大学の構内でボッチ飯を食べながらも、いつも頭の中で妄想してきた。伝説のあの男:キリ●になりたい夢が叶う時がきたのだ!
ゲーマーとしての高い能力を持っていると自負している。そして、βテストをやり込んだ。ここまでは伝説の男と酷似している。
"で、この後、どうするんです?"
「えっとですね。俺がキリ●になるには仲間を死なせてしまった過去のトラウマと美少女剣士のカノジョ候補なんですよ」
"そこは外せないですね?"
たった一人の視聴者も理解を示してくれた。自分はボッチのソロ活プレイヤーだ。このたった一人の賛同者がとてつもなくありがたい存在である。
デスゲームと化したフルダイブVRMMORPGの世界でまずは経験値を稼ぐ。絶望に打ちひしがれる他のプレイヤーたちをその場に置いて颯爽と動く。
どんなMMOにおいても、狩場はパイの取り合いだ。誰よりも早く経験値を稼ぐ。その狩場に他の冒険者が来る前に新たな狩場へと移動する。
こうすれば、自分はいつまでもトッププレイヤーにいることができる。キリ●もやってきたことなので間違いない。
ここで問題になることと言えば、仲間を失うイベントをこなさなければならないことであろう。
キリ●は過去に仲間を失ったからこそ、ア●ナを守ろうと誓ったのだ。自分もカノジョ候補に入れ込むのであれば、そういった経験をしておかなければならない気がする。
かといって、自分は害悪プレイヤーにはなりたくない。わざと仲間を死なせるような真似をした日には、二度とまともにお天道様に顔向けできない。
そして、わざとではない事故が起きて、ガチで感情移入してしまった仲間が失われてしまえば、それはそれで自分は立ち直れない気がする。
今更ながらにキリ●の精神力に脱帽してしまうしかない。
「えっと……視聴者さんに逆に質問なんですけど。ひどいトラウマにならないレベルで仲間を失うイベントを起こす方法ってありますかね?」
"うーん、どうなんだろう。全然、思い入れのないパーティに混ぜてもらうとかくらいかなぁ?"
「そ、そうですよね。その人たちを大切な仲間ガー! って思いこむ方向で行こうかと思います」
"前途を祈る(`・ω・´)ゞビシッ!!"
本当にありがたい存在だった。この視聴者は……。
ある程度、レベル上げで先行できたなら、あとで出遅れた仲良しプレイヤーたちが集うパーティにレベル詐欺しつつ、混じればいいだろう。
杜撰な計画であるが道筋は決まった。とりあえず、まずはレベルアップである。狩場はβテストの時に当たりをつけていた。
その狩場でせっせとモンスターを狩っていると、この場所に遅れてやってきたものがいた。
「お前ら……なんで!? どうして!?」
「んもう! テルお兄ちゃん、探したんだから!」
「テル師匠。デスゲームをクリアするつもりなのですね。さすがは私の憧れのヒト……」
「ダーリン♪ さあ、ボクと一緒に冒険しよ♪」
テルの前にJC美少女が3人も現れた。彼女たちは現実世界とそれほど変わらない顔立ちのアバターであったため、一目で誰が誰なのかを判別できた。
家庭教師先の生徒である
通っている合気道道場の一人娘である
住んでいるアパートの大家の一人娘の
「嘘だと言ってよ、神様! 俺にどんだけ試練をお与えになられるのですかーーー!」
彼女たちがデスゲームに巻き込まれていることを知り、戦慄を覚えてしまうしかなかった。
「なんでマジック・アート・オンラインをやってんだよ!?」
「そ、そんなのあたしの勝手じゃない!」
狩人の装備一式に身を包んでいる。さらにいくつかパーツを外して、動きやすいようにしている。
マントに軽装備な姿。ちょっとスカートが短い気がする。彼女なりの冒険のようだ。
「テル師匠のストーカーと自認していますので」
魔法騎士の剣、魔法騎士の盾、魔法騎士の鎧を装備している、がちがちの前衛ファイターだ。
「ダーリンと一緒のゲームをしたかったのー♪」
華奢な身体をダンサー衣装で隠している。これはこれでそそられるものがある。
一名、ストーカーだと自認しているヤバイやつがいるが今は気にしている場合ではない。おしゃべりをしている間にもモンスターが爪を振り下ろしてくる。
「あぶない! テルお兄ちゃん!」
「ふっ。剣の錆となれ!」
「らんらんら~ん♪ キックキックキーーーック♪」
モンスターたちが一瞬でボコられてしまった。唖然としていると、美少女JCたちがこちらへと手を差し伸べてくれる。
「んもう! あたしがいないとテルお兄ちゃんはダメなんだから! あ、あたしが守ってあげるね!?」
カエデがいきなりデレた。
「ふふっ。ふふふ……。私という存在がいながら、他の女にも唾をつけていたなんて!」
ユリカがいきなり病んだ。
「ダーリン。怪我はない? 回復のダンスを踊ろうか?」
モモコが空気を読まずに自己主張してくる。
こちらはひくひくと頬を引きつらせるしかない。
「おわたおわた……俺が伝説の男になる夢は打ち砕かれた」
打ちひしがれている中、いつの間にかyoutubeの視聴者数がひとりから100人に増えていた。さらにはコメント欄が大荒れしている。
"デスゲームなのに悠長にハーレム形成している生配信がされていると5chで聞いて参上しました"
"ウホ、これは美少女"
"うらやまけしからん!"
