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第3話  選ばされた者たち

「……行くしか、ないのか」


美佳は椅子の背に寄りかかりながら、目の前の画面とにらめっこしていた。


「第2回アンケートに進むには、以下をクリックしてください」

シンプルなボタンが、まるで命令のように画面の中央で光っている。


(でも……本当に、私が書いたから……?)


気づけば美佳は、田代の死因を何度も検索していた。ニュース記事には“高層階のマンションからの転落死”“自殺の可能性”“目撃情報なし”と書かれているだけで、決定的な情報はない。


“偶然”というには、タイミングが出来すぎていた。


恐る恐る画面に指を伸ばしかけたそのとき。ふと、あることを思いついた。


(私だけじゃない……かもしれない)





半信半疑のまま、ネットで「アンケート 謝礼 LAPIS DATA」と検索してみる。すると、いくつかの書き込みがヒットした。


【匿名掲示板】

No.731:

昨日、LAPISって会社からアンケート来た。

回答したら金が送られてきたけど、内容が不気味すぎ。

最後の質問「消えてほしい人の名前」って、何だったんだよ。




 No.734:

↑あれ俺もやったわ。送信後に「キャンセル不可」って出てビビった。

しかも、数日後にそいつ……まさかってなった。




No.738:

同じく。俺も“書いた名前の人”が、交通事故で死んだ。

ほんとに偶然か? これ。誰か他にもいる?




美佳の心臓が、跳ねた。


──自分だけじゃない。

──あのアンケートに、他にも“答えた者たち”がいた。


(本当なの……?)


怖くて、でも確かめずにはいられなかった。

そのままスレッドを追っていくと、一つの投稿が目に留まる。


【No.749:A.K】

俺は名前を書かなかった。

「該当なし」って送った。

……そしたら、数日後に俺の家族が事故に遭った。

LAPISからまた連絡が来た。「選択は自由だが、代償は等しい」と。

お前ら、本気で気をつけろ。これは“アンケート”なんかじゃない。




画面を読む美佳の手が、震えていた。


──書かなければ、奪われる。

──書けば、奪う側になる。


何が正解なのか。

何が“善”で、何が“罰”なのか。

誰がこの仕組みを作ったのか──。


そのとき、ふいにスマホが震えた。

非通知の番号。

一度ためらいながらも、美佳は通話ボタンを押した。


「……はい?」


「──あなたも、書いたのね」


若い女性の声だった。どこか、やつれたような、眠れない夜を何度も越えてきたような声。


「誰……ですか?」


「私も、“あれ”に答えた。……そして、私も後悔してる。

今すぐ話せる時間はないけど……あなた、まだ間に合うかもしれない」


「なにを──」


「“LAPIS”の本当の意味を知って。

そして、次の質問には……絶対に答えちゃダメ」


プツッと通話が切れた。


「──なに、それ……」


美佳の手はすでに、次の“質問画面”を開いていた。


そこに表示されたのは、ただひとつの問い。




> Q.1:

「あなたの大切な人が“誰かに選ばれた”と知ったとき、あなたはどうしますか?」


A. 代わりに自分を差し出す

B. 誰か別の人間の名前を書く

C. 何もしない(結果を受け入れる)






選択肢の下に、前回と同じ文字が現れる。


> ※ご協力は義務ではありません。ただし、未回答による影響は当局は関知いたしません。




美佳の瞳に、ゆっくりと影が差していった。



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