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第38話 素材の回収は大事だよね

 ユミの攻撃を必死にさばいている神官の背後に回り込み、腕を一本切り落とした。奇襲は成功したみたいだ。


 残った三本のうち、二本はユミへの攻撃に使い、最後の一本は俺の頭を掴もうとして迫ってくる。


 俺との間に赤いテントウムシ――葬炎虫そうえんちゅうが滑り込んで、神官の手が触れる音と同時に爆発をした。威力を最弱に調整してくれていたみたいで、俺にダメージはない。


 腕の動きが止まった間に、絶刃を振り上げる。


 腕がクルクルと宙に舞った。


「二本目!」


 さらに絶刃を振り下ろして、また腕を斬り落とす。


「三本目だ!」


 更なる追撃は止めて、神官の横に回り込む。


 思っていた通り俺の方を見てきたので、腕が減って余裕の出たユミがミスラムに命令を下す。


拘束バインド


 大剣の形が変わって触手が伸び、神官に絡みついた。


 形が変わるとは思わなかったようで、驚いた顔をしている。不意を突けたみたいだな。


 さらに追加で幽灯蝶ゆうとうちょうを出して電撃で攻撃をする。


 ドラゴンですら拘束したコンボ技だ。


 神性を持っているとしても、完全に無効化するのは難しい。電撃はほとんど効果なかったが、ミスラムの拘束によって動きは完全に止まっている。


 今だ!


 頭部を狙って突きを放とうとする。


「マスター!!」


 叫んだユミが飛び込み、横に強い衝撃を受けた。床をゴロゴロと転がる。


 立っていた場所を見ると、黒いエネルギーの塊が衝突した跡が残っていた。俺の頭上が死角になっていたので、そこを狙われていたみたいだ。


 ユミが助けてくれなかったら危なかった。


「マスターは弱いんですから、無茶しないでください!」

「ユミを助けたいから……さ」

「それは嬉しいですけど!」


 照れた顔をして俺から離れて、ユミは神官を見る。


 ミスラムの拘束から抜け出してしまったようで、俺に向かって走っている。


「マスターに触れさせません……っ!」


 新しい精霊を召喚したみたいだ。床からトゲの付いた数匹のミミズが出てくると、神官に絡まりついて締め上げていく。


 名前は茨虫いばらむしだっけな。ちょっと気持ち悪い見た目をしている。


 傷は付けられないだろうけど、窒息死は狙えるのか……?


 いや、俺の予想したとおり神霊であれば、そんなことじゃ存在は消滅しない。


 やはりコアがある頭部を破壊するしかないのだ。


 ユミが離れたことで、元の形に戻ったミスラムに絶刃を突き立てた。


融合フュージョン


 ミスラムと絶刃が一時的に合体した。これによって神性を持つこととなる。


 ユミなら大剣にして攻撃するんだろうけど、俺にそんな筋力はない。


 拘束できているとはいっても長くは持たない。この一撃で確実にしとめるためには、今まで見せたことのない方法で攻撃かつ、速攻で仕留める必要がある。


長槍ロングスピア


 ミスラムは槍に変化すると柄が伸び、茨虫を引きちぎろうとしている神官の頭部を貫く。


 パリンとガラスの割れる音が聞こえた。


 避ける素振りすらなかったので、裏をかいたのだろう。


「━━━━っ!!」


 神官は叫び声を上げると、最後の力を使って茨虫を細切れにした。


 よろよろと歩きながら、数歩前に出て俺の前に立つ。


 ユミは間に入って両腕を広げて守ろうとしてくれた。


 待っていても攻撃はない。


 ボロボロと神官の体が崩れながら、黒い煙がダンジョンの天井をすり抜けてどこかへ行ってしまった。あれが中に入っていた神霊なんだろう。気配からして悪性が強いようにも思えた。


 敵の正体は、悪神の分霊もしくは配下だったのかもしれない。


 現世に留める楔として使っていた肉体は、相当古い死体を使っていたみたいで、最後は塵の山になってしまった。


 その中に、割れた石がある。


 俺がユミに使った精霊石と同じように見えるけど、神霊を呼び寄せるほどだったので、性能はかなり高かったんだろう。


 錬金術師として興味をそそられるので、回収しようと思ったら粉々に砕けてしまった。


「あぁ……もったいない……」


 これじゃ再利用は不可能だ。


 ユミに冷たい目で見られている。錬金術のことばかり考えているのを、見透かされてしまったようだ。


「倒せたのか?」


 治療が終わったみたいだ。久我さんと誠が俺の近くに来て、塵の山を見ている。


 通常攻撃を無効化する常識外の敵だったけど、先ほどまで感じていた強い神性はなくなっているのだ。


 勝利したと思って間違いないはず。


「勝ったよ」

「……よかった」


 緊張が抜けたのか、久我さんは座り込んでしまった。


 誠は疲れている俺たちを気づかって、討伐完了報告をしに行くと言い、仲間と合流してダンジョンの外へ向かってしまった。


「それでさー。ドラゴンの素材ってもらえるのかな?」


 これだけ討伐に貢献したんだ。ちょっとぐらい、もらってもいいよね。


 内臓や肉は新鮮なうちに実験で使うとして、牙や爪はじーちゃんにお願いして加工してもらおうかな。今回の戦いで鎧が壊れたので、皮や鱗を使って新調するのもありだ。


 ドラゴンの皮を使ったドレスなんて、ユミに似合いそうだよね。


 想像するだけでワクワクする。


「残念だが、俺たちにもらう権利はない。探索者ギルドと錬金術ギルドのものだ。」

「ええ!? ずるい!」

「その分、俺たちは高い金をもらったんだから文句は言えないさ」

「でもー! ドラゴンの素材なんてお金を出しても買えないことも多いよ! ちょっとぐらいいいじゃん!」

「…………俺は疲れた。10分だけ寝る。何があっても起きないから、好きなようにしておけ」


 宣言通り、久我さんは仰向けになって目を閉じちゃった。


 どういうことだ?


 疑問に思っていると、ユミが脇腹をツンツンと指で押してきた。


「マスター、10分間だけなら目をつぶる。好きに取って良いってことですよ」

「そういうことかっ!!」


 やっと理解した。


 もう、数秒過ぎちゃったじゃないか!


 急いでドラゴンの死体を触って状態を見る。


「頭部は破壊されているけど体は無事だ。結構使えるところが多いぞ」

「マスター、欲張ったらダメです。ギルドにバレない程度の採取が望ましいですよ」

「…………くぅ、それは仕方がないか。ユミは落ちている鱗を拾っておいて!」

「わかりました」


 時間がないので役割分担だ。


 俺はミスラムから分離させた絶刃を手に持つと、足の部分の皮を剥ぎ取っていく。あえて歪な形にしておくことで、ちょっとだけ傷口を広げるような見た目にしておいた。


 カモフラージュは完璧だ。


 次は肉を削いで、骨をいくつか取って……。


「ふぁ~、よく寝た」


 時間が来てしまったらしい。久我さんは、わざとらしく大声で合図を出してくれた。


 手に持った大きなドラゴンの骨をポーチ型のマジックバッグへ入れておく。


 これでバレないだろう。


 ユミの手には鱗がないので、同じように隠したはずだ。


 討伐に参加してすごく痛い思いまでしたけど、終わってみればお金も稼げて貴重な素材も手に入る最高のイベントだった。


 これならまた参加しても良いよね。



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