突然、瀬川拓真はぱっと目を覚ました。
私は慌ててナースコールを押した。
すぐに医師や看護師たちが駆けつけ、その後、瀬川明美と瀬川峰成も急いで病室に入ってきた。
たちまち病室は人でいっぱいになり、私は端の方に押しやられて、居心地の悪さを感じていた。
医師が慎重に拓真の容態を確認し、にこやかに「回復は予想以上に順調です。患者さんは安静が必要ですので、面会は手短にお願いします」と告げた。
峰成は明らかに安堵した様子で、私のそばを通り過ぎながら一瞬だけ目を留めた。
私は少し戸惑いながらも、丁寧に「会長」と声をかけた。
峰成は思ったよりも柔和な表情で、「君のことは知っているよ。設計図も良かった。これからはお義父さんと呼んで、拓真のそばにいてやってくれ」と優しく言った。
私はうなずいて返事をした。
明美は明らかに不満そうだったが、無理に上品さを装いながら「峰成、あの子はこの前の婚約式の夜、優美の流産の原因を作ったのよ。心根が歪んでいるの。もしまた何かあったら……」と言いかけた。
峰成の顔色が一気に険しくなり、私の目の前で明美を叱った。「俺が判断する。余計な口出しはするな」
明美は屈辱にまみれながらも、必死に平静を装い「分かりました」と答えた。
「晴子、晴子」と、拓真が私の名前を呼んだ。
私はますます落ち着かなくなり、どうしていいか分からなかった。
明美が近づこうとしたが、峰成が彼女を引き止めた。「用がないなら帰っていろ」
明美は悔しそうに私を睨みつけたが、仕方なく部屋を出て行った。
去り際に峰成が私に言った。「拓真が退院したら、君も屋敷に引っ越しておいで」
そう言うと、私の返事も待たずに出て行った。
私はその場に立ち尽くした。峰成の意図は一体――?
拓真のベッドサイドに戻っても、私は不安なままで、無意識に指先を組みしめていた。
本来なら、拓真が目覚めたことは何よりも喜ばしいはずだった。けれど、あの夜、私が原因で彼が事故に遭い、さらに瀬川達也とのことも見られてしまった――私はどう向き合えばいいのか分からなかった。
「晴子、こっちに来て」と、拓真は私の手を取ってベッドのそばに引き寄せた。「父上は君に良い印象を持っているみたいだ」
「拓真、」私はごまかさず言った。「あなたが目覚めてくれて、本当に安心した。もう少ししたら、私は東京を離れるつもり……」
言い終わる前に、彼は突然私をベッドに押し倒し、そして唇を重ねてきた。
私は驚きと動揺で体が固まり、動けなかった。
これまで、彼がこんなふうに距離を越えてきたことは一度もなかった。
この突然のキスに私は戸惑い、抵抗したい気持ちが湧いたが、強く拒むこともできなかった。
私は歯を食いしばり、彼はそれ以上は深くしなかった。
やがて彼は私を解放し、すぐにドアの方を見て「兄さん、いつからそこに」と声をかけた。
私ははっとして振り返った。
そこには達也がドア枠にもたれて立っていた。部屋には入らず、唇をきつく結び、表情は読めなかった。
きっと、さっきの場面を見ていたのだろう。私は動揺し、本能的にベッドから起き上がろうとしたが、拓真に手を掴まれていた。
「中に入って座らない?」
「拓真、無事でよかった」と達也はかすれた声で言った。
「拓真、今日はゆっくり休んで。明日また来るわ」と、私はその隙にベッドを離れた。なぜか、何かが変だと感じた。拓真は――さっきのキスも、どこか意図的だったような気がする。
だが、拓真は手を離さず、私の手首をしっかりと掴んでいた。
私は力を入れられず、逆に彼は全力で私を引き寄せてきた。
その勢いで、拓真自身がベッドから落ちてしまった!
私は慌てて支えようとした。
達也も素早く駆け寄り、体を支えた。
だが、拓真は達也を激しく突き飛ばし、私だけを掴んだまま、両手で自分の足を恐る恐る叩き始めた。澄んだ瞳が私を見据え、「晴子!俺の足が……なぜ立てない?!どうして?!」と叫ぶ。
「えっ?」私はショックで言葉を失った。
まさか――