「まあまあ、なんて仲のいい二人なの!」
「これはもう、おめでたいことが近いわね。お祝いの席、楽しみにしてるわ!」
高島宏一郎の朗らかな笑い声が背後から響き、遥ははっと我に返った。彼女はすぐにカメラを構え、シャッターを切りながら、宴の熱気を余すことなく切り取っていく。
壇上の二人が離れると、白河夕は少し顔を赤らめて三階に向かって手を振った。「遥、お疲れさま。今日はもう大丈夫よ。」
遥は解放された気持ちで機材を片付け、階下へ向かった。洋子が夕の手を取りながら親しげに話しかけていた。「道が混んでて遅くなっちゃったの、ごめんなさいね。」
「そんなこと気にしなくていいさ!」宏一郎は笑いながら光の肩を力強く叩いた。「大事な話も決まったし、父さんは嬉しいぞ!家の勾玉も渡したし、そろそろ白河家にも正式に挨拶して、日取りを決めないとな。」
夕は幸せそうに光を見つめ、そして遥に視線を向けた。「私は全部、光くんに任せるつもり。でも、国内に友人が少ないから、結婚式のときは遥にぜひ、付き添いをお願いしたいの。」
遥はまだ手首の痛みが残る中、ぼんやりしたままだったが、洋子に肩を押されてようやく我に返った。彼女は顔を上げて無表情に言った。「申し訳ありませんが、今後の予定が詰まっていて難しいです。でも、お二人の幸せを心からお祈りしています。」
洋子、宏一郎、そして夕の笑顔が一斉に広がる。ただ一人、光だけが沈んだ目で、かすかに残る笑みも消え失せていた。
この苦しい撮影が終わり、遥は帰宅してすぐにバスルームへ駆け込んだ。疲れきった体で部屋のドアを開けようとしたその時――
足を踏み入れる間もなく、鉄のような腕が彼女を廊下の壁に押し付けた。激しいキスが濡れた髪から首筋へと降り注ぎ、赤い跡が次々と刻まれていく。
遥は思わず声を上げそうになり、必死に歯を食いしばって抵抗した。だが反抗すればするほど、光の拘束はより激しくなり、ついには顎を強くつかまれてしまう。
階段の方から足音が聞こえてきた。
「正気なの?」遥はかすれた声で問いかける。
「正気じゃないさ!」光は充血した目で彼女の耳元に顔を寄せた。「どうして声を出さないんだ?みんなに見せてやればいい、兄が妹にどれだけ夢中かって。」
足音は階段の途中で一瞬止まり、やがて遠ざかっていった。遥はその隙に光の手を振りほどき、震える声で言った。「一体、どうしたいの?」
彼の冷たい視線が彼女を射抜く。「正気じゃないのはどっちだ?誰が兄って呼べと言った?誰があの人を姉と呼んでいいと言った?」
遥はその場に立ち尽くした。復讐のためにやってきたはずなのに、どうして呼び方にこだわるのだろう?
「じゃあ、なんて呼べばいいの?二人は結婚するんでしょ?」と自分の首筋を指差す。「この痕だってまだ消えてない。」
「小早川遥!」光は一歩詰め寄る。「何度説明させる気だ。あれは演技だったんだ!父さんたちが来たから、仕方なくキスしただけだ!」
その切羽詰まった口調は、本当に怒っているようだった。
だが、遥は冷たく笑った。「そうね、あなたは昔から演技が上手だから。」
この芝居はいつまで続くのだろう。もう心も体も傷だらけなのに、まだ足りないの?
言葉にならず、遥は強く瞬きをした。今夜ずっと我慢していた涙が、ついにこぼれ落ちる。
涙が光の手の甲に落ちた瞬間、彼の心臓が大きく波打った。
出会って四年、光はこんな遥を見たことがなかった。彼女はいつも強がって笑い、この関係の歪さを必死に隠してきた。
本能的に、彼は遥を抱きしめた。「泣かないで……悪かった。」震える唇で涙をぬぐいながら、「君があの人を姉って呼ぶのを聞いたら、どうしようもなくなったんだ。」
遥は顔をそむけてキスを避けた。「今は無理。」
「まだ終わってないのか?」光が眉をひそめる。
「うん、熱を出してから周期が乱れたの。」彼女はうつむき、畳の隙間を見つめた。
彼女が病気で寝込んでいた時のことを思い出し、光はようやく気持ちを抑えて、遥を横抱きにしてベッドへ連れていった。暗闇の中、後ろからそっと抱きしめると、疲れ果てた遥はすぐに眠りに落ちた。