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第2話 外れ職な女性プレイヤー


 ゲーム時間で夜を迎え、空には宝石のように星が煌めいていた。月がぼんやりと浮かび、薄暗い森の中を優しく照らしている。そんな中、義経は歩いていた。


 黒く艶のある長い横髪を流し、白と赤を基調とした軍服のようなコートを靡かせる。ステータス画面を確認しながら、自分のアバターの状況をみていた。


 怪我や状態異常などをアイテムで直しながら、義経は城下町へと戻るべく、森の中を歩く。


 このVRMMO【フォーリング・スター・オンライン】は夜になると、昼間よりもレベルやランクの高いモンスターが現れる。


 さらに難点なのが、プレイヤーのレベル以上のモンスターが徘徊するのだ。そのため、無暗に夜の森を出歩くのは得策ではない。


 ただでさえ、レベルが上げ難いゲームなのだ。死亡ペナルティを受けるのは痛い。



「やっとレベル20か……。本当にこのゲームはレベルがなかなか上がらないな」



 サービス開始から半月だが、未だにレベル10台というプレイヤーのほうが多い。レベル20まで上げれただけ、まだいいほうだろう。


 ステータス画面でアイテムを整理しながら、次はどうやってレベルを上げるかと考える。ダンジョンにでも行くか、そう思った時だった。



「いやぁああっ!」



 女性の悲鳴が森に響いた。その声は近く、義経はステータス画面を閉じて駆けだす。


 森の奥で三匹のゴブリンが一人の少女を囲んでいた。地面につきそうなふんわりとカールされた白髪はぼさぼさで、汚れた白いワンピースを着る少女は腰を抜かしたように座り込んでいる。


 抵抗しない彼女に向かってゴブリンが飛び掛かった瞬間、真っ二つに切り裂かれた。あれと驚く少女の前に義経は立つと一気に走り出す。


 握られた太刀でゴブリンを切り捨てれば、悲鳴を上げながら消滅していった。


 駆け付けるも一瞬。周囲に他のモンスターがいないことを確認し、義経は少女に目を向ける。ぼろぼろの姿に攻撃を何度が受けたことは見て取れた。



「大丈夫か」


「あ、はい、なんとか……」



 少女は震える足で何とか立ち上がる。そんな様子を眺めながら、ステータス画面を表示させて、義経は眉を寄せた。彼女はプレイヤーであったのだ。


 ステータス画面のマップ機能には近くのプレイヤーを表示することができる。プレイヤーであることはそれが示していた。


 プレイヤーならば戦えばいいだろう。義経が疑問に思っていれば、少女はあのと声をかけ頭を下げた。



「助けてくださり、ありがとうございます」


「それはいいが、どうして戦わなかったんだ。魔力切れか?」


「それは、その……」



 その問いに少女は表情を曇らせる。何か聞いてはいけないことだったろうか。義経が不思議そうに見つめていれば、少女はおずおずと自身のステータス画面を見せてきた。


 彼女の職業はディーヴァ歌姫であった。それを見て、なるほどと義経は頷いてしまう。ディーヴァはこのゲームでは外れ職だからだ。


 攻撃力と防御力は全職業ワースト一位、体力は平均以下で素早さは平均あるかないか。魔力が全職業トップであるものの、サポート特化であり攻撃技は殆ど覚えない。


 唯一の武器である守護獣と言われるモンスターも、ディーヴァのレベルに依存するため、低いうちは壁にしかならない。しかも、ランクの高い守護獣でなくては弱い。


 ソロには向かず、パーティーを組めばその豊富なサポート技でなんとか活躍できるぐらいである。そもそも、守護獣が育たなければ戦闘には向かない職業だ。


 さらに彼女のレベルは一桁。やっと五に上がったといったぐらいだ。これでは弱小モンスターを倒せるか倒せないか微妙なところ。



「そんなステータスで昼ならまだしも、夜にソロは無理だろう」


「そ、そうですよね……」


「どうして、一人なんだ。ディーヴァを選ぶぐらいだ、パーティーを組む予定だったんじゃないのか?」



 ゲームを始める時にチュートリアルがあり、その時に説明が一通りあるのだ。ディーヴァがサポート向けであるのは分かっているはずだろう。


 義経の疑問に少女はそのと、ぽつりぽつりと話す。友達と一緒にやる予定であったのだと。


 どうやら、事前にその友人からサポートしてほしいからと、ディーヴァになることを勧められたらしい。サポート職だからと言われ、少女はそれを了承した。


 最初はサポートとして頑張っていたのだが、友人から戦力外通告を受けたらしい。他のメンバーとパーティーを組むからと言われ、見捨てられてしまったのだと。



「あとから知ったんですけど……私、引き立て役にされていたみたいで……」



 友人にそんな扱いを受けてショックだったが、ゲームをやめることもできず。なんとか一人でもできるようにレベルを上げるべく森に入ったと、少女は瞳に涙を溜めていた。


 別にゲームを続けなくてもいいのではないかと義経は思った。嫌な思い出のあるものを無理してやる必要はない。


 このゲームは一度、決めた職業から変更することができないというマイナス面がある。やるにしてもデータをリセットするなど方法はあるだろうにと。



「お前、VRMMOの経験は?」


「それがその……まともなゲームはこれが初めてで……」


「なら、ディーヴァはやめておけ。今からでもデータをリセットして……」


「で、できません!」



 データをリセットという言葉に少女は声を荒げる。その勢いに義経が目を丸くすれば、少女はすみませんと俯いた。



「その……父に心配かけたくなくて……」



 このゲームは父に無理を言って買ってもらったものだった。父はゲームの話を聞くのが楽しみらしく、少女は友人とプレイしていることを話していたのだという。


 もちろん、職をディーヴァにしたことも父は知っている。データをリセットしたと聞いて、父が心配するかもしれないからできない。


 言わなければいいだろうと思うかもしれないが、黙っていられる自信はなかった。少女は落ち込んだふうに息を吐き出す。


 そんなもの気にしなければいいだろうと義経は思ったものの、彼女の性格ではそうはできないのだろう。難儀なものだなと義経は少女の話を聞いていた。



「あ、あの……お兄さんは、ゲームとか上手いほうですか?」


「まぁ、人並み程度だが……」



 少女は意を決したように目を向けてきて――その瞳に義経は嫌な予感がした。



「その、私とパーティーを組んで教えてくれませんか!」


「断る」



 即答であった。ゲーム初心者を育成するほど大変なものはない。そもそもソロで遊ぶ方が好きだ。そう義経が訳を話して断るも、彼女は引かず、「お願いします」とコートを掴んできた。



「まともに頼れる人がいないんですよぉ。お願いしますぅ!」


「そう言われてもな……。そもそも、お前はステータスや職業、スキルのことは理解しているのか?」


「え、えと……その、わかりません!」



 なんだ、その自信満々な回答は。義経はあまりにも素直に答えられて痛む頭を抑える。


 一から教えなくてはいけないのだから、大変なのは目に見えていた。なので断るのだが、少女はお願いしますと言って引かない。終いにはコートを掴みながら、土下座をしていた。



「ごめんなさい。無理を言っているのは分かっています。でも、お兄さんぐらいしか、話を聞いてくなくて……お願いしますぅ」



 少女の涙を堪えながら頼む姿があまりにも不憫に思えてしまい、義経は折れた。




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