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第10話_遺跡第二層・反響洞

 六月十二日早朝。

  救護任務を終えたばかりの調査隊は、再び地下遺跡へ向かっていた。

  拓己が前夜に報告した情報によれば、地下第一層の奥で新たな裂け目が発見されたという。

  「この裂け目の先が第二層に続いている可能性がある」

  現場に到着すると、巨大な空間亀裂が口を開けていた。

  可奈子が勢いよく声を上げる。

  「先行調査、任せて!」

  そのまま軽やかに飛び込もうとした瞬間、真聖が制止した。

  「待て、単独行動は禁止だ」

  だが可奈子は聞かず、先へ進んでしまった。

  中は広大な空洞で、壁面に奇妙な音響装置のような構造が刻まれていた。

  「なんだ、これ……?」可奈子が装置の一部に触れた。

  その瞬間、轟音が響き渡り、空間全体が共鳴を始めた。

  耳をつんざく音波が押し寄せ、隊員たちは耳を塞いだ。

  つむぎが叫ぶ。「魔物じゃない、音そのものが攻撃だ!」

  陽斗は周囲を見回し、声を張り上げた。

  「音源を止めるには、共鳴点を探すしかない!」

  真聖は冷静に計算を始め、音の反射位置を即座に特定する。

  「右壁の中央! あそこだ!」

  つむぎと俊介が突進し、共鳴点に打撃を与えると、音波が一気に弱まった。

  静寂が戻ると、全員が深く息を吐いた。

  可奈子は申し訳なさそうにうつむく。

  「……ごめん、勢いで触っちゃった」

  真聖は軽く笑い、肩を叩いた。

  「次からは気をつけろ。でもおかげで、この層の秘密に近づけた」



 第二層の反響洞は、不自然なまでに音が反射する構造だった。

  陽斗は地図を描きながら首を傾げる。

  「これは自然の洞窟じゃない。意図的に設計された共鳴装置だ」

  拓己が小さな石を拾い、軽く壁へ投げた。音が複雑に跳ね返り、妙な和音を奏でる。

  「楽器みたいだな……でも、何のために?」

  その時、侑希が小声で呟いた。

  「これ、心拍に似てない?」

  全員が黙り込み、真聖が壁をじっと見つめる。

  「輪の鼓動と同期している可能性がある」

  彼は装置の一部を解析しながら続けた。

  「もしここが共鳴実験施設なら、制御核の位置もこの層に近いかもしれない」

  可奈子は申し訳なさそうに肩をすくめた。

  「勢いで触ったけど……結果的には見つけてよかった?」

  つむぎが苦笑しつつ答える。

  「次はもっと礼を尽くして触りなさい」

  「はーい!」可奈子は明るく返事をするが、耳まで赤くなっていた。

  調査を終えた一行は地上へ戻った。

  出口で待っていたフェリドが資料を受け取り、感慨深げに頷いた。

  「よくぞ無事で……この成果は王国にとっても大きな一歩だ」

  真聖は無言で資料を見つめ、胸中で決意を固めた。

  (この遺跡と輪……必ず解き明かす。そして帰還の道を見つける)

  彼の冷静な瞳には、わずかながら熱が宿っていた。

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