六月十二日早朝。
救護任務を終えたばかりの調査隊は、再び地下遺跡へ向かっていた。
拓己が前夜に報告した情報によれば、地下第一層の奥で新たな裂け目が発見されたという。
「この裂け目の先が第二層に続いている可能性がある」
現場に到着すると、巨大な空間亀裂が口を開けていた。
可奈子が勢いよく声を上げる。
「先行調査、任せて!」
そのまま軽やかに飛び込もうとした瞬間、真聖が制止した。
「待て、単独行動は禁止だ」
だが可奈子は聞かず、先へ進んでしまった。
中は広大な空洞で、壁面に奇妙な音響装置のような構造が刻まれていた。
「なんだ、これ……?」可奈子が装置の一部に触れた。
その瞬間、轟音が響き渡り、空間全体が共鳴を始めた。
耳をつんざく音波が押し寄せ、隊員たちは耳を塞いだ。
つむぎが叫ぶ。「魔物じゃない、音そのものが攻撃だ!」
陽斗は周囲を見回し、声を張り上げた。
「音源を止めるには、共鳴点を探すしかない!」
真聖は冷静に計算を始め、音の反射位置を即座に特定する。
「右壁の中央! あそこだ!」
つむぎと俊介が突進し、共鳴点に打撃を与えると、音波が一気に弱まった。
静寂が戻ると、全員が深く息を吐いた。
可奈子は申し訳なさそうにうつむく。
「……ごめん、勢いで触っちゃった」
真聖は軽く笑い、肩を叩いた。
「次からは気をつけろ。でもおかげで、この層の秘密に近づけた」
第二層の反響洞は、不自然なまでに音が反射する構造だった。
陽斗は地図を描きながら首を傾げる。
「これは自然の洞窟じゃない。意図的に設計された共鳴装置だ」
拓己が小さな石を拾い、軽く壁へ投げた。音が複雑に跳ね返り、妙な和音を奏でる。
「楽器みたいだな……でも、何のために?」
その時、侑希が小声で呟いた。
「これ、心拍に似てない?」
全員が黙り込み、真聖が壁をじっと見つめる。
「輪の鼓動と同期している可能性がある」
彼は装置の一部を解析しながら続けた。
「もしここが共鳴実験施設なら、制御核の位置もこの層に近いかもしれない」
可奈子は申し訳なさそうに肩をすくめた。
「勢いで触ったけど……結果的には見つけてよかった?」
つむぎが苦笑しつつ答える。
「次はもっと礼を尽くして触りなさい」
「はーい!」可奈子は明るく返事をするが、耳まで赤くなっていた。
調査を終えた一行は地上へ戻った。
出口で待っていたフェリドが資料を受け取り、感慨深げに頷いた。
「よくぞ無事で……この成果は王国にとっても大きな一歩だ」
真聖は無言で資料を見つめ、胸中で決意を固めた。
(この遺跡と輪……必ず解き明かす。そして帰還の道を見つける)
彼の冷静な瞳には、わずかながら熱が宿っていた。