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第13話 ノリで。



 先に移動して転送鏡の前にいると、高砂がやってきた。そして目を見開いた。


「人数制限二人の街なんて本当にあるんですね」

「うん」

「でも制限以前に、『入場条件:Lv.800以上』の時点で、八割のユーザーが入場不可能だけど……え、こんなとこあったんだ……」


 高砂が驚いている。俺は小屋を見ながら歩き、ドアを開けた。


「まぁ、長くやってると色々見つけるよ。入ってくれ、これ、俺が建築スキルで立てた小屋」

「お邪魔します」


 こうして俺達は、椅子に座り向き合った。俺はお茶を出した。

 すると高砂が手を伸ばす。


「――!? 美味っ」

「ありがとうな」

「生産カンストの噂って本当ですか……?」

「敬語じゃなくていいぞ。さっきからちょくちょく崩れてるし」

「あ、うん……まぁ、うん。ゼクス……」

「ん? 生産なら、まぁ、時間廃人みたいで恥ずかしいけど、そうだよ」


 俺が照れると、高砂が驚愕したように俺を見た。


「普通に凄いよ。生産カンストって、グラパラにほぼいないよね?」

「さぁ。俺あんまりランキング見ないからな」

「そう。まぁ、全部一位だから、見るまでもないか」

「ははは。ところで高砂」


 俺はお茶を傾ける。


「お前ってフレいないの?」

「……? そっち? ギルドの話が聞きたいんじゃなくて?」

「いや、俺もフレがほぼいないからさ……よかったら、その……フレなる?」

「え、え? それは厳選してるからフレが少ないからでしょ?」

「へ? してないよ」

「……ラフ牧師とか、ゼストとか、ルシフェリアとか、そういう顔ぶれでしょ?」

「その三人はフレだ」

「それを厳選と呼ばないの?」

「いやあいつら昔からやってるだけだ。ゼストは俺の後から始めたけど」

「……目眩がする。でも、うん。いいよ、なる」


 こうして俺は、その場で高砂とフレになった。


「ギルドの話は、言って気が楽になるんなら聞くぞ?」

「……」

「でも、嫌なことがあった時は、俺は連戦に限ると思う。誰かに話すより、俺の場合は、ボスをボコボコにする方が気分が良くなるよ」


 俺は力説した。間違いない。そもそも俺に慰めるスキルはないし、俺には愚痴る相手はほとんどいないわけだが、グラパラでボスを討伐――連続で戦って倒す、通称連戦をしていると、大抵のことはどうでもよくなる。倒して、リポップを待ち、また倒して。


「どこか、連戦に行くか?」

「あ、はい。やっぱ本物のガチ勢は言うことが……そうですね。はい。自分がちょっと毒されてたことに気づいたよ。そうだよね、ゲームなんだからゲームしないと」

「そうだよ。ゲームだから」


 まぁ、人間関係部分や交流を楽しむ遊び方も否定はしないが、俺はそちらの方面はあまり詳しくないのでノーコメントとした。


「何処行く? 俺は職・暗殺者で前衛するから、高砂は職・僧侶で後衛するか? それともお互い僧侶で、速度競う?」

「ゼクスに速度で負けてさらにモヤモヤしたら今嫌だから、パーティがいい」

「はは。了解。二人だったら、そうだなぁ、最近ヨゼフ行ってないから、ヨゼフの竜巻洞窟のボスは?」

「……なんでそうさらっと最高難易度を出してくるの? ゲーム内屈指の強ボスじゃん」

「え? やりがいがある方が良くないか?」

「まぁ、そうかもね。気分転換になりそう」

「よし、行こう!」


 こうして俺が立ち上がると、高砂がお茶を飲み干してから立ち上がった。なんだか上品だった。しかし背が高い。年齢は、俺と同じくらいか少し年上だろうか。


 転送鏡の前へと向かい、ヨゼフ大陸を選んで、竜巻洞窟へと向かう。

 二人で暗い洞窟の中を進む。


「ゼクスは嫌なことがあるといつもボス討伐をしてるの?」

「んー、嫌なことがあんまり無いんだよな」

「器大きそうだよね」

「そうじゃなくて、俺ぼっちだから、何も発生しなくて。喧嘩とかってほら、一人じゃ起きないから」


 俺がありのままの事実を答えると、高砂が咽せた。


「あ、ついた」


 俺は竜巻洞窟のボスを見る。巨大な羽がついているドラゴンだ。

 羽が動くたびに、発生した風の刃が飛んでくる。


「よし、やるか」

「うん。打ち合わせとかは――」

「まぁノリで。なんとかなるだろう」

「え」


 俺は地を蹴った。そして刃を打ち落として、一回転して後退する。

 直後轟音が響き、高砂が横に薙いだ錫杖型の槍から高威力の攻撃が放たれ、ボスが地に伏した。


「タイミングばっちりだな!」

「……ゼクスなら避けられるだろうと踏んで、最悪死にかけたら僧侶スキルで死ぬのだけ阻止しようと思ってたんだけどさ、いや本音を言えば俺の攻撃を避けるなんて無理だろうから、ゼクスには死ぬギリギリになってもらって俺が回復しようと思ってたんだけど、まかさ避けるなんて……本当に、うん……これが……伝説達の中での伝説……凄すぎて表に出てこない本物……」

