「……行くしか、ないのか」
美佳は椅子の背に寄りかかりながら、目の前の画面とにらめっこしていた。
「第2回アンケートに進むには、以下をクリックしてください」
シンプルなボタンが、まるで命令のように画面の中央で光っている。
(でも……本当に、私が書いたから……?)
気づけば美佳は、田代の死因を何度も検索していた。ニュース記事には“高層階のマンションからの転落死”“自殺の可能性”“目撃情報なし”と書かれているだけで、決定的な情報はない。
“偶然”というには、タイミングが出来すぎていた。
恐る恐る画面に指を伸ばしかけたそのとき。ふと、あることを思いついた。
(私だけじゃない……かもしれない)
半信半疑のまま、ネットで「アンケート 謝礼 LAPIS DATA」と検索してみる。すると、いくつかの書き込みがヒットした。
【匿名掲示板】
No.731:
昨日、LAPISって会社からアンケート来た。
回答したら金が送られてきたけど、内容が不気味すぎ。
最後の質問「消えてほしい人の名前」って、何だったんだよ。
No.734:
↑あれ俺もやったわ。送信後に「キャンセル不可」って出てビビった。
しかも、数日後にそいつ……まさかってなった。
No.738:
同じく。俺も“書いた名前の人”が、交通事故で死んだ。
ほんとに偶然か? これ。誰か他にもいる?
美佳の心臓が、跳ねた。
──自分だけじゃない。
──あのアンケートに、他にも“答えた者たち”がいた。
(本当なの……?)
怖くて、でも確かめずにはいられなかった。
そのままスレッドを追っていくと、一つの投稿が目に留まる。
【No.749:A.K】
俺は名前を書かなかった。
「該当なし」って送った。
……そしたら、数日後に俺の家族が事故に遭った。
LAPISからまた連絡が来た。「選択は自由だが、代償は等しい」と。
お前ら、本気で気をつけろ。これは“アンケート”なんかじゃない。
画面を読む美佳の手が、震えていた。
──書かなければ、奪われる。
──書けば、奪う側になる。
何が正解なのか。
何が“善”で、何が“罰”なのか。
誰がこの仕組みを作ったのか──。
そのとき、ふいにスマホが震えた。
非通知の番号。
一度ためらいながらも、美佳は通話ボタンを押した。
「……はい?」
「──あなたも、書いたのね」
若い女性の声だった。どこか、やつれたような、眠れない夜を何度も越えてきたような声。
「誰……ですか?」
「私も、“あれ”に答えた。……そして、私も後悔してる。
今すぐ話せる時間はないけど……あなた、まだ間に合うかもしれない」
「なにを──」
「“LAPIS”の本当の意味を知って。
そして、次の質問には……絶対に答えちゃダメ」
プツッと通話が切れた。
「──なに、それ……」
美佳の手はすでに、次の“質問画面”を開いていた。
そこに表示されたのは、ただひとつの問い。
> Q.1:
「あなたの大切な人が“誰かに選ばれた”と知ったとき、あなたはどうしますか?」
A. 代わりに自分を差し出す
B. 誰か別の人間の名前を書く
C. 何もしない(結果を受け入れる)
選択肢の下に、前回と同じ文字が現れる。
> ※ご協力は義務ではありません。ただし、未回答による影響は当局は関知いたしません。
美佳の瞳に、ゆっくりと影が差していった。