魔王は不敵に「へへえへ」と笑った。
「ゴミクズが、ヘラヘラすんなよ、気持ち悪いな」クライスの苛立ちは限界を超えていた。
すると、魔王の肉体が再び石のように硬くなり始める。
「なんだ……」ダイカンが眉をひそめた。
やがて魔王の体は赤く光りだし、異様な熱気が辺りを包んだ。
「まさか……!」ルーシェが叫ぶ。魔王が自爆しようとしていると気づいたのだ。
「逃げてえええええ!!」彼女の声に必死の叫びが混じる。
「ルーシェ!!!!」クライスも叫び、彼女に駆け寄ろうとしたその瞬間、
ルーシェは赤く光る魔王に覆いかぶさった。
クライスたちを守るために。
「ドカーン!!!」轟音と共に大爆発が海浜を砂嵐で覆い尽くした。
その爆発は、コロウや海浜に到着していた兵士たちまでも巻き込むほどの凄まじい威力だった。
しばらくしてクライスが目を覚ますと、目の前に倒れ意識を失ったダイカン、そして
瀕死の状態でなお立ち上がった魔王、全身が焼け焦げているルーシェの姿があった。
「おい……ル、ルーシェ……」よろよろと歩み寄り、彼女を抱きかかえる。
しかし彼女は目を開けず、かすれた声で絞り出した。
「クラ……イス……生きて……」
「カイラを……お願いね……」
それがルーシェの最期の言葉だった。
「ルーシェえええええ!!!」クライスの叫びが砂浜にこだました。
その時、魔王が狂気じみた咆哮を上げ、ルーシェを抱えるクライスに襲いかかろうとした。
「こっちだあああああ!!!化け物おお!!!」コロウの叫びが響き、魔王の視線がそちらへと向く。
魔王はニヤリと笑みを浮かべ、コロウへと駆け出した。
「約束しただろ……王家から一緒に逃げるって……」
「ごめんな……おれが弱いから……」
そう言いながら、ルーシェは静かに動かなくなった。