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第13話 君心は測り難し


宮中の女官たちは誰一人として規律を破ろうとせず、手を出す者はいなかった。林妃は冷ややかな目で彼女たちを一瞥すると、ためらうことなく帳をめくった。


「あっ……」雲湄は思わず叫び、広くたくましい胸元へと身を縮めた。


寝台の上から冷たい視線が投げかけられた瞬間、林妃の顔色は真っ青になり、慌てて後ずさりしながらひざまずいた。


「陛下……!陛下がいらっしゃるとは存じませんでした。無礼を働き、どうかお許しくださいませ」声を震わせ、林妃の全身は小刻みに震えていた。まさか、この寝台の主が皇帝だったとは夢にも思わなかったのだ。


殿内の誰もが呆然とした。なぜ陛下がここに――?


様子を探ろうとしていた鳴翠は、林妃の叫び声を聞くや、膝の力が抜け、慌てて雲妍のいる宮へと向かった。


君玄翊は素早く布団を引き寄せて雲湄を覆い、自身も身を起こすと、冷たい声で言い放った。「出ていけ。」


林妃は体を震わせ、一瞬たりともその場に留まることなく、付き従う者たちとともに情けない姿で殿外へ退いた。そして、涙をこらえながら膝をついた。


寝台の上で、雲湄は顔を真っ赤に染め、君玄翊の胸に身を寄せた。「陛下、お助けいただき感謝いたします。心より御礼申し上げます。」


君玄翊の鋭い瞳には、かすかな憐れみが浮かんだ。彼は多くを語らず、そのまま外へ向かった。


雲湄は慌てて彼の後を追い、わざと脱いでいた衣を拾い身につける。


やがて、慌てて駆け寄ってきた芷児と翠児に微笑みかけると、二人も息を合わせて目を伏せた。


君玄翊が外に出ると、雲湄もそっと後に続いた。


君玄翊は軒下に立ち、長身の威圧感と支配者の怒りを全身にまといながら、低く問い質した。「話せ、これは一体どういうことだ?」


ただ一言で、林妃の顔から血の気が引いた。慌てて顔を上げ、言い訳を始めた。「陛下、私にも何が起きたのか分かりません。ただ、侍衛が雲貴人の寝殿に入ったと聞き、彼女が寂しさに耐えられず陛下の名誉を汚すのでは、と心配し、貴妃様のご命令を受けて急いで参りました。」


君玄翊は冷ややかに彼女を見下ろし、怒りを少しだけ抑えた。「貴妃の許可があって来たのか?」


「……はい。」


雲湄はそっと君玄翊をうかがった。実際、この侍衛がなぜこうなったのか調べるのは難しくない。だが貴妃が関わっているとなると、君玄翊はそれ以上追及しようとはしないだろう。


雲湄の目的は真相解明ではない。秦貴妃に代わって、その「白月光」の座を奪うことこそが狙いだ。


焦る必要はない。


予想通り、君玄翊はしばし沈黙し、帝王としての威厳を漂わせながら厳しく告げた。「今日は誤解だ。雲貴人と共にいたのは朕だ。今後、宮中でこのような噂が広まれば、決して許さぬ!」


