竜を家に連れて帰ってから、ミシェルは献身的に傷の手当てをして、目覚めるのを待っていた。
「息はちゃんとしてるわ。生きてる。でも…目覚めない」
一日、二日、三日と幾日か日数が経っても竜が目覚めないのである。息はしてるし、心臓もトクリトクリと脈を打っているので生きてはいる。
それでも目覚めないのは傷口が大きすぎたからなんだろうか?
傷口は少しずつだが塞がり始めている。勿論、傷口の手当てをするたびにミシェルが少しずつ力を使っているので塞がっていくのは当たり前なのだが…。
ミシェルが力を使うとノエが怒るのだ。ノエが怒るのは力を使いすぎて倒れてしまうのと、力が暴走しないためだとミシェルは思っている。
だからミシェルはノエが隣で傷の手当てを見てるときにしか力を使わないようにしている。
実際に力を使った後でミシェルは疲れてしまうのだ。だから普段は使わないようにしている。でも、今は違う。
この傷付いた竜を治したいのだ。まだ小さな竜を…。
「ノエこの子は治って家族の元へ帰れるのかしら?」
自分の傍で寛いでいるノエに話しかける。
「なぁぅ」
大丈夫だと言わんばかりに尻尾をパタパタと鳴らす。その様子を見てるとミシェルは大丈夫だと思えてくるのだから不思議である。ここ数年の間にノエはとても心強い友であり家族になった。
「ありがとう」
ミシェルはノエの頭をそっと優しく撫でる。撫でられたノエはグルグルとご機嫌に喉を鳴らした。
「さてと、今日も天気がいいわ。洗濯ものを干しましょうノエ」
ミシェルはまだ目覚めない竜の事が気になるが、洗濯物を干すにはもってこいの天気だとノエに告げて立ち上がり、洗濯物をしに外へと向かった。
ミシェルはまだ、気が付いていなかった。小さな竜が手当てを受けながらミシェルの様子をずっと窺っていることに…。自分に危害を加える相手かどうか見定めてるんだと…。
「ノエ、そこに寝てたら干せないわ」
大量の洗濯物をカゴに入れて持ってきたミシェルはまたいつもの場所に寝てるノエに声をかける。それに反応するように尻尾を振るノエ。
「もう、文句言わないで。いつもお願いしてるじゃない。洗濯物を干すときは移動してって」
ミシェルは小さく笑いながらノエに文句を口にするが、ノエが移動しなかったそれでもいいと思っている。だが、言えば文句を言いつつもノエが移動してくれるのもわかっている。
こんなやり取りをするのがミシェルは楽しかった。母がいなくなって一人きりになって寂しかったから。
母の代わりに居座ってるノエとこうやってやり取りするのがミシェルには楽しくて仕方がないのだ。
ミシェルはいつものように鼻歌を歌いながら洗濯物を干していく。
竜に使っている包帯も洗って干しているので、今回は量が多いのだ。
「あら干す場所足りるかしら?」
干す居場所に不安を感じるが
「干せるように干しましょ」
自分でそう納得をしてまた鼻歌を歌いながら干し始めた。
「よし、これで大丈夫ね。後は夕方に取り込めばいいわ」
カラになった籠を持ち満足げに頷く。その時
「きゃぁっ」
突然、突風が吹いた。バタバタと洗濯物が飛んでいきそうな勢いではためく。
「今のは何?」
髪の毛を押さえながら空を見上げれば空を飛んでいく大きな竜の姿が見えた。
「竜族。珍しいわ、彼らがあんな急に飛んでいくなんて…」
ミシェルは不思議に思いながらも飛んでいった竜たちを見送り、風で飛んでしまった洗濯物を数枚、拾い集めた。
「これは洗い直しね」
少し汚れてしまった白い布。ノエはミシェルの様子を静かに見守っていたのだった。