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第39話 ドラゴン討伐の後処理

 ドラゴンの討伐が終わったと知った探索者ギルドは、素材を回収するための人材を連れてきた。その中に一色さんもいる。最高責任者として成果を見に来たのかな。


 俺や久我さんがミスラムのソファに座って眺めている間に、手際良く解体していきパーツを次々と地上へ運んでいく。


 ユミがあえて数個残した床に落ちている鱗すら、見逃すことはない。


 素材は全て回収するという意気込みを感じた。


 作業を眺めていると、一色さんが俺たちの所へやってきた。


 久我さんは立ち上がろうとしたけど、手を前に出してそのままでいいと合図を出される。遠慮なく座ったまま会話することにした。


「探索者がダンジョンから逃げ出したときは失敗したかと思ったが……無事に討伐してくれて感謝する」


 そういえば、神官が出てきたときに探索者たちを逃がしていたな。彼らは地上まで無事にたどり着いたらしい。


 戦線が崩壊したと噂されて、結構な騒ぎになっていそうだ。


「世界初、死者ゼロでドラゴン討伐を成功させた気分はどうだ?」

「全員生還できて良かった、そう思っています」


 久我さんは控えめに言っているけど、これは世界的なニュースになるんじゃない?


 一色さんだけじゃなく、現場で活躍した久我さんだって一気に有名人になるはずだ。


 取材とか殺到して人生は大きく変わりそう。絶対、面倒なことになる。


 俺は後方支援部隊でよかった。今の生活を維持できそうだ。


「誠から報告を聞いたのだが、ドラゴンの他にも敵がいたようだな。死体はどこにある?」


 久我さんは塵の山を指さした。


「倒したのと同時に形を保てなくなったようです」

「ふむ。一応、回収して詳細を調べておくか」


 近くにいる部下へ指示を出すと、再び俺たちを見る。


「ドラゴンと謎の魔物について、久我は討伐レポートを書いてくれ」

「わかりました。数日の時間をいただいてよろしいですか?」

「かまわん。誠や他の探索者からもヒアリングをして、まとめてくれよ」


 大変そうな仕事を任されても、久我さんは当然のように受け入れていた。


 俺だったら絶対に拒否するよ。錬金術の時間がなくなっちゃうからね。


 どうしても逃げられなければ、ユミにまるっとお願いする。頼りになる人工精霊だ。


 言いたいことを伝えた一色さんは、俺たちに背を向けて歩き出し、止まって振り返る。


「回収部隊が来る前に、素材は盗んでないよな?」


 視線は俺に向いている。いや、正確に言うならマジックバッグだろうか。


 他人から中身を覗けないため、誕生してから様々な問題を多く生み出してきた。


 例えば禁止された商品の密輸入や資産の隠蔽、商品の盗難などだ。


 仮に警察に捕まって中身を全て出せと言われても、取り出せるのは錬金術師本人のみ。中を覗いても真っ黒な空間しかないため、検査なんてどうとでもなる。


 また破壊しても中身は出てくることはないので、管理する側としては本当に迷惑なアイテムなのだ。


 そのため、現在はマジックバッグを持って国外へ行くことは禁止されていて、犯罪者として確定すると没収されることもある。


 もし今後、マジックバッグの中身を調査する道具や、他人が取り出せる道具といったものが完成したら、また世界は大きく変わっていくんだと思う。


「俺が監視してたから大丈夫ですよ」

「ふむ……久我が言うなら信じよう」


 疑わしき目を向けられている。言葉とは違って、一色さんは信じてなさそうだ。


「それに、素材が市場に出回ったらすぐにわかるしな」


 捨て台詞のように言うと、今度こそ回収班の元へ戻っていった。


 素材が市場に出る? そんなこと絶対にないよ。


 手に入れた物は、俺が全部実験に使うからね。


「ふぅ、ったくギルドの連中も少しは現場を信じろって言うんだよな」

「そうですね。マスターを疑うなんて頭おかしいですよ。さっさと失脚すればいいんです」

「二人とも……」


 素材を盗んだのに、なんでそんなことを言えるの!?


 二人とも心臓が強い! 俺なんてちょっとだけ罪の意識を……あれ? 感じてない。むしろウキウキしている。


 何に使おうなんて悩んじゃうぐらいだ。だったらまあ、いいのかな。俺も一色さんの文句を言っておこう。


「後方支援部隊だったのに戦闘をさせられたしね。クレームの一つでも言いたいぐらいだよ」


 ドラゴンの素材が手に入って忘れていたけど、戦闘は契約に入ってなかった。


 契約外の話になるけど、追加料金おねだりできないかなぁ。


「ああ、そうだ。レポートに天宮さんの活躍も書いて良いか?」

「え? 止めてよ」

「どうしてだ。有名になるチャンスだぞ」

「それが嫌なんだよね。俺は錬金術さえできれば、何もいらない。名声なんて邪魔なだけ。全部、久我さんの手柄にしていいよ」

「嘘のレポートか……どうするか悩むな……」

「この話、俺が預かっても良いか」


 会話に割り込んできた人を見ると、知晴さんだった。


 後ろには、ばーちゃんもいる。


「ダンジョンに入ってきて大丈夫なの?」

「誠と一緒に来たから問題はない。そんなことよりレポートの話だ。裕真の活躍については、ギルド同士の話し合いで調整したい。悪いようにはしないから、俺に任せてくれ」


 知晴さんにはお世話になっているから信じてもいいんだけど、頼りない感じがしたので、ばーちゃんにも聞いてみよう。


「知晴さんで大丈夫だと思う?」

「安心せい。わしがサポートする」

「だったら、まるっとお願いするよ」

「裕真、お前…………」


 知晴さんが悲しい顔になったけど、ばーちゃんの方が頼りになるんだから仕方がないじゃん。


「頑張ってください。私は応援していますから、マスターのために働いてください」

「ユミちゃん!」


 なにげに酷いことを言われたと思ったんだけど、知晴さんは目をウルウルとさせて感動していた。


 それでいいの?


 疑問には思ったけど、ここは黙っておこう。


 俺のために頑張って。応援はしているから。



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