皆、震えながら「はい」とひれ伏した。


君玄翊は雲湄の手を取り、殿内へ歩き出した。そして険しい声で命じた。「林妃は愚かにも讒言を信じた。今日より鐘粋宮に謹慎、俸禄三ヶ月停止。詔なき限り外出を禁ずる。」


林妃は目を見開いて驚き、「陛下……!」と呟いた。


雲湄は君玄翊に連れられて殿内に戻ると、彼が言葉を発する前に、柔らかな身体を彼の胸に飛び込ませ、うるんだ瞳で見上げた。


「陛下、今日、侍衛が誤って私の部屋に入ってきて、本当に怖かったのです。まさか陛下が助けに来てくださるなんて……」


雲湄は涙をこぼし、その白い肌は柔らかな光を帯びていた。その姿に、君玄翊は心を動かされた。「その侍衛が本当に誤って入ってきたと信じるのか?」


雲湄は黒い瞳を上げて答えた。「もちろんです。侍衛がわざわざ妃の部屋に入るはずがありません。きっと酒に酔って迷い込んだのでしょう。」


君玄翊は深い目で雲湄を見つめ、彼女の頬に触れた。こんなにも純粋で世間知らずな娘が、後宮の穢れに染まらないか心配すら覚えた。


部屋の女官たちは皆下がり、福安が合図して、隣室でまだ朦朧としていた侍衛を密かに連れ出す。


君玄翊は雲湄をしっかり見つめた。「安心せよ。これからは侍衛に牡丹軒を厳重に守らせる。今日のようなことは二度と起こさせぬ。」


雲湄はにっこりと微笑み、瞳を細めて春の日差しのような温かさを見せた。


彼女は君玄翊の眉間をそっと撫でた。「陛下、今日はお酒を召し上がりましたか?なんだか、陛下のお目元に哀しみが浮かんでいるように感じます。」


君玄翊は眉を上げ、彼女の手を取った。「朕は天下の主だ。哀しみなどあるものか。君心を探るのは死罪と知っているか?」


「それでも、陛下は私を処刑なさるおつもりですか~」柔らかな声で笑いかける。


君玄翊は、宮中で久しく見なかったその微笑みに、心の闇が少しずつ晴れていくのを感じた。


彼が口を開こうとしたその時、雲湄はそっと背伸びをして、君玄翊の唇に軽く口づけた。


だが、すぐに自分から積極的すぎたのではと気づき、あわてて顔を伏せて後ずさろうとした。だが、君玄翊が長い腕で彼女を引き寄せる。


彼女の頬の赤みに、君玄翊は興味深そうに微笑んだ。「愛しい人よ、前回温泉で酔った時は、今日ほど恥ずかしがっていなかったではないか。」


雲湄はきょとんとして顔を上げた。「どうして、陛下がそのことをご存知なのですか……?」


君玄翊は答えず、深い眼差しで彼女を見つめ、視線を唇へと移していく。


雲湄は男心を見抜くことに長けていた。この瞬間が潮時だと悟り、しなやかに君玄翊の腰に手を回し、恥じらいを帯びた声で「どうか、私を大切にしてくださいませ」と囁いた。


君玄翊の瞳は深くなり、彼女を抱き上げて寝台へと運んだ。


雲湄はおとなしく彼の肩に顔をうずめる。


揺れる灯火、たなびく薄絹――


やがて燭火が消え、雲湄の衣は乱れ、息を切らしながら君玄翊を押し倒した。「今度は、私がお仕えしますね~」


「ほう?」君玄翊はますます深い眼差しで彼女を見つめる。


彼の荒い息遣いとともに、大きな手が彼女の細腰をしっかりと抱き寄せた。


夜が明ける頃、牡丹軒から女子の甘えた泣き声が漏れ、小猫のようなすすり泣きが静まり返るまで続いた。


翌朝、君玄翊は朝の政務へ。雲湄は体の痛みを堪えながら起き上がった。


芷児が慌ててやってきて、「お嬢様、やはりご推察通りでした。昨夜、楽答応が延禧宮に連れて行かれたのを目撃しましたが、今もまだ戻っていません。」


雲湄は口元に笑みを浮かべた。前世で雲妍は牡丹軒の内情を知り尽くし、彼女を害するのは難しくなかった。だが、まさか芷児が武芸に長けているとは思わなかっただろう。


昨夜、長楽宮の外でこそこそ動いていた雲妍は、すでに芷児に見破られていた。


秦貴妃は雲妍の讒言を信じ、林妃を使って事を暴こうとしたが、結局は皇帝の怒りを買っただけだった。


今ごろ秦貴妃は、雲妍と雲湄が手を組み、林妃たちを罠にかけたと疑っているはずだ。


その激しい気性からして、昨夜の雲妍は目立った傷こそないものの、命を脅かすほどの仕打ちを受けたに違いない。


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