「師匠ー!おきてくださーい!」
明るい女性の声がする。
「んー、なんじー?」
師匠と呼ばれた布団の中身は、
もぞもぞと動き、時計を見る。
「目覚まし鳴ってないよ。まだいいじゃないか」
「ハリー師匠!」
「わかったよ、マイさん、おきるから」
布団の中から、眼帯をつけた、青年が一人。
容貌は中性的ですらある。
「マジカル・マイの撮影はいいのかい?」
ハリーが尋ねる。
「撮影は明日です」
「そうか。それじゃ違うものかな…」
「師匠、また、夢を見ました?」
ハリーはうなずく。
「変身をね、する連中がいるらしいんだ」
「夢の中で?」
「うん、真っ先にマジカル・マイを思ったけど」
「マジカル・マイは連中ではない、と?」
「そうなんだ。何かの予兆かもしれないと感じてね」
ハリーはうんと伸びをする。
「最近、ゼニーの流れが変わってきているのを感じる」
「ゼニーの流れが?」
「うん、誰かが変えようとしている」
ハリーはくすっと笑う。
「僕達のように、変えようとしている人がいる」
ハリーとマイは、
服を作っている店の師弟関係に当たる。
マイにいたっては、マジカル・マイとして、大人気だ。
表向きは。
裏では、この時代価値を見出せなくなっている、
美術品や宝石を盗んで、
闇ルートに乗せている。
彼等は、怪盗ホワイトローズとして、暗躍をしている。
彼等もゼニーの力を変えようとしているものであり、
質素倹約に否を突きつけているものだ。
「そういえば噂は聞きましたか?」
「噂?」
「サンザインという人たちの噂」
「散財しそうな名前だね」
ハリーは思ったままをいうが、
そのあと何か気がつく。
「…変身するのかな」
「わかりません、けれど」
「けれど?」
「人々の懐を守りつつ、消費の喜びを与えると」
「ふぅん、おもしろいね」
ハリーは心底面白いと思う。
節約が美徳のこの世の中をひっくり返せたら、
とても面白いと思う。
「彼らに味方がいたら、面白いだろうね」
ハリーは、連絡先を思い描く。
楽しいことが大好きな連中の連絡先を。
夢で見たのが本当なら、
面白いことになるはずだ。