悪の帝王シッソケンヤーク。
彼は質素倹約をうたいあげ、
自分のためだけに貯蓄をせよと、世界を洗脳していき、
そうやって、ゼニーの力の流れを、
シッソケンヤークの方向だけに向けさせていた。
そのシッソケンヤークの力は強大。
今のサンザインではかなう相手ではなかった。
シッソケンヤークの前に、ひざまづく影が一人。
グリフォンという女性だ。
「シッソケンヤーク様」
「何だ、グリフォン」
「秘書の候補が見つかりました」
「通せ」
「はっ」
グリフォンは立ち上がり、目で合図する。
シッソケンヤークの前に入ってくる、
少年が一人。
「はじめまして」
少年はシッソケンヤークを恐れる様子がない。
友人でも紹介されたかのように、
あくまで不遜だ。
「僕はヨーマといいます」
「ヨーマか、面白いゼニーの力を宿している」
「…わかりますか?」
ヨーマはにやりと笑う。
グリフォンは話が読めないが、
じっとヨーマを見てみる。
瞬間グリフォンの視界を奪うほどの、
とんでもないゼニーの力。
一瞬グリフォンはひるんだ。
一歩、後ろに下がって、そうして、目が覚めた。
そこには笑っているヨーマの姿があるばかりだ。
「僕にも隠れ蓑が必要なんですよ」
ヨーマは笑う。
「私を隠れ蓑とするわけか」
「そのつもりですけど?」
恐ろしい少年を連れてきてしまったかもしれない。
グリフォンはそう思う。
シッソケンヤークすら、飲み込んでしまうのではないか、
そうであったら一体どうすればいいのだろうか。
シッソケンヤークの力を飲み込んだヨーマ。
それは一体どれほど恐ろしいことになるだろうか。
「僕はとりあえず秘書ですから」
ヨーマは言う。
「秘書の役割は果たしますよ。僕は有能な少年ですから」
「よかろう。私も利用するつもりだ」
「どうぞご自由に。シッソケンヤーク様」
ヨーマはやっぱり、ひざまづくことすらしなかった。
「…教授は連れて行ってくれませんでしたからね…」
一瞬、寂しそうな表情をヨーマに見たような気がした。
グリフォンは引っかかったが、
ヨーマはすぐに、表情を前のものに戻してしまった。
有能な秘書が、シッソケンヤークのもとにやってきた。