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第13話 王としての人生



かつて、魔王には莫大な懸賞金がかけられていた。


その懸賞金を目当てに魔王へ挑む者たちは、世界中で「勇者」と呼ばれた。


その中でも、群を抜いて強かったのがルーシェだった。


彼女は各国の戦争に積極的に加担し、真の世界平和を願って戦い続けたため、人々からは「戦争の女神」と慕われていた。


ルーシェはアルタイル王国の出身で、討伐した魔物や獲得した懸賞金を王国に献上し続けていた。


一方、素行の悪いクライス王子は、父である国王の目を盗み、密かに恋人のルーシェと過ごす時間を大切にしていた。そんな秘密はクライスのメイドが巧みに隠していたのだ。


――アルタイル城、王子の私室。


ふたりはベッドに横たわっていた。クライスは煙草に火をつけ、ため息をつく。


「どうしたの?そんなに浮かない顔して」ルーシェは心配そうに抱き寄せる。


クライスは重い口を開いた。


「時々、全部嫌になるんだよ。王として生きるって定められた人生が」


「周りのやつらは好きな仕事に就き、好きな人と結婚してる。でも俺は違う。許嫁がいて、将来は王になるしかなくて」


「父上は俺をただの跡継ぎとしか見てない。まともに会話すらしない。信用されてないって、信じたくないのにそう感じるんだ」


クライスは目を伏せ、声を震わせた。


「もう、逃げ出したくなるよ」


ルーシェは静かに微笑み、「じゃあ、一緒に逃げよう」と囁いた。


「は?」驚きの表情を見せるクライス。


「姿を消して、どこか遠い山小屋で、ふたりで静かに暮らそう」


クライスは安堵の表情を浮かべ、「それも悪くないな」と呟いた。


「でも、まずは魔王を倒してからだ」


「それが終わったら、必ず一緒に逃げようね」


クライスは深く頷き、感謝の言葉を口にした。


――数日後、ルーシェは妊娠が発覚した。父はクライスの子供だった。


王家の徹底した隠蔽により、国民にはこの事実が知られず、肝心の魔王討伐は無期限の延期となった。


――4か月後、アルタイル城・医務室。


冬の冷たい風が吹き荒れる中、ルーシェはメイドや執事たちの支えを受け、無事に出産を終えた。


「見て、カイラ。この人がパパだよ」疲れた表情で子を抱きながら微笑むルーシェ。


クライスは静かにその子を抱き、「ありがとう」と呟いた。











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