日曜の夕刻、西方関所の空気はどこか張り詰めていた。
その中を、一団の騎馬隊が整然と進んでくる。先頭に立つのは、異国風の顔立ちをした青年――ライダーだった。
彼は成果を重視し、計画的に進む性格だが、人との距離を縮めるのに時間がかかることで知られていた。
宙と美里は門の前で待ち受けていた。
「彼がライダーよ。遠征隊を率いてくれる人」美里の声はどこか誇らしげだ。
ライダーは馬を止め、静かに一礼した。「君が宙か。噂は聞いている」
宙は少し緊張しながら手を差し出した。「よろしく」
ライダーは一瞬だけ躊躇した後、その手をしっかりと握った。
「明日からの遠征は厳しい。計画はすでに立ててある。従ってくれれば安全だ」
無駄のない言葉に、宙は思わず背筋を伸ばした。「わかった」
その後、関所の宿営地で全員が集まり、ライダーによる簡潔な説明が行われた。
「補給はこの地点で行う。夜間は交代で警戒に当たる。遅れは許さない」
全員が真剣に耳を傾ける中、宙は彼の緻密さに圧倒されていた。
説明会が終わると、宙は美里に耳打ちした。「なんか……すごく堅い人だな」
美里は小さく笑った。「すぐに打ち解けられるタイプじゃないの。でも、誠実で結果を出す人よ」
ライダーは荷物の点検を終え、宙の方を向いた。「君はまだこの世界に慣れていないと聞いた。だが、今回の遠征ではそれを理由に遅れることは許されない」
宙は一瞬むっとしたが、すぐに深呼吸した。「……わかった。全力でやるよ」
ライダーは短くうなずくだけで、再び馬へ向かった。
夜、宿営地の焚き火の周りでは、仲間たちが軽く談笑していた。しかしライダーだけは地図を広げ、明日の行軍ルートを再確認している。
宙はその姿を見ながら呟いた。「あの人、ずっとああなのか?」
美里はうなずいた。「最初は距離を感じるけど、やがて信頼できるってわかるわ」
その時、遠くの空にまた彗星の尾が伸びているのが見えた。
宙は拳を握りしめた。「……絶対に遅れない。俺も、この旅の一員なんだ」