"
"俺もJCに慕われる人生を送りたかった……"
"てか、JCって思い切り犯罪よな?"
"児童保護の観点から言って、間違いなく配信主は犯罪者"
"JCペロペロ"
"おまわりさん、こいつです"
"配信主、とりあえず、1回死んでおこうや"
"これ、デスゲームなんだよなぁ!?"
"あ、死んだら、現実世界でもゲームオーバーだったわ、ガハハ!"
「俺は悪くねえ! なんでこんなことになったんだ!?」
チャンネル登録者数は100人前後のまま、同時視聴者数だけが増えていく。
100人、200人、300人。こんなこと、ゲーム配信を始めてから初めて起きた現象だった。失言すれば大炎上間違いなしである。
「えっと……改めて聞くけどさ。カエデは何でマジック・アート・オンラインを始めたんだ?」
「テルお兄ちゃんが家庭教師をしている時に教えてくれたじゃない」
「いや。普段、何をしているかって聞かれたから」
「テルお兄ちゃんのことだから、ボッチでMMOをやるのかなって心配したんだよ!?」
その瞬間、youtubeのコメント欄が大荒れした。ボッチの風上にも置けないと言われてしまうことになる。
次にユリカに聞いてみた。記憶が間違いでなければ、彼女にマジック・アート・オンラインをプレイすることは一切言っていない。
「ふふ……私はテル師匠のことを何でも知っています」
「俺の昨晩のオカズは?」
「Gカップバニーちゃんです。待っていてくださいね? 私は今、Dカップですけど、すぐに成長しますので!」
「怖いわ! そっちのオカズも把握してんのかよ!」
「ちなみにこのゲーム。ソ■■■■■オンラインのパクリなので、恥ずかしいから電気を消して? イベントも起こせますわ」
「どこまで把握してんだよ!? 怖すぎるわ!」
ユリカは生粋のヤバイJCだった。身の毛が総立ちになっている中、うらやまけしからんとyoutubeのコメント欄が荒れまくる。さらに視聴者数が1000人を突破した。
そこにトドメを指してきたのがモモコである。
「ダーリン♪ お弁当どうぞ♪」
「食事スキルをすでに取得しているだと!?」
「戦闘スキルはひとつも取得しなかったの♪」
「これ、デスゲームだよ!?」
「ボク、お兄ちゃんに守ってもらえればいいから~♪」
「……おわたおわた」
伝説の男:キリ●に俺はなると言っていた頃の自分をぶん殴ってやりたかった。今の自分は美少女JC3人に囲まれているハーレム状態だ。
Youtubeの視聴者数はすでに3000人を突破した……。
"キリ●ですら、ハーレム化はもっと後だっていうのに、この配信主ときたら"
"配信名変えようぜ"
"キリ●を越えた男。デスゲームを駆逐するって感じ?"
"ソレダ"
"やっぱ伝説を越えるにはそれ以上の伝説を築かないとだよなー"
誰一人、自分を擁護してくれるコメントはない。針のむしろを歩く自分の姿だけが想像できる。
「いっそ、俺を殺してくれ!」
「ダメだよ、テルお兄ちゃん! いっしょにデスゲームを攻略しよ!?」
「テル師匠。私に背中を預けてください。いや……それよりもお姫様抱っこされましょうか?」
「ダーリン♪ こんなメスガキども、どこかでコロコロしちゃおう♪ ヒロインはひとりで十分♪」
「たすけてーーー! だれかーーー!」
"やっぱこの配信主、死刑よな?"
"待て、まだ手を出してないぞ?"
"一方的にJCから迫られてるだけだしな?"
"でも冷静に考えろ。こんな美少女JCに言い寄られるだけでも死刑に値するぞ"
"そうか……じゃあ、配信主は死刑ってことで!"
"ちょうど、舞台がデスゲームだもんな!"
"テル。頑張って死刑回避しろよ?(にやにや)"
"新しいネットのおもちゃをゲットしました"
"自暴自棄になって、JCに手を出したら、即通報するからな?(にっこり)"
テルを擁護するコメントはひとつもない。
苛酷すぎるデスゲームが今始まろうとしていた……。