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第5話 これはドジっ娘という奴じゃないだろうか


 月影の洞窟。それは森の中にひっそりと隠れるように存在していた。朝焼けに照らされる洞窟の入り口は何処か恐ろしい。ぽっかりと空いたその穴に吸い込まれそうであった。


 入口を確認して義経はマップを表示させる。ダンジョンマップを取得していないため、詳細なものではないが、道が表示されていた。



「難易度は3か。そこそこだな」


「絶対、ゲーム初心者向けじゃない難易度だ……」



 こまちの言葉を無視し、マップに表示された難易度に義経はふむと考える。難易度3はゲーム初心者がいることを考えれば、多少難しくなった程度か。


(これならば、問題はないか)


 義経は行くぞとランプを片手に洞窟の中へと入っていけば、こまちも恐る恐るといったふうに着いてきた。


 ぽちゃんと雫が滴る音が洞窟に響く。それ以外は静かなもので、モンスターが飛び出てくる気配がない。不審に思いながらも奥へと進んでいく。


 しゅっと何か音がした瞬間、義経は飛び避ける。ガンっと壁に突き刺さるのが視界に入った。


 確認してみればそれは細長い矢のようなもので、ダンジョンに仕掛けられた罠が発動したようだ。こういった罠が仕掛けられているのは、ダンジョンでよくあることである。


 これは危険だと義経が気を付けるようにと振り返って、はぁと深い溜息を吐き出した。



「ひぇぇえ、助けてください~」



 こまちが粘液のような糸に絡まり、天井から吊るされていた。いったい、どうしたらそうなるのだ。


 義経は太刀を抜いて糸を切れば、落ちてきたこまちは腰を打ち、痛そうに呻いた。



「罠には気を付けろ。変なものには迂闊に触るな」


「わ、わかりました……」



 腰を抑えながら立ち上がったこまちだったが、ふらりと足元を躓かせた。小さく悲鳴を上げながら手を壁に触れる。


 カチ。何かが嵌る音がした。



「うん?」



 なんだろうか、こまちが首を傾げる姿に義経は眉を寄せた――嫌な予感がして。


 カサカサと足音が響く。後ろを振り返れば、奥のほうから何かが走ってきた。


 蜘蛛だ。こまちの膝丈ほどの大きさの複数の蜘蛛がわらわらとやってくる。


(二体、いや三体だ)


 義経は武器を構える。三体であれば、倒せなくはない。これは逃げるよりも、経験値にしたほうが旨みはある。



「お前も武器を、守護獣を出して自分を守るように指示を出せ。あと、ステータス強化系の技を俺にかけろ。いいか、俺の後ろより前には出るな」


「は、はい!」



 こまちは腰につけていた守護獣の秘石に手を振れる。すると、月の影のように淡い鱗を持った西洋竜が姿を現した。


 こまちはムーンシャドウドラゴンに言われたように指示を出す。ムーンシャドウドラゴンは咆哮し、守りの構えをとった。


 戦闘領域に達し、義経は飛んだ。一匹の蜘蛛を斬り裂き、技を繰り出す。炎を纏った刃は途端に蜘蛛を燃やした。


 悶え苦しむ蜘蛛を他所にもう一匹が義経に襲い掛かる。糸を吐きつけられ、素早さが低下した。


 デバフをかけられたと思っていればm歌が響く。すると、光の塵が義経に纏い、ステータスダウンが無くなっていた。ディーヴァであるこまちがサポート技を出したようだ。


 それに気づいたもう一匹の蜘蛛がこまちに飛び掛かかるも、主人を守るようにムーンシャドウドラゴンが翼で弾き飛ばす。


 飛んできた蜘蛛の隙を逃さず、義経は太刀を突き出した。ぐさりと蜘蛛の身体を突き抜ける刃、ぼっと炎が溢れ燃え上がる。そのまま勢いよく振って引き抜く。


 燃えながら地面に叩きつけられた仲間に、残った蜘蛛は逃げようと引き返す。それを見過ごすことを義経はしなかった。


 さっと前に出て再び技を発動する。炎を纏った刃が逃げる蜘蛛目掛けて振り下ろされた。


 灰となった蜘蛛たちはアイテムをドロップさせる、僅かなGと素材だ。素材は下位のものであるが、売れば多少の金にはなるだろう。


 太刀を仕舞い、こまちを見れば驚いているのか目を見開いてた。義経がどうしたと問えば、「一瞬でしたね」と返ってきた。どうやら、早期決着が凄いと思ったらしい。



「これぐらいの下級モンスターならば、さくっといける。まぁ、ディーヴァでは無理だが」


「そう言えば、義経さんは職業なんですか?」


聖騎士パラディンだ」


「ぱらでぃん」


「分かっていないな、お前」



 舌足らずに言うこまちに義経は呆れたように溜息をつく。


 パラディンという職業は分かりやすく言えば騎士だ。このゲームでは聖騎士という扱いである。近接攻撃を得意とし、アンデット族に耐性をもつ職業だ。



「攻撃力は全職業トップだ。メジャーで人気のある職業だな」


「他には何があるんでしょう?」


重戦士ガードナー、マジックナイト、ウィザード、アサシン、アーチャーだ。このゲームには上級職といったものは存在しないから、これで全部だ。つーか、チュートリアルで教えてもらっただろうが」


「その、あの……えへへ」



 えへへではない。じとりと予が見遣れば、こまちは目を逸らしながらごめんなさいと謝罪した。


 覚えていないものは仕方ない、一からまた覚えなおせばいいことである。責めることでもないので、覚えろよと言って義経はムーンシャドウドラゴンのほうを見た。


 ムーンシャドウドラゴンを出し入れする作業が手間だ。洞窟型のダンジョンなため、狭い空間ではあるものの、移動には問題ない。



「ムーンシャドウドラゴンは出したままにしろ。いつでも戦えるようにするんだ」


「わ、わかりました」



 こまちの返事を聞き、再び二人は歩き出す、はずだった。ふわぁっと小さく鳴いたかとおもうと、こまちが転げたのである。そして、発動する罠。


 飛び出る岩の棘を避けた義経に、こまちが謝ろうと動こうとし、それを止めた。



「動くな、壁に手を付けるな」


「うぇ、でも先に進めませんよぉ」



 薄々、気づいてはいたが、彼女は俗にいうドジっ娘というやつではないだろうか。確かに洞窟内は足場がよくはないが、そう何度も転げるほどではない。


 さらに狙ったかのように発動する罠の数。なんだ、不運スキルでもついているのかというほどの起動率。


 どうしたものかと義経は考えて、よしと小さく呟く。



「……だ、大丈夫でしょうかこれ」


「これしかないだろう」



 結果、こまちが義経のコートを掴んで歩くということで落ち着いた。とにかく足元に注意を向けさせ、壁の罠を発動させないようにする。これができるのは誰かにしがみつくほかない。


 こまちの背後は守護獣であるムーンシャドウドラゴンに任せることにする。これで幾分かは良いだろう。


 気を取り直して洞窟内の探索を開始した。


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