目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第12話 高砂と僧侶職。


 ――しかし、疲れた。

 父上主導のもと、レクスと二人で撮影を終えた俺は、精神的に疲労を感じ、こういうときは、グラパラしかないと思って、呼吸するようにログインしていた。そもそも俺にモデルなんていう不向きの職業をあてがわないで欲しい、本気で。


 ログインする時の浮遊感と下降感に癒やされながら、俺はセントラルの噴水街に降り立った。昨日レクスと別れたベンチの前だ。


「ん?」


 すると、ぽっかりと俺の周囲が空いていて、ベンチを囲むように人混みが出来ていた。みんなチラチラと俺――ではなくて、ベンチに座る誰かを見ている。俺も見た。


「……」

「……」


 あちらも驚いたように俺を見た。小麦色の髪に黄緑の目をした長身の青年で、緑色の僧服姿に袈裟というアバター姿、念珠が揺れているが、手には高レベルじゃないと身につけるのが厳しい指輪をいくつか嵌めている――俺の遠い知り合いが座っていた。


 高砂だ。

 高砂は、元々はアイリス大陸を俺が攻略した直後くらい、アイゼンバルト正式追加の頃に始めた、スタートダッシュ組ではない新規プレイヤーだったのだが、ヨゼフ大陸のラフ牧師の初心者支援ギルドに最初加入していた。俺が遊びに行った時に、丁度開始三日目くらいで紹介されたことがあるので、俺は知っていた。本当に背が高い。


 アバターも僧服だが、メインの職業は僧侶だ。

 高砂は俺のようなテスト開始組ではないが、僧侶という職業において、現在不動の一位と言われている。僧侶のトップランカーだ。


 職業ランキングというのが発表されるのだが、名前の公開・非公開が選べる。俺は全職業一位だが、名前は非公開にしている。公開している一位は現在高砂だ。同率一位なわけだが、俺達はキャラレベルとは別にある職業レベルで、両方僧侶レベルLv.999なのだけれど、三位がルシフェリアのLv.890、四位がこれも俺のフレなのだが、クラウというプレイヤーのLv.670、五位がラフ牧師のLv.520――六位以下は、大体Lv.200台だ。僧侶と暗殺者は、職業レベルのレベル上げがマゾい事に定評がある。俺は時間があるからカンストできたが、同じ頃からやっていて俺よりギルド運営などでちょっと忙しいルシフェリアすらカンストできていない職業だ。つまり凄く暇か、僧侶愛がないと、副業でやるには難しい職だ。ただ、レベルを上げると、ものすごく強い。高い戦闘能力を誇る職だ。


 高砂はいうなれば、このグラパラにおいて、死ぬほど強いプレイヤーの内の一人といえる。ラフ牧師のギルドの後、あんまりにも強いから同じく僧侶のクラウが勧誘して、高砂とクラウで新ギルドを作ったという話を聞いた。アイゼンバルトの攻略にも二人で来ていたから、そこでも話した事がある。ただ、向こうが俺を覚えているかは謎だ。


 俺はログイン時に猫アバターを選択していたので、腕を組んで高砂をまじまじと見る。確かに高砂は有名人だからみんなに見られても不思議はないだろうが、なんでここに一人でいるのか不思議だ。高砂とクラウのギルドは、僧侶ギルドなのだが、なんというか――『信者』が多い。強すぎる高砂のファンの集いみたいなところがあって、クラウがリアル多忙で半分引退している現在、代理でギルマスをしている他のメンバー達にいつも囲まれている印象だ。高砂より強い人はめったにいないと思うのだが、常に護衛がいる感じ。高砂はギルマス代理は断ったと聞いたことがある。


「高砂……?」


 俺は周囲の視線が痛すぎて顔を引きつらせて笑った。


「……っ、俺の事記憶しておいでで?」

「え? あ、うん。高砂だよな? ラフ牧師のとこにいた……クラウのフレの……」

「……俺の事を探しに?」

「へ? いいや? 俺、昨日ここでログアウトしたんだよ」

「……」

「探されてるのか……? あの……めっちゃ目立ってるから、探されてるならここにいない方がいいんじゃないか?」


 俺が困惑しながら告げると、高砂が俯いた。眼鏡をかけている。お洒落だ。


「追われてるけど、逃げ場が無くて。匿ってくれるフレもいないし」

「俺もフレはほぼいないけどな、またどうして追われてるんだ? 大変だな」

「ギルドの束縛が嫌すぎて、無言で脱退したんだよ」

「なるほど」

「もう耐えられない。俺の事神だのなんだのといって、俺がちょっと雑談しただけの相手をPKするあの闇」


 PKというのは、ゲーム内のシステムで殺し合いだ。あんまり俺は好きではない。


「そ、そういうことなら、俺が普段いるタウンにくるか? あそこ人数制限があるから、人入ってこられないし」

「ゼクス様は敵じゃないの? 本当に俺を探してなかった?」

「『様』とか止めてくれよ!?」

「ゼクス様を知らないプレイヤーなんてもぐりでしょ」

「……」

「だから覚えられているとは本当に思ってなかったし」

「いや、覚えてるよ? もぐりってこともないと思うよ? それより行こう。青空村ってところだから、先に行ってる」


 俺は空笑いしつつそう告げて、転送鏡へと向かった。

 すると無言で俯き高砂がついてきた。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?