「高砂? 小声でブツブツ言われても聞き取れない!」


 俺が首を捻る前で、高砂が頭を振った。


「今の感じでいい?」

「うん、ばっちり。続けよう!」

「了解」


 この日俺達は、午後三時まで連戦を続けた。二時間以上ずっとボスを倒していた。お互いほぼ無言である。どんどん俺達の倒す速度は速くなり、ボスのモーションの時間が長すぎる気分になったし、リポップするのが遅く感じたほどだ。


「よし、そろそろ俺、夕食作らないと。楽しかった、ありがとうな、高砂」

「こちらこそ」


 俺の笑顔を見ると、高砂がハッとしたように言った。連戦に集中しすぎて、時間を気にしていなかったのだろう。


「はぁ……ゼクスと遊べるギルドとかあればいいのに」


 すると高砂が呟いた。それを聞いて、俺は小首を傾げた。


「ギルドくるか?」

「ゼクスはどこに入ってるの? 正直誘われるの待ってた。ゼクスのところに行ったって言ったら、誰も文句言えないだろうっていう下心もかなりある。遊びたいのは本音」

「ゼスペリアの教会っていう今は俺しかいないギルド」

「……いや、あの、ゼクス様。ゼスペリアの教会は無理です」


 俺の言葉に高砂が遠い目をした。俺は首を捻る。


「なんで?」

「伝説のギルドに俺が行けるわけないでしょ、察して。今回の俺のギルド騒動、無関係に殺される」

「高砂をPKできる人ってめったにいないだろ」

「そういうことじゃなく!」


 高砂が声を荒げたので、俺は腕を組んだ。


「じゃあ作るか?」

「――へ」

「ギルド」


 俺は我ながら名案だと思った。


「もしかして……ゼクスも、新大陸の攻略をするの? 実はギルメンとかサブマスとか幹部探してた? やっとここから再始動? 初期メンバーにしてもらえるのはありがたいけど、俺は正直今は、大規模ギルドとかは……」


 高砂が眉間に皺を寄せた。俺は何を心配されているのか分からずに首を振る。


「いや、俺とお前だけのまったりとした。人増やすならお互いに相談して」

「まさかのフレとノリで作っちゃいました系のギルド? 本気で言ってる?」

「そうそう」

「――ゼクスが本気でいいならいいよ」


 すると高砂が顎を少し持ち上げてから、思案するような目をして頷いた。

 ホッとして俺は続ける。いきなり距離近すぎたかなと焦ったせいだ。


「どっちがギルマスやる?」

「? ゼクスにきまってるでしょ?」

「なんで?」


 理由が分からず、俺は首を傾げた。すると高砂が肩を落とした。


「……ゼクスでお願いします。俺、嫌だよ、ゼクスがサブマスのギルドのギルマスとか。完全に初心者が作ったギルドをガチ勢が支援してるみたいな構図じゃん」

「なんだそれ。あ、でもそうだ、とりあえず、あと一人いないとギルドは作れないな、心当たりはあるか?」


 なお、ギルドは三人いないと設立できない。


「ないよ」

「俺もない。ゆっくりと探すか」

「そうだね」

「じゃああとで打ち合わせをしよう。いつがいい? 俺大体いつでも暇だ。午後四時から午後六時くらいはいないけど」

「とりあえず明日また話したい。明日の午前中、青空村に行くね」

「分かった」


 俺が笑顔で頷くと、高砂が錫杖を動かした。シャラランと、錫の音がする。


「ゼクス」

「ん?」

「今日は本当にありがとう。すごく気が楽になったよ」

「そうか。またやろうな」


 このようにして、俺は高砂と別れた。

 そして本日は鯖の味噌煮を作った。すると約束通り四時半にレクスが顔を出してくれた。こうして約束を守ってもらえるととても嬉しい。レクスが少し日の下に近づいた気分になる。


「いただきます」

「いただきます。レクス、今日のご飯も自信作なんだ」

「ああ、香りからしていい匂いだ。兄上は、今日もデザインをしていたのか?」

「ん、え?」

「撮影のあとだ」

「あ……いや、まぁ、そ、そんな方向性だよ」

「? 実は、おにぎりの話がまだ出来ていなかったことを思いだしてな」

「そうだな」

「やはり俺のギルドに来ないか?」


 レクスに言われたので、俺はギルドについて思いだした。


「悪いレクス、今日、フレとギルドを作ることになったんだ……! 気持ちは嬉しいんだけど!」

「ルシフェリアと!?」

「あ、全然違うフレだ」

「驚いた……ああ、でもそうか。フレと作るのか」


 レクスが俺を見て、いつになく優しい顔をした。なにか、慈しむような瞳だ。


「ギルドはいいものだぞ」

「う、うん」

「兄上にもその楽しさがきっと分かる。そのフレのこともいつか紹介してくれ」

「分かった」

「俺も兄上が心からグラパラを楽しんでくれるのなら嬉しい」

「……そ、そうだな!」


 心から楽しんでいる度合いは、俺は誰にも負けていないような気もするが、俺はそれは言わなかった。こうして、和やかに夕食の刻は進んでいった。






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