次の日、朝食を終えてから、俺はVRチェアに座り、ログインした。
時刻は、午前九時半。
午前中と話していたがいつ頃だろうか、本当に来るのだろうかと考えながら、俺は高砂を待つことに――しようと思ったら、青空村に入った瞬間、小屋の前に立っている高砂を見つけた。
「おはよ、早いな」
「うん。朝はちょっと仕事の都合で早いんだ。ゼクスはいつも今くらいなの?」
「うーん、俺は日による。弟とのご飯次第」
「そうなんだ」
そんなやりとりをしつつ、二人で小屋の中へと入った。なんとなく気分がフレーバーティーだったので、俺は桃の香りがするアイスのお茶を二つ鞄機能から取り出してテーブルに置く。
「ありがとう」
「いえいえ。でも高砂、どうしような? ギルド募集だと……俺は使ったこと無いけど、オープン掲示板かオープンチャットか?」
「大々的な募集は嫌だけど……あてがないのは事実だよね」
高砂が俯いた。俺は逆に天井を見上げる。
「ギルドに入りたそうな人がいるところにでも行ってみるか?」
「ゼクス、それってたとえば何処? 初心者を勧誘するって事?」
「特に何も考えずに発言しました、すみません。俺は初心者でもいいけど」
「俺は初心者は嫌だよ。甘やかすと煩いから」
「そういうものか。俺の周りには初心者いないからなぁ……」
高砂が咽せた。
「ゼクスの場合は、ガチ勢ですら滅多に会えないからね。こんな穴場にいたらそれはそうだけど」
「穴場ではあると思う。あ、そうだ。考えつつ、ちょっとロクサ高原に採取しにいってもいいか?」
悩んでいるだけでは、ただ時間が経つだけなので、俺は提案した。
「アイゼンバルトの西だよね?」
「うん」
「いいけど、どうしてまたあんな中級者向けで初心者も上級者もいないというより過疎が凄くて人がいない場所に? 最寄りのタウンでも、俺誰かとすれ違ったことが一度も無いけども」
高砂が不思議そうに俺を見ている。
「梅干しの素材集めがしたいんだ。倉庫にストックはあるんだけど、ちょっと大量に欲しくて」
「梅干し? 生産品? 何を作るの?」
「おにぎり」
俺の答えに、高砂が怪訝そうな顔をした。
「俺が知ってるLv.10のおにぎりと同じもの?」
「うん」
「何個くらいつくるの?」
「まぁ十万個くらいあったらいいんじゃないかとは思うけど」
「ごめん、規模が違った。その数は買い占めたら露店からおにぎりが消失するね」
何故なのか呆れたかのように高砂は窓の方を向いてしまった。
俺もそちらを見る。鳥が飛んでいる。グラパラには、モンスターでない生き物で襲ってこないこうした鳥などが存在する。
「うん。露店を荒らしたいわけじゃないんだ。俺個人が、ちょっと頼まれてて。弟が、欲しいって」
「弟さんもグラパラしてるんだ? ゲーマーなのは血筋?」
「い、いや……え、えっと……やってるけど、その」
「その?」
「……俺は弟にはグラパラして欲しくないんだ!」
「ふぅん」
俺の声に、高砂が曖昧に頷いた。
「じゃあ行こうか、ゼクス。先に行ってるよ」
「あ、行く行く!」
こうして俺達は、ロクサ高原へと向かった。ひんやりとした風が吹いている。VRでは温度などがしっかりと再現される。
アイゼンバルト自体が寒い設定なのだが、ロクサ高原は中でもひんやりとしている。
創元の所々に岩がある状態のマップだ。そこに姫小百合のような花が咲いている。
その花を採取して、生産スキルで加工すると梅干しになる。
姫小百合のような花――ナナウメ花は、各地に咲いているのだが、このロクサ高原が一番大量に採取できる。
「それで、どうしようなぁ」
俺が早速採取スキルで花を粒子にして鞄に入れ始めると、高砂が腕を組んだ。
「ねぇ、ゼクス。あちらの岩をツルハシでコンコンしてるのは、何を採取してるんだと思う?」
その言葉に、俺は顔を向けた。ここに人がいるというのは、本当に珍しいので、そちらにも驚く。
「――ああ、岩から採れる鉱石には、五十分の一の確立で、ミヤァ石が含まれるんだ。最上級回復薬Aの分類のアイテム各種の素材になる。一個一万ダリくらいだから、時間かけられるならいい金策になるよな」
俺はそう言いつつ、彫っている人を見て目を瞠る。
そこにいたのが、時東だったからだ。時東は、俺と同じで聖職者ランキングの一位だ。
聖職者は、Lv.600までは簡単にレベルが上がるので、ユーザー数も多いし、そのくらいのレベル帯の者が多い。だが、そこから先がマゾくてマゾくて全然レベルが上がらなくなる。上級のモンスター相手には、ソロも厳しいからパーティでレベル上げをするしかないのだが、大抵みんなメインが攻撃職で自分で自分を回復できる程度には聖職者職のレベル上げてを、そのくらいになってくると始めるため、パーティにも入りにくい。だが、時東はそれを成し遂げた、しかもほぼソロで。聖職者を極めるために他職を上げて。と、評判だった。ラフ牧師がそう褒めていた。
現在、白衣姿でひたすらツルハシで採掘をしている。