目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第2話:デスゲームの始まり(2)

 無事に7月15日を迎えた。早すぎる夕食と風呂も済ませ、パンツ一丁で電脳ヘルメットを被り、ベッドの上に横たわる。


 現在時刻は17:50。電脳ヘルメットを介してYoutubeでの配信を開始する。マジック・アート・オンラインの初期ログインは限定1万人だ。


 その中のさらに100人だけが生配信可能だ。そのひとりに自分が選ばれたのは努力だけでなく幸運の女神に愛されたともいえた。


「えーーー初めましての方、初めまして。これからマジック・アート・オンラインの生配信を開始しようと思います」


 定番の挨拶ともいえた。そうは言っても、自分のチャンネル登録数は100人前後だ。現在の視聴者数はたった一人。


"テルさん、がんばれー"


 たった一人の視聴者からありがたいことにコメントをもらった。それでも、とほほ……とため息をつきたくなってしまう。これが大手VTUBERならば同時接続数1万人はくだらないであろう……。


「で、ではさっそくログインしようと思います!」


 視聴者数たった一人だという現実を忘れ、いざ、ログイン開始する。キャラはβテストの時に作成したキャラをそのまま用いる。


 銀髪のミドルヘアー。陰陽師らしく長身の優男。そして、知的に見えるようにアクセサリーとして、メガネをかけている。


 イケメンにすべきだったのだろうが、そこまでナルシストにはなれなかったので、フツメン寄りにしている。


 視線の先にある陰陽師の恰好をしたアバターと目が合った。彼がニッコリとほほ笑むと同時に、彼の瞳にこちらの意識が吸い込まれる感覚に襲われる。


 次の瞬間、自分の意識が陰陽師アバターと合体した。身体の感覚がアバターとアジャストしていく。


 手を握ると意識すると、アバターも手を握る。前を向く。それに合わせてアバターも堂々とした立ち振る舞いで前を向いた。


 さすがはフルダイブVRMMOである。こちらの意識とアバターの動きが見事に連動している。違和感はまったくもってない。


 陰陽師アバターと完全にリンクしたことで、視界と世界が一気に広がっていく感覚に襲われる。


 すると現実かと勘違いするかのように中世ナーロッパの街並みが目に飛び込んできた。


「うわあ。うわあーーー!」


 感動に打ち震えてしまった。電脳ヘルメットを介して、匂いまでも感じ取れた。


 中世ナーロッパの大地を両足で踏みしめている。優しい風を手で感じ取れる。馬車が行き交う音を耳が拾う。


 自分は今ここにいる。間違いなく、ここは現実の中世ナーロッパなのだ。この感覚が味わえるからこそのフルダイブVRMMOだ。


 身体全体で感動を味わっていると、遅れてログインしてくる人物たちがどんどん増えてきた。


 今居る広場はログインすると強制的に飛ばされる場所なのだろう。20分もするとヒトの海が出来上がる。


 自分は大学ではボッチ飯の男だ。ヒトの波に揉まれることに慣れていない。人混みに酔いそうになっていたところで、空にスクリーンが展開されることになった。


 そのスクリーンには王族たちの姿恰好をした人物が並んでいる。この世界の支配者とでも言いたげである。


 そんな恰好をしている以上、誰の目から見ても、彼らはマジック・アート・オンラインの運営開発チームなのだろうと容易に想像できた。


 そんな彼らから祝辞が述べられる。


「選ばれし1万人のプレイヤーたちよ!」

「この世界の隅々まで堪能してもらいたいわ!」

「あなたたちは歴史の生き証人!」

「マジック・アート・オンラインにようこそ!」


 そんなことよりもこっちは一刻も早く、狩場に直行したい。βテストでは戦えなかったモンスターたちをばっさばっさと魔法で蹴散らしたい。


 しかし、運営開発チームの次の言葉に広場に集まる皆が耳を疑った……。


「さあデスゲームの始まりです!」

「「「ソ■■■■■オンラインのパクリじゃねえか!」」」


 広場に集まる1万人が一斉にツッコミを入れた。それも当然だといえる。


「失礼だな! デスゲームはK国のオリジナルだ!」

「「「起源まで主張するのかよ!」」」


 さすがはK国。一切の恥ずかしげもなく、そう豪語している。1万人のプレイヤーたちの怒りが今まさに頂点に達しようとしている。


 それでも、運営開発チームは怯まない。


「うるさい! お前たちジャップには死んでもらう! 死にたくなければ100階層をクリアするがよい! さあ泣き叫べ! 嗚咽しろ! K国を侮辱したことを死んで詫びろ!」

