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第6話 ゲーム初心者でもやれることはやる


 どれほど奥に進んだだろうか。わからなくなりそうになるぐらいには歩いていた。途中でマップを見つけたため、ダンジョンの全体図が見えるようにはなっている。


 このダンジョンは一本道タイプのようだった。脇道があっても途中で行き止まりになっている。そういうところに宝が配置されていることもあり、少し面倒であるが探索するしかない。


 何本目かの脇道に回復アイテムが宝として設置されていた。解毒薬や解麻痺薬など状態異常系のものである。



「毒と麻痺に気を付けろってことか」


「どういうことです?」


「こういうダンジョンに落ちてる回復アイテムっつーのは、ボスのヒントだったりするんだよ」



 必ずというわけではないが、落ちている回復アイテムというのはボスのヒントだったりする場合がある。


 今回のアイテムならば、毒や麻痺攻撃を使用してくる可能性があるということだ。


 さらにボス前やボスの近くに置いてあることが多いため、もうそろそろ最深部であることは予測できた。



「お前、状態異常回復系の技あるか?」


「え、えっと〝神秘の守り唄〟っていうのがあって……。一定期間、状態異常を無効にするのがあります」


「それだな。ボス戦に入ったらすぐにかけろ」



 とにかく前には出るな、守護獣に守りを固めさせろ。そう指示をし、義経は周囲をランプで照らす。


 うっすらと奥が見えるその先はどうやら広い空間に繋がっているようだ。


 最深部へと義経は慎重に歩を進める。そうして、空間の入り口に足を踏み入れた時――しゅるしゅると白い糸の束が入り口を塞ぐいだ。



「ふぇえ! 出口が!」


「封鎖系か」



 ボスを倒さなければ出れないタイプの仕掛けのようだ。こまちに少し離れるように言い、太刀を構えて義経は目を凝らす。


 ぼっと周囲に光が灯ったて、こまちを抱えながら義経は飛んだ。


 どしんと音を鳴らし、何かが降ってくる、それは黒みがかった巨大な蜘蛛であった。赤く光る眼は二人を捉えている。


 ジャイアントスパイダー、Bランクに値するモンスターだ。始めたてのプレイヤーならば手こずるモンスターである。


 口からジャイアントスパイダーが液体を吐き出した。それを避けながら観察する。地面が溶けないのを見て、状態異常系の技であると推察した。


 こまちを降ろし、義経はさっき指示した通りにしろと言って、ジャイアントスパイダーのほうへと駆けた。


 綺麗な歌声が響き、義経の周囲を薄いベールが守った。こまちが指示通りに技を発動させたのだ。


 ステータス画面に〝神秘の守り唄〟と表示され、カウントダウンが開始される。初級技であるためか、効果は三分間のみのようだ。



「効果が切れる前に神秘の守り唄を再度かけろ! あとはステータス強化系の技を発動させるんだっ」



 義経はそう叫び、振り下ろされたジャイアントスパイダーの鋭い足先を避ける。こまちは「はいっ!」と返事をし、あわあわと慌てながら技の確認していた。


 あれをどうにかしなければいけないと、横目で見ていた義経であったが、今はボスを倒すのが先だ。


 吐き出される液体を避け、ジャイアントスパイダーの眼に向かって剣を振り下ろした。



「ギュギャァァアァァアァアアッ!」



 斬りつけられ、三つほど眼が潰される。その痛みからか、ジャイアントスパイダーは悲鳴を上げ、悶えるように後退する。


 すかさず、技を発動させた。刃に炎が宿り、空を斬る。すると炎がブーメランのようにスピードを上げ飛び、ジャイアントスパイダーの身体を切り裂いていく。


 身体から緑色の液体を垂らしながらも、ジャイアントスパイダーはまだ動いていた。


 戦う意思があり、赤い眼をぎらつかせ、怒ったように咆哮する。瞬間、どんっと飛んだ。天井にぶら下がり、素早く動き回っている。


 狙いを定めようと見上げるも、天井に張られている蜘蛛の巣の上では素早さがあがるようだ。なかなか攻撃が当たらず、それを見てかジャイアントスパイダーは上から液体を吐き出してくる。


