」

雪深い山中にもかかわらず、弟のロンは半袖短パンという元気いっぱいの子供だった。

冒険好きで、魔獣を狩っては夕食の食材に持ち帰るのが日課だ。


「おい、あまり遠くに行くなって言っただろう」

コロウはロンの頭を優しく叩き、心配そうに声をかけた。


「大丈夫だって!この辺りの魔獣はもう圧倒できるんだ!」

ロンは胸を張って笑う。


コロウは深くため息をついた。

「いいか、ロン。お前は俺の大切な弟だ。母さんが死ぬ前、俺になんて言ったか覚えてるか?」


ロンは黙ってコロウの顔を見つめる。


「お前は危なっかしいから、18歳になるまでは守ってやれってな」

そう言われて、ロンはしゅんと肩を落とし、小屋の中へ戻っていった。


それから数日後、ロンの体調が急変した。


「ロン!水だ、ゆっくり飲めよ」

布団に伏せる弟にコロウは水の入ったコップを差し出す。


どこかおかしい。

この症状は、父さんや母さんが苦しんだ時と同じだ。

コロウの背筋が凍りついた。


「コンコン」

雪の積もる小屋の戸口を叩く音がした。港町から医者が来たのだ。


「先生、こちらです」

コロウは医者をロンの寝床へ案内した。


医者は弟の顔色や目の様子を注意深く観察し、静かに尋ねた。

「ここ数日はどうでしたか?」


「いや、数日前までは元気すぎるほど元気で、森に狩りに行ってましたよ」

コロウが答える。


「狩り……ですか……」

医者はしばらく考え込み、さらにロンに問いかける。


「ロン君、森の中で何か食べたり飲んだりしましたか?」


ロンは黙り込む。やがて小さな声で答えた。


「果実を食べた……」


「何の果実だ?」

コロウの声は震えた。


医者は静かに告げる。

「森の奥深くの大樹に実る木の実でしょう。猛毒があり、普通の人間なら即死です」


「先生……弟は……」

震える声で、コロウは恐る恐る尋ねた。


「残念ながら、毒が体内に回って衰弱するまで、あと半日といったところでしょう」


絶望が胸を締めつけた。

また家族を失うのか──。


「兄ちゃん……ごめんね……知らなかったんだ……」

ロンは涙をこらえながら呟いた。


「何を言ってるんだ……お前のせいじゃない!俺のせいだ……」

コロウは涙を流しながら、弟を強く抱きしめた。


「どんなことがあっても、俺がついてるからな……!」


数時間後、ロンは静かに息を引き取った。


それからというもの、コロウは何度も弟の死にゆく悪夢にうなされている。




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