十七歳になるまでは、私はあの穏やかな日々が永遠に続くものだと信じて疑わなかった。
けれど、そのすべては、あの灼熱の夏に突然覆されてしまった。
私の家は鎌倉市にある。
南の静かな小さな町で、決して大きくはないけれど、豊かで美しい場所だ。緑の山々に囲まれ、湖はガラスのように澄み、太陽の光が水面に金色の粒となって降り注ぐ。
父は鎌倉でも有数の資産家であり、藤原織物は百年以上も続く老舗だ。家の一人娘として、私は何不自由なく育てられ、華やかな容姿もあって、「鎌倉一のお嬢様」と呼ばれていた。
瀬川さんは我が家の隣人で、穏やかな性格から人前に出ることを好まず、昔から私たち家族と親しい付き合いだった。その夏、瀬川さんは一人で遠出をしていた。
帰ってきたとき、彼女は三人の人を伴っていた。
私はそのときまで、瀬川さんに息子がいることなどまったく知らなかったし、彼女からも一度も聞かされたことがなかった。
実は、私が初めて瀬川達也を見たのは、瀬川さんが彼を家に連れてきた時ではなかった。その前に、私たちはすでに出会っていたのだ。
私は泳ぎが得意だ。その日も湖のそばを通りかかったとき、水面の異変で誰かが溺れていると直感した。必死に彼を岸まで引き上げた。
こんなに整った顔立ちの男性を見たことがなかった。彫りの深い顔、鋭い眉、しっかりとした唇。その瞬間、胸が高鳴った。人工呼吸をして助けたものの、顔が熱く火照り、彼が目を覚ますのを待つこともできず、慌ててその場を離れてしまった。
瀬川さんがどうやって藤原理恵親子を知り合ったのかは私も知らない。
だが、間違いないのは、瀬川さんが藤原理恵と藤原優美を藤原家の門前まで連れてきた、ということだった。
その日は、特に蒸し暑かった。
「正和さん、本当は余計なことはしたくなかったの。でもね、この子があまりにも可哀想で、まともな服も持っていない。子どもに罪はないでしょう」と瀬川さんはため息をついた。
藤原理恵と藤原優美は、どちらも芝居が上手かった。家に入るなり、二人は「ドサッ」と音を立ててひざまずいた。優美は汚れたワンピースを着て、涙の跡がまだ頬に残り、戸口で小さく震えていた。まるで怯えた小鹿のようだった。
理恵は、母である藤原真由美に何度も頭を下げた。
「お姉ちゃん、あのときは私が馬鹿だった。でもこの何年も、私は報いを受けてきた。一人でこの子を育てるのはもう限界。お願い、何もいらない、優美を引き取ってくれるだけでいい。どうしても信じられないなら、親子鑑定だってしてもいい!」
母はもともと情に厚い人だ。
だが父は、きっぱりとした口調で言い放った。「だめだ!藤原家の敷居はまたがせんぞ!私の娘は晴子だけだ!君たちのことなど、私には関係ない!」
私はその時のことをはっきりと覚えている。父は容赦なく理恵親子を追い出した。
母は心を痛めて、「せめて……お金だけでも渡したら?このままじゃ、あなたの評判も悪くなる。もう昔のことだし、私もとっくにあなたを許しているのよ」と言った。
けれど父は冷たく笑った。「敵に情けをかけるのは、自分を傷つけることになる。」
その時、私は父の言葉の本当の意味を理解できなかった。
瀬川さんは帰るとき、父と母に申し訳なさそうに言った。「正和さん、真由美さん、本当にごめんなさい。私は普段、こういうことに首を突っ込むタイプじゃないんです。でも、今までお世話になったご恩もあって、もし私が彼女たちを連れてこなかったら、いずれ自分でこの家に来て騒ぎになると思って……少しでも穏便に済めばと思ったんです。どうか気になさらないで。結局……結局は家族なんですから。余計なことをしてしまいました。しばらく私の家に泊めますので、その間に何か解決策を考えてください。」
後になって私は、「家族」という言葉の重みを知ることになる。
藤原理恵は、母の実の妹――私が一度も会ったことのない叔母だった。だから、母が心を揺らしたのも納得だった。そして藤原優美は、私の妹。瀬川さんが騒ぎが大きくなることを心配したのも、この複雑な関係のせいだった。
瀬川さん自身も、まさか自分の善意が、私の家族だけでなく、自分自身まで、取り返しのつかない運命へと巻き込むことになるとは思わなかっただろう。