 連続で吐き出される液体、それを避けていた義経だったが、地面にこびりついた粘液に足を滑らせる。


 転げそうになるのを堪えてなんとか踏ん張るも、吐き出された液体を避けきることができなかった。


 歌声が響くと同時に義経の目の前に薄いベールのような壁が現れる。液体はその壁に当たり、義経がダメージを受けることはなかった。


 ちらりと見遣れば、こまちが慌てながらも技を発動させていた。咄嗟に動いたようで、間に合ったと安堵している表情をみせている。


 彼女も頑張ればできるようだ。義経が礼の意味を込めて手を軽く上げれば、こまちは目を瞬かせ、何となくだが察したのかぐっと親指を立てた。


 動き回るジャイアントスパイダーを目で追いながら、どうするかと義経は思案する。


 最深部は広く、飛んだとしても相手には届かない。届いたとしても、蜘蛛の巣に捕まっては元も子もない。


 再び技を発動させ、炎の刃を飛ばす。ジャイアントスパイダーはしゅっと避けてしまった。


(ダメか)


 そう思ったのだが、あることに気づいた。先ほど放った炎の刃によって、蜘蛛の巣の一部が燃えていたのだ。


 蜘蛛の巣には火属性耐性がない、義経の目の色が変わった。破壊可能ギミックであるならば、打開できる。



「魔力強化の技を!」


「はいぃっ!」



 こまちは唄をうたう。キラキラ輝く光の塵が義経に纏ったかとおもうと、魔力のステータスが上がった。


 太刀を構え、義経は蜘蛛の巣の中心に狙いを定める。魔力を練り上げるように溜め、刃に力を籠めた。


 練り上げられた魔力によって強化された炎は蒼く、刃を燃え上がらせる。すっと息を吐き、義経は思いっ切り剣を振った。


 技の発動と共に蒼い炎の竜が、蜘蛛の巣の中心目掛けて駆け抜けていく。蜘蛛の糸を燃やしながら、食らいつくように破壊していった。


 燃える巣にジャイアントスパイダーは逃げまどうも、糸が切れ地面に叩きつけられる。


 落ちて転げるジャイアントスパイダーに向かって義経は走り、こまちは必死に技を発動させてサポートした。


 深く切り裂かれた腹部に悲鳴を上げながら、ジャイアントスパイダーは義経を弾き飛ばす。


 態勢を立て直て向かって飛んでくるジャイアントスパイダーに、義経はまた一撃与えた。



「もう、マジックポイントありません!」



 こまちの叫びに義経はステータス画面を見た。神秘の守り唄の効果はあと二分である。二分で倒さなければ、粘液にまで気を配らなければならなくなる。


 ステータスの低い状態でマジックポイントが良く保ったほうか。義経は刃に炎を纏わせ、再び魔力を籠めた。


 避けながらではあるものの、溜まった魔力を一気に放出させる。蒼く燃える炎が再び竜の姿へと変わった。


 ジャイアントスパイダーはそれを見て、周囲を見渡す。隅のほうでムーンシャドウドラゴンの後ろに隠れていたこまちを見つけた。



「しまったっ」



 こまちに攻撃対象を変更し、ジャイアントスパイダーはこまちのほうへと勢いよく飛んだ。これにはこまちも思わずしゃがみこむ。


 攻撃が当たる間際、ムーンシャドウドラゴンがジャイアントスパイダーを跳ねのけ、のしかかるように上に乗りあげた。



「こまち、そのまま離れろ! 俺が合図したらムーンシャドウドラゴンに飛ぶように命令するんだ!」



 義経の指示にこまちは頷いて走った。十分な距離をとったのを見て、義経は剣を構え直す。


 ムーンシャドウドラゴンにのしかかられ、身動きがとれないジャイアントスパイダーは必死に抵抗している。


 刃に灯る蒼い炎、それが渦を巻いて竜の姿に変わった。



「今だっ!」


「え、えっと、ムーンちゃん飛んでっ!」



 合図にこまちが叫ぶ。ムーンシャドウドラゴンはその命令を聞き、素早く上空飛行する。


 ジャイアントスパイダーは起き上がり、前を向いた――目の前には蒼く燃える竜の姿。



「燃えろっ!」



 青く燃える竜に食われ、ジャイアントスパイダーは叫び声を上げる。食いつくされるように噛みつかれ、燃え上がる身体に悶えた。


 竜が消え、燃える身体で逃げようとするジャイアントスパイダーの頭上に浮かぶ影。義経は太刀を振り下ろし、脳天に突き刺した。


 ジャイアントスパイダーの動きが弱まる。はらはらと身体が塵になる最中、液体を義経に吐き出して消えた。



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