「「「誰がお前らの言うことを聞くかよ!」」」

「では……見せしめに1千人、死んでもらう!」

「「「えっ!? チョマテヨ! あばばばっ!」」」


 佐藤輝さとうあきらは目を白黒させた。いきなり隣に立っていた魔導士スタイルの男が口から血の色の泡を吹きながら倒れたのである。


「さあ、これで残り9000人だ……力を合わせるがいい。騙し合うがいい。自分なりに好きなプレイスタイルで100階層を攻略するが良いわ!」


 空に浮かんでいたスクリーンがスッ……と消えていく。運営開発チームが言っていたようにデスゲームであることは間違いないのであろう。


 多くのプレイヤーたちが泣きそうな顔になりながら、小さなスクリーンを立ち上げている。たぶん、ログアウトボタンを連打しているのだろう。


 自分も試しに小さなスクリーンを立ち上げる。このスクリーンで自分のパラメータや所持スキル、所持アイテムを確認できる。


--------------------

名前 :サトテル

モデル:ヒューマン

職業 :陰陽師


Lv  :1

腕力 :2

耐久力:10

器用さ:4

知力 :10

魅力 :4


スキル:使役術Lv1

    攻撃術Lv1


所持金:1万ゴリアテ  

所持アイテム:荒縄

--------------------


"……荒縄? デスゲームにかこつけて、女子を強制的に捕縛するんですか?"


 たった一人の視聴者からコメントを頂いた。誤解を解くためにも弁明しておく。


「いや、陰陽師の使役術のために必須アイテムんなんですよ!?」


"……必死なところが胡散臭い"


「いや、マジなんですって! これでモンスターをがんじがらめにして、強制的に契約を結んで、自分の使役獣にするんですよ!」


"それって女子とも強制契約結べるってことぉ?"


「……それは考えたこともなかったな?」


"試しにほら、女子に使ってみなよ!"


「ダメだっつーの!」


 貴重なたった一人の視聴者に悪いが、女子を荒縄で捕縛するのは無しだ。それよりも、切羽詰まったこの状況をなんとかするためのアイテムが欲しかった。


「もっとこう……デスゲーム序盤を乗り切るための必要最低限のアイテムってあるわけじゃん!?」


 佐藤輝さとうあきらこと、サトテルはどうしたものかと考える。所持金として1万ゴリアテ支給されていることはありがたい。


 これで序盤に必要なものを買い集めればいい。回復ポーションと魔力回復ポーション。これはソロ活の自分には必須だろう。


 急いで街にあるアイテムショップへと向かう。広場は混乱の真っただ中だ。未だに現実を飲み込めていないプレイヤーだらけだ。


 サトテルは他のプレイヤーたちとは違った。こういう状況になることをボッチ飯を食べながら、いつも夢想してきたのだ。


 イメージトレーニングはここにいる誰よりも出来ていた。


「俺が今置かれている状況は天が与えてくれたんだ……そうだ、俺はキリ●になるべく、デスゲームに巻き込まれたんだ!」


"妄想乙"


「……辛辣すぎるコメント、やめてくださーーーい!」


 唯一の味方であるはずの視聴者からキツめのツッコミを入れられた。


 しかし、それでも佐藤輝さとうあきらことサトテルはキリ●になる夢を叶えたくて仕方がなかった。


 デスゲームであるこの世界でこそ、自分は輝けるとそう信じてやまない。


「俺は……キリ●になりたいんだよぉ!」


"妄想乙(鼻ホジ)”

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?