クライスたちが魔王と激闘を繰り広げる最中、ロイスとタローは船の上で帰還の時を待ち続けていた。しかし、タローの限界はもう近かった。
「お姉ちゃんは……今もこの島のどこかにいるかもしれないんだよね?」
ロイスは冷たい笑みを浮かべながら答えた。
「人間のくせに頭が回るのね。そうよ、きっともう食べられてるかも」
その言葉に、タローの瞳が一層曇った。
「……やっぱり、僕、お姉ちゃん探しに行く」
「行けば?どうせ行っても死ぬだけよ」
「守ってくれてありがとう、魔法使いさん」
タローはうつむきながら船を降りた。大雨が降りしきる嵐の中、彼は必死に姉の名を叫びながら海浜を走った。
「おねーちゃーん!」
大粒の涙が頬を伝い落ちる。震える声で呼び続けるタローの前に、膝をつき片腕を押さえる男がいた。
「おい、なんでここにいる!危ないから船に戻れ!」
慌てた様子のコロウが言った。
「俺はさっきの爆発で右手が潰された。もう動けないんだ」
タローが浜の先を見ると、ルーシェを抱えるクライスの姿と、こちらに迫り来る白い化け物が見えた。
「姉を探しに来たんだろ?そこの猟銃を持ってこい」
「これ?」
タローは落ちていた猟銃を指差し、拾い上げて渡した。
「よし、じゃあいいか?俺が左手で銃を支える。お前は引き金を引け」
「怖くてできないよ!」
「いいからやるんだ!お前が引き金を引くんだ!」
コロウは銃身を魔王の右眼に向け、タローを膝に座らせる。
「いいか、合図したら思いきり引け」
ドスドスと走り寄る魔王の右眼を狙い、タローは深呼吸をした。
「今だ!」
バンッ!
銃声が響き渡り、魔王の右眼から緑色の血が勢いよく噴き出した。
「ぐぎゃああああ!!」
魔王は顔を押さえ、倒れ込む。
「まだ油断するな!反対の目も頂く!」
コロウは即座に狙いを変えたが、魔王はのたうち回り、なかなか狙いを定めさせてくれない。
「クソ……早く目玉を見せろ!」
すると魔王は立ち上がり、狂ったように奇声をあげながら襲いかかってきた。
「ぎゃああああああ!!」
コロウが叫ぶ。
「左眼見えた!今だ!」
再び銃声が轟き、魔王の左眼は潰され、遂に魔王は倒れ込んだ。
「や、やった……」
魔王はもう起き上がりそうにない。これで進化も終わり、死に至ったのだ。
だが、魔王は苦しげに呻き声をあげながら、何か呪文のようなものを唱え始めた。
その前に、ブゥン、とワームホールが開いた。
「なんだ……なんの魔法だ……!」
魔王はずるずると這いずりながら、そのワームホールへと逃げ込んでいった。
「はぁ!?逃げられた……!」
雨が止み、夜明けが島に訪れる。
「もういい。さっさと姉の元へ行け。おそらく洞窟の中だ」
「ありがとう、猟師さん」
その時、ボロボロのクライスが駆け寄った。
「待て!君か、魔王にとどめを刺したのは」
「礼を言う。君なしでは魔王を仕留めきれなかった」
「いや、でも……」
魔王が逃げてしまった事は、口にできなかった。
「姉を探しに行け。もう行きなさい」
「うん、ばいばい」
タローは静かに島の森へと歩みを進めた。