城下町へと戻った義経は真っ直ぐ防具屋へと向かった。グランデという防具屋へと入ると、中には様々な防具が飾られている。
此処では即製品の防具を選ぶことができ、ゲームの通貨、
素材から防具を作る場合は鍛冶屋に行かなければならない。素材を持っていない彼女ではそれが不可能なため、即製品を購入するしかなかった。
ずらりと並ぶ防具たち。このゲームには男性装備、女性装備という区分はない。男でも女性のような装備を着れるし、その逆も然り。
そもそも、キャラメイクの時にベースとなる自分の身体を自由にいじれ、別人になることができ、性別の指定はしない。
自分自身の身体がベースになっているため、男性と女性の区別はできるが、性別を設定しなくてもよくなっている。そのため、分類的には女性っぽい装備、男性っぽい装備という扱いだ。
「此処がお前の予算内の装備だ。それで、ディーヴァは攻撃力と防御力が全職業ワースト一位、体力は平均以下。基本的にサポート寄りだから、攻撃力は捨てろ。体力と魔力のステータスが上がる装備にするんだ」
義経のアドバイス通りにこまちは装備を探していく。いくつかよさげなのを見つけたのか、どれがいいでしょうかと見せてきた。
一つは白い聖女のドレス、もう一つは銀の軽鎧であった。義経は二つの装備スキルを確認すると、どれもお前には不必要なものだと指摘する。
「えっとスキル?」
「まず、そこからか……。スキルは職業によって覚えるものと共通のもの、特殊なものの三種類が存在する」
職業スキルはその名の通り、職業によって覚えるスキルのことだ。その職業にあったスキルをレベルアップや条件を満たすことで覚える。
共通スキルというのは職業に関係なくプレイヤーが覚えることができるものである。これも職業スキルと同じ方法のほか、ミッションの報酬で覚えることができるようになる。
特殊スキルはミッションや条件を達成した時に取得するか、ダンジョン報酬装備などに付与されている。
「そして、生身につけれる職業スキルは十つまで。あとは装備に付与されたスキルのみだ。共通スキルは一部を除き、常に発動している。で、お前の職業はディーヴァだ。その職業にあったスキルっていうのがある」
装備に付与されている装備によっては、自分の職業にあっていないものがあったりする。それを着ていても、何の意味もない。
「お前が選んだ聖女のドレスは
「な、なるほど」
「お前はまだレベル5で覚えているスキルは……〝属性の歌い手〟と〝癒しの歌い手〟だけ。ディーヴァの能力を強化するものがいい。あと魔力を消費するから、マジックポイントが増えるやつを選べ」
義経の指摘にこまちは慌てて生身にスキルをセットする。それを横目に義経はディーヴァにあった装備をいくつか選別していく。
ディーヴァの防御力を補えて、体力とマジックポイントを上げるスキルのついたものを取っては、近くにあったテーブルの上に置いていく。
それらをこまちはほえーと眺めていた。何がいいのか全く分かっていない様子に、呆れそうになるがゲーム初心者なら仕方ない。
義経は先が長そうだなと思いつつ、選んだ装備を見せながら説明をする。
「今の所持金だと、胴装備・両足装備・耳や手首などのアクセサリーが限界だ。フルセットの装備は購入ができない。これらを組み合わせていくのが一番だ」
なるべく変にならぬようにと義経は考え、こまちに白いカラシリスの服とベアフットサンダルを渡した。
「胴装備は防具【イリスの神衣】だ。これは防御力を補うスキル【イリスの慈愛】が付与されている。ディーヴァ限定で防御力を平均値まで上げることができて、体力が小アップする。両足装備は【精霊の踊り子】素早さ小アップの【精霊の脚】がついている」
これらのスキルがあれば一応は戦闘にでることができるだろう。義経の説明を聞いたこまちは装備の試着をしにいった。
着替えをするのは数分とかからず、すぐに戻ってきたこまちは服装を何度も眺めている。
見た目はこまちによく似合っており、これなら違和感もない。それを見て、義経はあとはこれだと水色の宝石が付いた金のブレスレットを渡した。
「これはマジックポイントを小アップさせる装備だ。これでお前の装備は一通り完成ではある。まぁ、レベルを上げてすぐに装備も変えるべきだがな」
「え! どうしてです!」
「下級装備だからだよ。難易度高いダンジョンなんかじゃ、その装備だと一瞬だぞ」
いつまでも下級装備をつけている場合ではないのだ。良い装備を見つけたら、それに変更するのもプレイの一つである。
上級装備ならば強化をすることもできるため、できるならば上級装備を手に入れるほうがいい。そう聞き、こまちは納得したのかふむふむと頷いていた。
「で、お前のレベルを上げるのに手っ取り早いのはダンジョンだろうな」
「ダンジョン」
「ダンジョンなら報酬も手に入るし、そこそこのレベルのモンスターが出るから手っ取り早い」
「それって私が行っても大丈夫です?」
「お前が邪魔せず、後方でサポート技だけ使っていれば問題ない」
レベルを上げるにはモンスターと戦闘しなくてはならない。それはどのゲームでも同じだ。
このゲームでは一度でもモンスターに攻撃するか、または戦っている味方をサポートすれば経験値が入るようになっている。ディーヴァを育成するならば、後者だ。
本来ならば、野生の弱いモンスターからレベル上げをするのが普通である。が、このゲームはレベルがなかなか上がらないのだ。
そんな方法では時間がかかるだけなので、義経はスパルタ方式を採用した。
「ぜ、絶対にゲーム初心者向けじゃないですよね」
「なんだ、俺とパーティを組みたいんだろ。我慢しろ」
「鬼だー」
こまちの叫びなど知らず、どのダンジョンに行くかとマップを開く。一度、行ったダンジョンはマップに表示されるのだ。
どれが初心者向けだったかと思案していれば、あっとこまちが思い出したように声を上げる。
「私、ダンジョンっぽいの見つけたことあります」
「何処だ」
「……多分、ここら辺?」
「曖昧すぎだろ、おい」
どうやら、マップを見ていたわけではないようで酷く曖昧な位置であった。
ただ、こまちの記憶が正しいのでならば、そこはまだ義経が行ったことがないダンジョンである可能性が高い。どうして見つけたのだと問えば、道に迷った時にと返される。
どうやら、夜まで森にいたのは道に迷ったからのようだ。マップの見方も分かっていなかったらしい。これでは正確な位置がと思っていれば、「洞窟は覗いたんですよー」とこまちが言った。
「ちょっと、お前のマップ見せろ」
「え、えっと」
義経の指示の通りにマップを開く。こまちが曖昧に指した場所をみれば、光っている部分があった。どうやら、覗いたことによりダンジョンに入った扱いを受けたらしい。
月影の洞窟と記されてマークがついているので、ダンジョンであることは間違いない。
「此処に行くぞ」
「今からですか?」
「なんだ、予定があるのか?」
「いえ、ないです。でも、ゲーム内は夜だし……」
「今から出ればたどり着く頃には朝だ。この世界の一日は短い」
ゲーム時間と現実世界での時間は違っている。夜を明けるまで待つのもいいが、今の時間ならば森につく頃には朝になっているだろう。
装備の支払いをさっさと終えて義経はこまちを連れて店を出ていった。