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第9話 黄昏教会街の解放。

「ルシフェリア」


 封印解除中の攻略対象がすぐに見つかった。教会の形をしていて、地下に続く階段があるダンジョンだった。


 道中のmobを殲滅しながら進み、黴臭いフィールド、水音のする場所を降りていって、俺は最下層でボスの前に立っているルシフェリアに声をかけた。


 周囲には、ルシフェリアのギルドのギルメン達がいる。皆同じ、ルシフェリア作の十字架アイテムを身につけているので、ギルメンだとすぐに分かった。ルシフェリアは身内にとっても優しい。


「来てくれたか、ゼクス」


 ルシフェリアが笑顔になった。すると周囲が少しざわっとした。

 しかしルシフェリアには気にした様子はない。

 俺がルシフェリアの支援にたまにくると、大体周囲はこういう反応だ。ルシフェリアは、あまり人を頼る印象がないらしいのである。だから俺は、ルシフェリアにタメ口で話しかけたとき、人前だと、『恐れ多いだろう!』と知らない人に怒られることがある。その場合、ルシフェリアが相手を黙らせるのだが、逆にそういう時はルシフェリアの眼光が強すぎてヒヤッとする。


「見てくれ」


 俺は視線を向ける。床一杯の大きさの巨大なドラゴンがいるのだが、ランダムに黒い焔の輪っかが出てきて、ドラゴンに攻撃するのが難しい。


 じっくりと見て、輪っかの規則性を確かめた結果、道が出来るのが三秒、その瞬間にドラゴンのもとまで行き、とどめをさして、ドラゴンが倒れた体の上などに乗って、ドラゴンの真下の輪っかが出ないところで少し待機するという方法でしか、倒すのは難しそうなフィールドトラップだと俺は思った。


 まぁ床罠としては、珍しい部類のものではないのだが、秒数が短いのが嫌な感じだ。ちなみに遠隔攻撃は三秒では無理だろう。


「固いって言うのは? 見た目柔らかそうだけど」


 固いドラゴンは、体から水晶が出ていたりする。しかし目の前のドラゴンは、鱗はあるものの、そう皮膚が硬いようには見えない。肉か?


「レベルが高いんだ」

「ん?」

「セントラル前までの大陸だと、最果ての塔のラスボスであっても、過去最高レベルはLv.500だっただろう? 恐らくはゲームの制限だった。それを集団で倒すゲームだろう?」

「まぁな、確かにそうだ」

「死霊術士スキルのレベル測定で見た結果、このボスのレベルはLv.875だ」

「とするとモンスターのレベルキャップが上がったのか?」

「そうだと俺は考えている。そしてプレイヤーでLv.875以上は片手の指の数ほどしかいないな?」

「……それで?」

「この罠の場合、集団では倒せない。ボスより強い、高レベルの者がソロで倒すしかないだろう」

「その条件ならルシフェリアだって倒せるだろうが」

「勿論挑戦した。結果幾度も死んで、真上の教会で蘇生して、お前に手紙をした」


 このゲームは、敗北すると教会で目が覚める。痛みなどはないが、目の前にDEATHという表示が出る。


「なんで死んだんだ?」

「ステータス相性の問題だと思う」

「なるほど」

「俺はゼクス以外にグランギョニル・パラダイスにおいて、Lv.999かつ全ステータス最高値、全職スキル全て習得済みで、戦闘経験が豊富なユーザーは知らない。そしてこのボスを倒すのにどのステータスが足りないのかも分からない」


 ルシフェリアの声に、周囲がシンっとした。


「ゼクスと違って、俺は全てを最高値には出来ていない」

「……しろよ」

「努力はしているが、今は目の前のボスが先決だ。俺はもう三十回以上死んでるからな」


 別にこのゲームは死んでも装備のロストなどはないのだが、死ぬとなんとも嫌な気分になるのは分かるので、俺は頷いた。


「俺も死ぬかも知れないけどな、やってみる」


 こうして俺は少し逡巡して、僧侶の錫杖型槍という武器を鞄から取り出した。


「遠隔攻撃をする気か?」

「いや、真上に飛んで貫く方向性で」

「なるほど」


 ルシフェリアが頷いた。俺はその間に黒い焔の輪っかのタイミングを見て、道が出来たとき、床を蹴った。暗殺者スキルで加速し、口を開けたドラゴンの前に到達してから、道化師スキルで天井間際まで跳び、真上からドラゴンの首の付け根に僧侶スキルで錫杖を突き刺した。


 すると轟音が響き、ドラゴンの巨体が床に倒れる。

 俺はその上に着地した。するとドラゴンの体が粒子になって消え始めたので、完全に消える前に床に降りた。


「さすがだな」

「でもトラップは残ったままだぞ? 解除した方が良くないか?」

「それはそうだが、そこに【黄昏教会街解放】と出ている」


 ルシフェリアが壁を指さしたので、俺はそちらを見た。本当だ。ならば、攻略成功だ。


「え、じゃあ床の罠は放っておくか? ボスが少しして復活したら、また倒しに来た人大変だろうけど」

「まぁ、自力でそこは各々頑張るほかないな。ありがとう、ゼクス。恩に着る」


 ルシフェリアは時々適当になる。だが詰めが甘いのではなく――恐らくだが、トラップを遺しておくと無駄死にする人が減るからだと考えられる。トラップはリポップしないので、解除すると無くなる型が多い。そうなれば、何も知らない低レベル帯のプレイヤーがドラゴンに突撃して死んでしまうかもしれないからこその配慮だろう。


「ううん。じゃあまたなにかあったら、手紙くれ」

「ああ。なにもなくても顔を出しに行く」

「うん。いつでも」


 俺は猫の顔だが笑顔を浮かべた後、帰ることにした。


「じゃあ、また」

「ああ」


 こうして俺は、青空村の小屋へと戻ることに決めた。

 夕暮れだった空が、青空に戻る。長閑だ。


「レクスはちゃんと授業受けるかな?」


 思わず呟いてから、俺はこの日は少しの間デザインをして過ごした。その最中ふと、強いモンスターを求めていた英刻院閣下はさぞ喜ぶだろうなと思い、後でチャットしようと考えた。






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